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皇帝の弱さ

ラズレックは皇帝に問うた。


「お前の言う弱さとは、なんだ」


皇帝は答えた。


「見てわからぬか。老いて、歩くこともままならぬ、この身体よ」


「お前の言う弱さは、若くなく、戦えない体力のことを言っているのか」


ラズレックが言うと、皇帝は首を振った。


「違う。こんなワシが、皇帝だということじゃ」


「ワシは皇帝なのに、人ひとりでしかない。

 どれほど多くの金を持っても、どれほど大きな領土を持っても、ひとりの人という枠から抜け出せぬのじゃ」


「ワシは皇帝なのに、誰よりも巨大ではなく、誰よりも多くの体も持っておらぬ。なぜじゃ」


ラズレックは応えた。


「そのようなことが、大事なのか」


皇帝は言った。


「そうだ。大事じゃ。弱かろう」


「ワシが皇帝であるという証明など、物理的には存在せぬ。

 しかし、ワシは誰よりも多くの命を奪う命令ができる。

 位や立場など、目には見えぬわ」


ラズレックは言った。


「目に見えぬが、意味は存在している。

 その意味が、人を殺すのは許されぬ」


皇帝は答えた。


「ワシは戦争を止めぬぞ。ワシは弱いからな」


ラズレックは言った。


「やむを得ん。理解ができぬ。お前を殺すことにする」




「まて、まて、まて。ラズレック。そいつから愚かさを学ぶ必要はないぞ」


大声を上げながら二人に近づいたのはアヤだった。


「皇帝よ。そいつは戦神の使いと考えろ。そう意地を張るな


 眼前に広がる景色を見ろ。皇帝よ。自慢の精鋭部隊が首だけになっている。現実にはあり得ぬ。


 もう一度言う。そいつは戦神の使いだ。


 戦神の使いが『今度の戦はやめておけ』と言っているのだ。

 皇帝よ、人の上にある神の声なら、従うしかあるまいよ


ファルクレアも、アヤの言葉に重ねた。


「皇帝ドミトリアン・ノーディア様。神の使いが直接おいでになったのです。

 兵を引かねばなりますまい


 そして皆に伝えましょう。戦神の使いが現れたと。

 もはや戦どころではないと伝えましょうぞ。


 めでたい祭りでも開きましょうか。

 その際に、跡取りのお披露目でもなさればよい。


ファルクレアは静かに言った。


「ドミトリアン……。引き際が来たのですよ」

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