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探偵ではありません。経理です。  作者: Silvertiger
第15話 第三話・第六章 『影を抱えたプレゼンター』 ―エピローグ―

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第15話 第三話・第六章 『影を抱えたプレゼンター』 ―エピローグ―

第三話・第六章


『影を抱えたプレゼンター』


 ―エピローグ―



 ◆ エピローグ:海風の静かな午後


 イベント最終日の午後。

 人工島のアリーナは、撤収作業の音が遠くに響くだけになり、

 潮風が静かに吹き抜けていた。


 営業部控室では、

 美咲と由紀が並んで座り、

 今日の成功を噛みしめていた。


 由紀のプレゼンは見事に成功した。

 声はよく通り、観客の反応も上々だった。

 美咲の補足説明も的確で、

 営業部の評価は大きく上がった。

 来場者からの質問と商談の席に行列ができていた。

 美咲と由紀は、イベント終了時刻を過ぎても、他の営業担当と共に、途切れない来場者の応対に追われていた。


 ◆ フェイスとラビット、評価会議


 本社の役員フロア。

 フェイスCFOとラビット経理部長は、黒川営業部長の報告書を読み終え、

 同時に深いため息をついた。


 フェイス

「……またサトウが解決してくれたのね。

 経理部の枠を軽々と飛び越えて働いてるわ」


 ラビット

「ええ……評価をどうするか、本気で悩んでるんです。

 今回のような“事件対応”は評価項目にないんですよ」


 フェイスは書類を閉じた。


「でも、評価しないわけにもいかないでしょう。

 営業部、いや会社の危機を救ったんだから」


 ラビットは苦笑した。


「評価を上げすぎると、また営業部から引っ張られますよ。

 経理部としては困るんです」


 黒川は静かに言った。


「サトウ君は、“事実が正しく扱われること”を重んじる男です。評価はきちんとしてやらないと『整合性が合いません』と苦情がでるぞ」


 フェイスは肩をすくめた。


「……それが一番難しいのよ、黒川部長。

 実は、情報システム管理部から苦情が来ていたの。

 イベント会場の通信用サテライトに最高権限者のアクセスが集中しているって。

 営業部の依頼でCFOとして、イベントの状況をチェックしていたと答えておいたわ」

 三人はしばし沈黙した。


 その沈黙は、

 サトウという“扱いの難しい優秀さ”への戸惑いと敬意が入り混じったものだった。


 ---


 ◆ 美咲と由紀、サトウへ感謝


 アリーナの片隅。

 サトウは、情報システム部の担当者にまじって、機材の撤収を進めていた。

 情報システム部の社員がつぶやく。

「この人、我々より高スペックの端末を使っているよ。うちの担当じゃないよね?」

 サトウは、彼を見つめ微笑んだ。

「私は経理部のサトウです。営業のお手伝いに来ていました」


 美咲と由紀が近づいてきた。


 美咲

「サトウさん……本当にありがとうございました。

 あなたがいなかったら、私たち……どうなっていたか」


 由紀

「私……怖かったんです。でも……助けていただいて……

 お礼をさせてください」


 サトウは二人を見た。

 その表情は、いつものように揺れがない。


「お気持ちだけで十分です。

 残業手当と経費は申請済みです」


 美咲と由紀は同時に固まった。


 美咲

「…………はい?」


 由紀

「い、いえ……そういう意味じゃなくて……

 気持ちとして……!」


 サトウは淡々とではなく、

 乾いた声で答えた。


「気持ちだけで結構です。

 業務として対応しました。

 個人的な謝礼は不要です」


 美咲は完全に呆然とした。


(……この人、本当にブレない……)


 由紀も同じく困惑していた。


(どうやってお礼すればいいの……?)


 サトウは機材をまとめ、車に運んだ。

 軽い足取りで控室を後にした。


 ---


 ◆ 海風の中で


 アリーナの外。

 夕焼けが海に反射し、

 人工島のシルエットが赤く染まっていた。


 美咲と由紀は並んで歩きながら、

 今日の出来事を思い返していた。


 美咲

「……サトウさんって、とんでもない人だね」


 由紀

「はい……でも、ちょっと変わってますね……」


 二人は笑った。

 その笑いは、

 事件の緊張から解放された、柔らかい笑いだった。


 海風が吹き抜け、

 アリーナの看板が静かに揺れた。


 事件は終わった。

 しかし――

 彼らの日々は続いていく。


 そして、

 また新しい物語が始まるのだろう。


 ---

 

 以下に、今回のエピソードに登場した重要な用語をわかりやすく解説しました。


 ■ ビジネス・社内システム関連

 臨時入館証(りんじにゅうかんしょう)

 解説:社員ではない外部の人が、一時的に会社やイベント会場に入るための許可証です。本来は厳重に管理され、「誰が発行を許可したか」という記録(ログ)が必ず残る仕組みになっています。

 例:学校の文化祭で、部外者が入るためにもらう「受付済みのリボン」や「ゲストカード」のようなものです。


 発行ログ(はっこうログ)

 解説:コンピュータシステムが自動的に記録する「動作の履歴」のことです。今回の事件では、誰のIDを使って、いつ、どのパソコンから入館証が作られたかを特定する決定的な証拠となりました。

 例:図書室の貸出記録を見れば、「いつ、誰がその本を借りたか」が一目でわかるのと同じ仕組みです。


 給与査定・賞与(きゅうよさてい・しょうよ)

 解説:社員の働きぶりを評価して、給料の上げ幅やボーナス(賞与)の額を決めることです。三枝課長は、自分の評価が「平均以下」であることに強い不満を抱いていました。

 例:学期末の「通知表」の結果によって、お小遣いの額が変わるようなイメージです。


 ■ コンプライアンス(法令遵守)・不正関連

 接待費用の領収書偽造(せったいひようのりょうしゅうしょぎぞう)

 解説:仕事上の食事代などを会社に請求する際、実際とは違う金額や内容の領収書を勝手に作ることです。三枝課長は、ギャンブルの借金を返すために、この手口で会社からお金を騙し取っていました。

 例:親におつかいを頼まれた際、100円のノートを「300円だった」と嘘のメモを書いて、差額を自分の懐に入れるような行為です。


 接近禁止命令(せっきんきんしめいれい)

 解説:裁判所が、特定の人に対して「被害者に近づいてはいけない」と命じる公的な手続きです。今回、由紀さんの安全を守るために、サトウと美咲は警察を通じてこの手続きを進めました。

 例:先生が「これ以上喧嘩をしないように、お互いの席を離して近づくのを禁止する」という命令を、もっと厳格に法律で行うものです。



 ■ 主人公・サトウの専門領域

 整合性の補填(せいごうせいのほてん)

 解説:サトウの哲学で、狂ってしまった「数字」や「状況」を、正しい状態に戻すことを指します。今回の事件でも、不正を暴くだけでなく、被害者が再び前を向けるように環境を整えることまでを「精算」の一環と考えています。


 裏の取引(秘匿取引)

 解説:公式なルール(規定)から少し外れたところで、目的を達成するために行う交渉です。サトウは「無断設置の監視カメラ」という黒川部長の弱みを握ることで、調査に必要な「三枝課長の個人記録」を手に入れました。

 例:友達の秘密を黙っている代わりに、探し物を手伝ってもらうような、お互いの利益のための「秘密の約束」です。


 残業手当と経費(ざんぎょうてあてとけいひ)

 解説:サトウが「業務として動いた証」です。彼は個人的なお礼や感謝を受け取らず、あくまで「仕事」として完結させることにこだわります。

 例:ボランティアではなく、プロとして対価をもらっているからこそ、完璧な仕事を成し遂げるという彼のプライドの表れでもあります。




あとがき


「探偵ではありません。経理です」シリーズの第三話 『影を抱えたプレゼンター』をお読み頂き、ありがとうございます。

 サトウやその他の登場人物の個性が、少しですが形になってきました。

 このシリーズをもう少し、続けようと思います。

 お時間があれば、お付き合いください。

 また、「見たよ」とか、ご感想をいただければ嬉しいです。




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