3話
「アメリア…」
騒ぎを聞きつけた母のリリーは、アメリアの自室にやってきた。部屋着のままベッドに突っ込んで何も言わない娘に、リリーはため息をつきつつ尋ねた。
「何故そこまで頑なにお見合いを断るの?あなたは貴族なのよ?」
「…。」
「何故あなた、自分がどの立場なのかお分かり?」
「…。」
本当に何も物を言わないアメリアに痺れを切らしたリリーは、ふと部屋を見渡した。
娘の部屋に来るなど久しぶりだった。年頃の娘だからと遠慮していたうちに、幼い頃に見た可愛らしいぬいぐるみも数が減っていた。
おおよそ貴族の娘の部屋だとは思えないほどシンプルで、宝飾品やドレスも最低限しかなかった。
ダニエルは決してドレスやアクセサリーを与えていないわけはないのだ。パーティー用にリリーのドレスをあつらえるタイミングでいつもアメリアにも与えていた。
その時のドレスも何着か見当たらない。おかしく思ったリリーは机の横に置いてある園芸用の手袋やエプロンを見つけて目を見開いた。
「…な、何なのかしらこれは…なぜこんな土臭い物がこんなところに置いてあるの?」
眉間に皺を寄せながら後ろに控えるメイドのアンナに片付けておいて、と指示を出す。
その声を聞いたのはアメリアは飛び起きて、机のそばにある手袋などの園芸道具をアンナの手から奪い取った。
「お、おやめくださいませ…これは私の大事な道具でございます!」
「…ま、まさか、前にグランが言っていた庭師になりたいというのはただの戯れではなかったというの?」
するとアメリアがその道具を身につけ始めたら、リリーは「おやめなさい!おやめなさい!」と娘の奇行を慄きながら注意するしかなかった。
「やめませぬ!!」
エプロン、ブーツ、手袋、スカーフ、庭師と同じ格好をアメリアが身につけ終わると、リリーは腰を抜かして口を金魚のようにパクパクと震えさせていた。
「……あ、ありえないわ…」
「お母様…アメリアが夢を持つことがあり得ないのですか?」
「夢など…あなたは貴族ですのよ…そのような格好をしないでちょうだい…早くお着替えなさい、」
「着替えませぬ。」
そう強く言い切ったアメリアに、リリーは「あなたには公爵家に嫁いでもらうのです…」とよもや聞こえないような小さな声で反論した。
「嫌です…そのお話ならお父様には断りました。」
「なりません、あなたは結婚するのです」
「38歳の公爵様ですか?!おじさんですわ!いくら私でもそれなら断る権利くらいありましょう!」
「ないのです!あなたには結婚する他道はないの!」
アメリアはリリーの言葉に、最後の反論として最大の大きな声を出した。
「私は誰とも結婚などしたくはありませぬ!!」
「まあ!はしたないですわよアメリア!」




