14話
いつかの昼下がり、天気が良いのでアメリアは屋敷の外にある四阿で本を読んでいた。少し休憩しようと顔を上げたらふと庭先で作業をする抱えの初老の庭師が目についた。
そのまま庭園まで下りると、アメリアに気づいた庭師のジョージアはニコリと穏やかに微笑んでお辞儀をした。
近寄ってくるアメリアにジョージアはエプロンのポケットから小さな種を取り出して見せた。
「アメリア様、こちらの種はご存知ですか?」
「これは…サンブルームかしら。」
「ええ、ご名答。サンブルームです。夏に咲く花ですよ。」
一体どうしてそのような菓子を?と尋ねようとしたら、ジョージアはおどけた顔で言った。
「お嬢様、こちらは確かに私ども庶民に身近なスナックですが、決して侮ってはなりません。
とてもとても美しい大輪の花を咲かせるのですよ。」
それはあまりにも小さく、形はただの丸いよくある種だ。ジョージアが言わなければそんなこと思いもよらないようなスナックに過ぎない。
「今は春でございます。春に植えた種は、すくすくと育ち夏には立派な花が咲ます。」
「どのように咲かせるの?」
「とても簡単です。根気よ〜く水をやり続け、太陽の光を存分に浴びせる。庭いじりの基本でございます。」
ジョージアはよくこうして、アメリアに花の知識を授けていた。大きな庭園で部下や弟子はいるものの、無垢な素人がこうして楽しそうに話を聞いてくれるのはとても気持ちのいいものだったからだ。
アメリアの夢が庭師であるとどこからか聞いた日には、嬉しくてその晩は外で晩酌をしたらしい。
使える家のご令嬢を娘のような存在というには、あまりにも烏滸がましいがそれでも嬉しいのです、と親よりも喜んでくれたことをアメリアは今もたまに思い出すのだ。
回想を終えたアメリアはエディから受け取った種を、庭のど真ん中に植え始めた。
「流石アメリアはこの花のことを知っているんだね。」
「もちろんでございますわ!どのような花も咲かせるのが庭師の仕事です。」
「頼もしいね。」
ふふふ、と笑うとエディはどんな花なのか楽しみにしておくよ、と庭園を去った。
先程の言葉はジョージアの受け売りである。かつてそういうふうにアメリアに豪語してくれた。
(ああ、せめてジョージアには別れを告げたかったわ…)




