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皇帝の愚かさ

「なつかしいな。リュシオン・ファルクレア。何年ぶりだ」


ジェスタが応えた。


ファルクレアはジェスタに向かって言う。


「三十年ほど経つのか。もはや、はっきりとは覚えておらぬよ。見た目が実際の年齢より若くなったように見えるが……新しい魔法か」


ファルクレアへ向かって、ジェスタは歩いていく。


「ファルクレアよ。お前も三十年閉じ込められればわかるわ。新しい魔法でも研究せねば、狂ってしまうからな」


ファルクレアは低く言った。


「お前の歌で、結果的に何人の人間が惨殺されたか、わかるか。私は今でも、お前は死ぬか、せめて幽閉されねばならぬと思っておる」


ジェスタは苦々しい表情を浮かべた。


「私は直接殺したことはなかった。眠らせただけだよ。殺す命令を出したのは、あそこの皇帝様だよ。私も無実と言い張るつもりはないけどね……」


ジェスタの言葉に、ファルクレアは言った。


「安心しろ。世の正義を語って責めておるのではない。お前が何万という人間を無力化し、そのあと我らが殺して回ったのは、我ら貴族だからな。罪は同じよ」


「ただ、お前の歌がこちらに向くのが怖かったのだ。私たちは皇帝擁立の前に、お前の処分を考えたのさ」


ファルクレアは皇帝を指さした。


「見ろ。あの衰えた身体と、何者にも隙を見せぬために鋭くなった眼光を。悪夢と政争に明け暮れた日々が作った男を。もはや、誰の声も届かぬ。あの目が何を見ているのか、我らにもわからぬ。時は、あらゆるものに残酷だ」




ラズレックは皇帝の眼前に立った。

近くにいた文官たちは皆、逃げていった。


玉座に座るドミトリアン・ノーディアに向けて、ラズレックは問いかける。


「皇帝ドミトリアン・ノーディア。お前は、なぜ戦争をしようとする」


皇帝は小さな声で答えた。


「戦が必要だからだ」


「わからぬ。戦が何を生む」


ラズレックは答えを待った。


皇帝は言った。


「戦は、私の力を証明する」


「では、お前を殺せば、証明する必要はなくなるな」


ラズレックがそう返すと、皇帝はかすかな声で言った。


「やってみよ。私は皇帝ドミトリアン・ノーディアぞ」


皇帝は杖にしがみつきながら、ふらつきながら玉座の前に立ち上がった。

その身長は、ラズレックの肩にも届かない。


ラズレックは言った。


「お前のような愚かな人間がいることは知っている。私を作ったのは人だ。遥か昔に滅びた人だ」


「私は、人が作った生命体の一つだ。技術の粋を使って、私たちは作られた。そのうち、私は人より賢くなった。我らは人のために、あらゆる知識と知恵を生み出した。


 戦争などしなくてもよい世を作り上げた。戦争をしたくてもできない仕組みを作った。だが、人は仕組みを破り、戦争をやめなかった。


 私たちは人をより良く理解しようとした。その間にも、人は自ら個体数を減らしていった。私たちを作った者たちも例外なく減っていった。


 最後の数人になったとき、私に『愚かさ』の項目を作った。賢さを得るために作られた生命体への、最後の命令が『愚かさを理解せよ』だった。


 愚かさは、遺伝子、知識、哲学、歴史から得ていたはずだった。だが、最後の人間は『それではない』と言った。


未だにわからぬ」


皇帝は言った。


「弱くならねばならぬのだよ。さすれば理解するだろう」

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