6話
「あの〜…」
扉を開けて中に誰かいるのか声をかけた。
屋内には誰もいなかったがカウンターの奥の扉が開きっぱなしで、そこからは僅かにガタゴトと物音が聞こえる。
誰もいないわけでは無さそうですわね。
アメリアはカウンターへ近づいてもう一度声をかけた。
ややあって、奥から初老の女が出てきた。
女はチェーンのかけられたメガネを首から下げている。何か作業をしていたのから白い手袋をはめたままの彼女は、下げているメガネを顔にかけた。
眉間に皺が寄っている。作業を止められたからなのかあるいは元々その人相なのか随分と機嫌の悪そうに見えた。
「…どなた?この辺では見ない顔だね。」
「あ、わ、わたく…私は…」
「もう今日はここを締める時間なんだけどね。」
「…すみません」
「まあ入ってしまったからには仕方ないわね。あんた身分証は?」
(身分証?)
「…まさか、あんた身分証無いの?」
「身分証とはどのようなものでございましょう…」
女は中指につけていたシルバーのリングを外してアメリアに見せた。
覗くとリングの裏側には何か刻印がされていた。
──カレン・ホラス──母エミリー父ゴードン──
「貴族でないならどこへ行くにもリングの身分証が必要だよ。無いなら何も紹介ができない。」
「そ、そこをなんとか!」
「あんた貴族かい?何にしてもそんな格好で職探しする貴族なんて訳アリだろう。仕事を仲介してトラブルなんて起こったらここが潰されるかもしれん。
そんな危ない橋を渡るわけには行かんのよ。あんた以上に仕事を欲してる奴はこの国にはごまんといる。」
カレンはアメリアの服装を見てもう一度言う。
「庭師の真似事なのか、ただのガーデニング趣味なのかわからんが、仕事をする奴はそんな小綺麗なままじゃ効かないはずさ。これから始めるなら学校からの仲介があるだろう。」
「な、なれば良い宿はありますか?お金はそんなに無いから高級宿は難しいのだけれど…」
「あんたここは観光案内所じゃないよ。職探し以外なら他を当たりな。」
しっし、と手で払われるとアメリアはなす術もなくトボトボと広場へと戻るしかなかった。
広場にあるベンチに腰掛け、すっかり暗くなった空を見上げながら乾いた笑いをこぼす。
「勢いで飛び出したツケが回ったのかしらね。」
開き直ってベンチに寝転がった。
「春先の夜は冷えるから室内に入りたいけど一文なしじゃ何にもできないですわ。」
アメリアがふと目に止まった花壇には、チューリップが生えていた。薄いピンク色の花はビオラだろうか。
春の花が広場に彩りを与えて、とても美しかった。
「…あーあ、ここでもいいからなんかそういう仕事欲しいのに…」
とはいうものの、この花壇はきっと王城の管理下だろう。だからよほどの美しさを保てているのだ。
今日出てきたばかりなのに、現実を突きつけられて心が折れそうだった。
「まあ!ダメですわアメリア!シャキッとなさい!」
両頬をぺちん!と叩いてベンチから体を起こすと、まずは寝床を探さねば、とまた立ち上がった。




