9話
「え、こ、公爵様ですか?」
こんな人いたっけ、とアメリアは記憶を辿っても、フローリア公爵と挨拶した記憶が全く出てこない。
「ふふ、そうだよ、見えないかな。」
エディはにこり、と優しげに微笑んでふわふわと巻かれた癖毛を右手でいじった。
馬車に乗ってからは長い距離を走ることなく、五、六分ほどで動きが止まった。
馬車の扉にコンコンコンとノックが入ると、御者が「到着でございます。」と開いた。
行きと同じように、エディはエスコートをしてくれ、アメリアはその手を取ってゆっくりと降りた。
乗り慣れたラローズ家の馬車よりも高い踏み台でこけそうだったからである。
(あらまあ〜〜〜〜)
公爵家の王都滞在時の屋敷、という別荘のような存在の家には全く思えない。まるで博物館のような大きな建物は、門から玄関まで少し距離があった。
明かりが灯された玄関までのレンガ道の両側には芝生をベースにたくさんの花壇が並ぶ。
あまり手入れがなされていないのを見ると、エディが言っている庭師が不在というのもあながち嘘では無いようだった。
(胡散臭いから疑っていたけど、この感じを見ると本当にいなかったのね…)
雑草こそ抜かれているものの、最低限のケアしかされていない庭は勿体無いほど広く、花壇のスペースも広かった。
───────
「玄関はここだよ、庭も広いでしょ。僕一人しかいないから持て余してるんだよね〜。」
エディは独身のようだった。
ようやく玄関まで到着した。
「ただいまあ〜」
ドアを付き人が開けてから、エディは間延びした挨拶を中に向けて放つ。
すると中で待っていた執事らしき白髪の老齢の男がエディに向けて恭しく一礼をした。
「おかえりなさいませ、旦那様…と、そちらのお嬢さんは?」
「あ、そこで拾った庭師。着替えがないみたいだから何枚か服を見繕ってあげて〜余ってたよね。」
さらっと言うと、執事はきょとん、としてからアメリアの方は顔を向けた。
「お名前は?」
「アメリアと申します。よろしくお願いします。」
と流れるようにカーテシーをしてから気がついた。
(私今庶民だった!)




