1話
春がもう少しでやってくる。
そんな空気がアメリアは大好きだ。
庭園に咲くチューリップの眩しい色彩、陽の光を嬉しそうに浴びる管理の行き届いた芝生。
ネモフィラの青も心を落ち着かせてくれる。
長い冬から明けた春は、体全てが久しぶりの暖かさを喜んでいるとわかる。
しかし冬がダメなわけはないのだ。
冬の寒い空気は土を鍛える。鍛えられた土は暖かくなり芽吹いた命に強さをもたらす。そうして咲く花はとても美しく、いつまでも見ていられる。
どの季節も、草花や命に大切な豊かさを与えてくれる。
アメリアの心を潤わせてくれる。
アメリアはもう少しで通っている貴族学院を卒業する。
本来はめでたいことなのだが、貴族令嬢の身であればこの上ない恥である。
令嬢はこの学生の間に結婚をし、学院を去る。
それが美しい去り際であると貴族の間では常識。
しかしアメリアは今まで何度か来たお見合いも、たまにある社交場でのダンスも全て断っていた。
アメリアの中で一番大事にしたいことが、相手に大事にしてもらえないとわかっていたから。
そんなことをしたら当然誰からも誘われることもなくなり、ダンスパーティでは常に外の花たちを見ては癒されるのがアメリアの日常だった。
「え?庭師になりたい?」
アメリアが一番最初に夢を自覚したのは15歳のとき。
貴族学院に入学したばかりの頃。
アメリアは自分の屋敷にある庭園だけではなく、学院内やその側にある公園の花畑まで全てが美しく思え、図書館に通っては園芸についてをひたすら学び続けていた。
夏に帰省した際、何の気無しにアメリアは兄のグランに話をしたら、大笑いを喰らった。
「あはは、面白い冗談だよ。アメリアも15歳になったんだ、そんな風にもウケを取りたいよな。
でもアメリアは令嬢だから、そんな風に笑いを取らなくていいんだ。
庭園に咲くあの白い薔薇のように、ラローズの姫として微笑んでおけばいいのさ。」
とてもショックだった。アメリアは自分の良き理解者である兄ならば、きっと自分の夢をわかってくれると思っていたのだ。
そしてアメリアは同時に悟った。これは貴族令息の平均的な反応なのだ、と。
ならば自分の夢など誰にも話してはならない、馬鹿にされるのだから、結婚などしたら庭を触るなと更に言いつけられてしまう。
だからアメリアは誓った。
いつか自分が夢を叶えるその日まで絶対に誰にも心も体も許すまい、と




