↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
探偵ではありません。経理です。  作者: Silvertiger
第13話 第三話・第四章『影を抱えたプレゼンター』 ―三枝課長の影―

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
13/25

第13話 第三話・第四章『影を抱えたプレゼンター』 ―三枝課長の影―

第三話・第四章


『影を抱えたプレゼンター』


 ―三枝課長の影―



 営業部の三枝課長は、

 イベント初日の夜、アリーナ近くのビジネスホテルの一室で、

 缶ビールを握りしめていた。

 テレビはつけっぱなし。


 画面の光だけが、薄暗い部屋を照らしている。

 三枝は、今日のプレゼンの様子を思い返していた。

 美咲と由紀がステージに立ち、

 観客の視線を集めていたあの瞬間。

 胸の奥に、焼けるような嫉妬が広がった。


 由紀が元夫と会い動揺したことで、見事にプレゼンは失敗した。

 三枝は、それで少しは気分が晴れた。

 その顔には、暗い笑いが浮かんだ。


 ◆ 黒川部長への不満


「……なんで俺じゃないんだ。」

 三枝は呟いた。

 今回のイベントは、営業部にとって年に一度の大舞台だ。

 課長である自分が任されるべき仕事だと思っていた。

 そう信じて疑わなかった。


 しかし――

 黒川部長は、美咲と由紀を選んだ。

 美咲は課長代理。

 自分の地位を脅かす存在。

 由紀はパート社員。

 本来なら補助的な役割のはずだ。


「……黒川部長は、俺を評価していない」


 そう感じて、日々が過ぎていった。

 給与査定も賞与も芳しくない。

 営業成績は悪くないはずだ。

 だが、評価はいつも“平均以下”。

 黒川の自分への態度は、どこか冷たい。

 その冷たさが、三枝の心をじわじわと蝕んでいった。


 ◆ ギャンブル依存と金策


 三枝は、そのストレスをギャンブルで紛らわせるようになっていた。

 最初は軽い遊びだった。

 だが、勝てば興奮し、負ければ取り返そうとする。

 気づけば、営業費の私的流用に手を出していた。

 接待費用の領収書を偽造し、会社から騙し取った。


「……誰でもやっていることだ」


 そう思っていた。

 しかし、借金は膨らみ、

 街金からの督促が携帯に届くようになった。

「……金が必要だ」

 焦りが、三枝の判断を鈍らせていった。


 ◆ 競合他社との接触


 そんな時だった。

 競合他社の担当部長――

 冷静で、どこか人を見透かすような男が、三枝に接触してきた。


「三枝さん。

 あなた、営業部で評価されていないでしょう?」


 図星だった。


「うちに来ませんか?

 あなたほどの人材なら、もっと高く評価しますよ」

 その言葉は甘い蜜のように聞こえた。


 だが――

 男の目は笑っていなかった。

 男は封筒を置いた。


 中には、

 三枝の月給一ヶ月分程度の現金 が入っていた。

 借金を返すには足りない。

 だが、今すぐ必要な金ではあった。

「あなたの力を、少しだけ貸してほしい。」


 男は続けた。

「イベントが少し混乱すれば、

 うちの新製品が注目されるんです」


 その声は、三枝の弱い心を正確に突いてきた。

 男は、三枝が封筒を急いでポケットに入れる様子を静かに見ていた。

(利用価値は“その程度”だ)

 男は、三枝を評価していなかった。


 ギャンブル狂の無能。

 使えるうちは使い、用済みになれば捨てるつもりだった。


 ◆ 由紀の家庭事情を利用


 イベントの準備が進む中、

 三枝は由紀を採用した時のことを思い出した。

 面接で、

 彼女が離婚後も元夫に悩まされていることを知った。


 研修を担当した際、

 PCの操作方法、

 IDとパスワードの保存方法も教えた。

「……由紀のIDなら、使える」


 由紀は真面目で、

 パスワード管理も素直に指示通りにしていた。

 三枝は、その“素直さ”を利用した。


 ◆ 妨害工作の決断


「……俺だって、必死なんだ」

 三枝は、自分に言い聞かせるように呟いた。


 黒川部長への不満。

 美咲への嫉妬。

 由紀への軽侮。

 借金の焦り。

 競合他社からの誘惑。

 そして、自分が評価されないという劣等感。

 それらが絡み合い、

 三枝の心を濁らせていった。


 そして――

 由紀のPCに座り、

 彼女のIDで臨時入館証を発行した。

 元夫に渡せば、由紀は動揺する。

 プレゼンは崩れる。

 イベントは混乱する。

 競合他社は得をする。

 自分は報酬を得る。

「……これでいいんだ。」

 そう思い込もうとした。


 しかし――

 胸の奥に、小さな罪悪感が残った。

 それでも、三枝は目を閉じた。


「……俺は悪くない。

 悪いのは、俺を評価しない黒川部長だ」

 その言葉は、

 自分自身への言い訳だった。


 そして――

 三枝は、自分が踏み越えてはならない一線を越えた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。