第14話 第三話・第五章 『影を抱えたプレゼンター』 ―暴かれた不正―
第三話・第五章
『影を抱えたプレゼンター』
―暴かれた不正―
アリーナのシステムルーム。
サトウは黒川部長から受け取った「三枝課長の個人記録」を開いた。
画面には、
年度ごとの自己申告、
黒川部長の評価、
営業成績、
勤務態度、
内部監査の記録が並んでいた。
サトウは黙々とスクロールした。
◆ 三枝の評価と不正
「……自己申告は毎年“高評価”。
しかし、黒川部長の評価は“平均以下”か」
美咲が覗き込む。
「課長なのに……平均以下ですか?」
「はい。
営業成績は悪くありませんが、
部下育成・協調性・コンプライアンス遵守の項目が著しく低いね」
美咲は息を呑んだ。
「……黒川部長、きちんと評価していたんですね」
サトウは三枝の評価を読み続けた。
「さらに――
営業費の私的流用の疑いが複数あります」
美咲は目を見開いた。
「えっ……私的流用って……犯罪じゃないですか?」
「はい。
接待費用の領収書偽造、
架空の交通費申請、
備品購入の不正処理。
内部監査の記録に残っています」
美咲は震えた。
「……そんなことまで……」
サトウは画面を指差した。
「さらに、街金からの借金。
返済遅延の記録もあります」
美咲は言葉を失った。
「……三枝課長、そんな状態だったんだ……」
サトウは端末を閉じた。
「では、本人に確認しましょう」
◆ 三枝のホテルへ
夜のアリーナを出て、
サトウと美咲は三枝が宿泊しているホテルへ向かった。
フロントで部屋番号を確認し、
エレベーターで上の階へ行く。
美咲は緊張して手を握りしめていた。
「……サトウさん、私、怖いです。」
「大丈夫です。私がいます」
美咲は少しだけ笑った。
(この人、本当に頼りになる……)
◆ 三枝との対峙
三枝の部屋の前に立ち、
サトウがノックした。
「……誰だ?」
扉が開くと、
三枝は缶ビールを片手に立っていた。
美咲を見るなり、顔を歪めた。
「……美咲君か。
こんな時間に何の用だ」
サトウが一歩前に出た。
「三枝課長。経理部のサトウです。
臨時入館証の不正発行についてお聞きします」
三枝の顔が固まった。
「……は?
何を言って――」
サトウはタブレットを鞄か取り出し、
監視カメラの映像を再生した。
由紀のPCに座り、
IDとパスワードを入力する三枝の姿が映っていた。
三枝は青ざめた。
「……こ、これは……」
美咲が声を荒げた。
「課長……どうしてこんなことを!?」
三枝は後ずさった。
「ち、違う……これは……
俺は……悪くない……!」
サトウは穏やかに告げた。
「営業費の私的流用。
領収書偽造。
街金からの借金。
そして由紀さんのIDを使った不正発行、
全て証拠が揃っています」
三枝は膝から崩れ落ちた。
「……俺は……
評価されなかったんだ……
黒川部長が……俺を……!」
美咲は涙をこらえながら言った。
「だからって……
由紀ちゃんを傷つけていい理由にはなりません!」
三枝は震える声で言った。
「……違う……俺は……
頼まれたんだ……!」
サトウの目が細くなった。
「誰にですか?」
三枝は唇を噛んだ。
「……競合他社の……担当部長だ……
“イベントを少し混乱させてほしい”って……
報酬は……月給一ヶ月分……
俺は……金が必要で……」
美咲は息を呑んだ。
「そんな……課長……」
三枝は頭を抱えた。
「……俺は……利用されたんだ……
あいつは……俺を唆したんだ……
ただ……君たちが失敗すれば……
でも……俺は……もう……どうにもならなくて……」
サトウはタブレットの録音停止ボタンを押した。
「自白を確認しました」
◆ 黒川部長への報告
翌朝。
サトウと美咲は黒川部長の執務室に向かった。
黒川は二人の顔を見るなり、
緊張した表情になった。
「……どうだった?」
サトウは淡々と答えた。
「三枝課長の不正を確認し、
本人の自白を取りました。
競合他社からの依頼も認めています」
黒川は深く息を吐いた。
「……そうか……
あいつ、そこまで……」
美咲は静かに言った。
「由紀ちゃんの安全も確保しました。
昨晩、警察と相談して、元夫には接近禁止命令を裁判所から取る手続きをしました。
今日彼が会場に現れたら、入館証の不正取得で拘束する手配ができています」
黒川は目を見開いた。
「そこまで……やってくれたのか……」
サトウは淡々と頷いた。
「整合性を守るためです」
黒川は笑った。
「……本当に頼りになるな、君たちは」
◆ 美咲と由紀、再びステージへ
控室では、
由紀が震える手で資料を持っていた。
美咲がそっと肩に手を置く。
「由紀ちゃん。
もう大丈夫。
全部、解決したから。
さっき、警備員から元夫を拘束して、警察官に引き渡したと連絡をもらったわ」
由紀は涙を浮かべた。
「……美咲さん……
ありがとうございます……」
サトウが静かに言った。
「プレゼンに集中してください。
整合性は取れています」
由紀は笑った。
「はい……がんばります」
そして――
二人は再びステージへ向かった。
事件は収束し、
新しい一日が始まる。




