第12話 第三話・第三章『影を抱えたプレゼンター』―美咲とサトウの合流―
第三話・第三章
『影を抱えたプレゼンター』
―美咲とサトウの合流―
アリーナのシステムルームは、
イベント会場とは対照的に静まり返っていた。
巨大なサーバーラックが並び、
冷却ファンの低い唸りだけが響いている。
その中で――
サトウは持参した機材を淡々とセットしていた。
LANケーブルを接続し、
ログ解析用の端末を起動し、
入館証発行システムのバックアップを取得する。
「……まずは発行ログの整合性確認だ」
サトウは独り言のように呟き、
キーボードを叩き始めた。
◆ 美咲、システムルームへ
その頃、美咲は控室で黒川部長から説明を受けていた。
黒川は美咲から、由紀が少し落ち着いたと聞いて、安堵のため息をついた。
「美咲君、経理部からサトウ君が来てくれた。
入館証の不正発行を調べてくれるそうだ」
「えっ、サトウさんが?
経理部の……あの、噂の?」
黒川は苦笑した。
「そう、“噂の”だ。
数字と整合性を武器に容赦なく戦う男だ。
内緒だが営業部のトラブル対応は二件目だ」
美咲は息を呑んだ。
「……すごい人が来てくれたんですね」
「システムルームにいる。
君も行って、状況を説明してくれ。
だが、邪魔はするなよ」
美咲は頷き、
アリーナの奥へと向かった。
◆ 初対面
システムルームの扉を開けると、
中にはサトウがいた。
端末の画面を見つめ、
無駄のない動きでキーボードを叩いている。
美咲は一瞬、声をかけるタイミングを失った。
(……すごい集中力……
経理部って、こんな人がいるんだ……)
サトウは気配に気づき、
ふと顔を上げた。
「営業部の美咲さんですね」
美咲は驚いた。
「えっ……どうして私の名前を?」
「黒川部長から聞きました。
今回のプレゼン担当の責任者だと」
美咲は慌てて頭を下げた。
「はい!
美咲です。
由紀ちゃんのプレゼンが……その……妨害されて……」
サトウは淡々と頷いた。
「臨時入館証の不正発行が疑われています。
整合性を確認しますので、今日の状況を教えてください」
美咲は息を整え、
由紀の元夫が突然現れたこと、
臨時入館証を持っていたこと、
由紀が動揺してプレゼンが崩れたことを説明した。
サトウは一言だけ言った。
「整合性がありませんね」
美咲は思わず苦笑した。
「……噂通りですね、サトウさん」
「何がですか?私は噂は知りません」
美咲は肩の力が抜けた。
(この人、怖そうだけど……
なんだか安心する……)
◆ 二人の役割が交差する
サトウは端末の画面を指差した。
「臨時入館証は、発行者の権限が必ずログに残ります。
誰が、いつ、どの端末で発行したか。
それを確認すれば、犯人がわかります。」
美咲は息を呑んだ。
「そんなことまで……わかるんですか?」
「経理システムは、嘘をつきません。」
美咲は思わず笑った。
「……頼りになりますね」
サトウは淡々と返した。
「仕事です」
美咲は、
由紀の震える肩を思い出した。
「サトウさん……
由紀ちゃんを助けたいんです。
お願いします」
サトウは静かに頷いた。
「実態がわかれば、助けられます」
その言葉は、
美咲にとって何よりも心強かった。
そして――
二人は初めて同じ方向を向いた。
事件の核心へと、
歩み始める。
◆ 第三章:美咲とサトウの合流(後半)
(シリーズ第三作「影を抱えたプレゼンター」)
サトウは端末の画面を見つめながら、ログ解析を進めていた。
「……臨時入館証の発行ログ、取得完了。」
画面には、発行者ID、発行端末、発行時刻が並んでいる。
サトウは眉をひそめた。
「この日時……由紀さんのIDが使われていますね。」
美咲は息を呑んだ。
「えっ……由紀ちゃんが発行したってことですか?
それはあり得ません。
由紀さんはその時間帯、私と別室でリハーサル中でした。」
「なるほど、間違いないですね?」
「はい……間違いありません。」
サトウは淡々と続けた。
「つまり――
由紀さんのIDとパスワードを使って、
“別の人物”が発行したということです。」
美咲は震える声で言った。
「そんな……誰が……?」
サトウは画面をスクロールし、別のログを開いた。
「……発行端末は営業部の共用PC。
由紀さんが使用許可されたPCです。」
美咲は目を見開いた。
「由紀ちゃんのPC……?
でも、由紀ちゃんは触っていません!」
「だから整合性がありません。」
サトウは淡々と答えた。
◆ サトウ、極秘映像の存在に気づく
サトウがさらにログを確認していると、
画面の端に小さなアイコンが表示された。
「……これは?」
美咲が覗き込む。
「何ですか、それ?」
「営業部の監視カメラの映像記録ですね。」
美咲は固まった。
「えっ……営業部に監視カメラなんてありませんよ?」
サトウは淡々と答えた。
「“極秘で設置されている”ようです。」
美咲は息を呑んだ。
「そんな……誰が……?」
サトウは静かに言った。
「こんなことをするのは黒川部長でしょう。」
◆ 映像の再生
サトウは映像を再生した。
画面には――
営業部の共用スペースが映っている。
流れる時刻表示は、
由紀が美咲と別室でリハーサルしていた時間帯。
そして――
映像の端に、由紀のPCの前に座る男がいた。
美咲は息を止めた。
「……これは……三枝課長!」
「間違いありませんか?」
三枝は周囲を確認し、
由紀のIDとパスワードを入力し、
臨時入館証を発行していた。
美咲は震えた。
「……課長が……由紀ちゃんのIDを……」
サトウは静かに頷いた。
「整合性が取れました。」
◆ 黒川部長との“秘匿取引”
サトウと美咲は、映像を持って黒川部長の控室へ向かった。
黒川は映像を見るなり、顔を覆った。
「……なんだと!……三枝か……」
サトウは淡々と告げた。
「黒川部長。
この監視カメラは、労働組合への説明と承認を得ていませんね。」
黒川はコーヒーを吹きそうになった。
「な、なんでそれを……!?
いや……その……このところ営業部内で不祥事があったり、
物が無くなったり、トラブルが続いてね。
組合との協議が間に合わんかったんだ。試験運用のつもりだった……」
サトウは淡々と続けた。
「組合との協約では、試験運用でも説明が必要です。」
黒川は頭を抱えた。
「君はほんと容赦ないな……!」
美咲は唖然として二人を見ていた。
「えっ……部長、これ……協約違反なんですか……?」
黒川は苦笑した。
「そうだよ、美咲君……
これは“会社的に”かなりマズいんだ……」
サトウは静かに言った。
「しかし、この映像がなければ、
由紀さんの元夫に入館証を発行した犯人は判明しなかったですね。」
黒川は深く息を吐いた。
「……そうなんだよ。
だから助かったんだよ。
でも協定違反か……」
サトウは淡々と告げた。
「黒川部長。
監視カメラの秘匿を黙認する代わりに、
三枝課長の個人記録を提供してください。」
美咲は叫んだ。
「えっ!?
個人記録って……そんなの見ていいんですか!?」
黒川は椅子からずり落ちそうになった。
「いやいやいや!
それは最も重い規定違反だぞ!?
サトウ君、本気か……!」
「この事件の解決に必要なことです。」
黒川は深く息を吐いた。
「……わかった。
これは君と私の間だけだ。
誰にも言うなよ。」
サトウは頷いた。
「もちろんです。
監視カメラの件も、部長と私の間だけで。」
美咲は口をぱくぱくさせた。
「えっ……えっ……?
それって……二人とも……規定違反を……?」
黒川とサトウは同時に美咲を見た。
そして――
声を揃えて言った。
「美咲君。
君も共犯です。
沈黙は金です。」
美咲は固まった。
「ええええええええええええええええっ!」
黒川は肩をすくめた。
「美咲君、会社ってのはね……
時々こういう“裏の仕事”が必要なんだよ。」
サトウは淡々と告げた。
「整合性を守るためです。」
美咲は頭を抱えた。
(……なんで私まで共犯に……!?
でも……由紀ちゃんを助けるためなら……)
そして――
三人は事件の核心へと踏み込んでいく。




