10話
「…アメリアと呼べばいいでしょうか。私はこの家の執事長をしています、ラセルです。」
ではこちらへ、とラセルが案内したのはおそらく使用人用の支度部屋だった。
「この屋敷の使用人はみな、ここで着替えなどを済ませてから勤務を始めます。住み込みの者のみならず、通いもあります故。
アメリアはどちらですか?」
「実は何も持っておりませんの…ですので、できれば住み込みで…」
と言うと、ラセルは頷いて奥に放置されていた蓋つきの大きな籠を出して手渡してきた。
「こちらがあなたの荷物入れです。鍵付きの戸棚を一人一つ用意していますが、荷物が増えたらその時に渡します、今は空きのものがないのです。」
「それから、ここではフローリア公爵のことを旦那様、と皆呼んでおります、参考までに。」
─────
「終わった?」
ラセルから支度部屋の使い方の説明を受け、部屋を出たらエディが待ち伏せをしていた。
「旦那様、お着替えになられたようで…」
「うん、ありがとう。」
すっかり部屋着に着替えたエディはにこにことラセルへ礼を言う。アメリアは使用人に礼を言うエディの姿に驚いた。
通常貴族は使用人からの施しは当たり前のものとして受け取る。
そもそも礼など言うこと自体が珍しく、特に公爵などという上流貴族なら尚のことである。
(随分と風変わりな方だとは思っていたけれど…)
「アメリア〜、一緒にご飯食べよう。何にも食べてないでしょう?」
アメリアの手を取ると有無を言わさずそのままダイニングへと進んでいく。
「旦那様?!」
夕食はいつ指示を出したのかラセルの計らいでアメリアの分もエディの隣に置かれてあり、皆当然のようにどのようなメニューなのか一つずつ説明をしていく。
毒味係を兼ねておりますから、と困惑したアメリアにラセルが耳元で囁いた。
(な、なるほど…)
空腹のアメリアは、公爵家で出される料理の品数の多さと華やかな見た目によだれが出てきそうだった。
毒味だろうがなんだろうがすぐ食べてしまいたかったので好都合。
エディのでは食べよう、という一言でディナーが始まった。
「して、旦那様一つ伺いますが、」
夕食が始まり、いくらか食べ勧めたところでラセルがエディに尋ねた。
「このアメリアはどちらで拾われたのでしょう。」
「広場だよ、ベンチで寝転んでた。」
そばで控えていたメイドたちがまあ…と哀れそうな目をこちらに向けるので、アメリアは気まずく目を逸らした。
「旦那様、あまりお若い女性を馬車に乗せて屋敷に連れ込んではなりませんよ。」
「えー、いいじゃないか。」
「こんなことを注意させていただくことすら予想しておりませんでしたが…。」
「いいじゃん。だってベルベットの変態オヤジなんて二十も年下の女の子に求婚して断られて激怒してるって話だよ?
三十八のオヤジが十八の女の子に求婚できるなら、これくらいなんでもないことだと思うけど。」
口を尖らせながら抗議するエディは可愛らしかったが、アメリアは気が気でなかった。
(…多分私だ…)




