ファルクレアの思い出
アヤは、カティアと共に魔術師リュシオン・ファルクレアに会えた。
ファルクレアが、皇帝から緊急に呼び出されたため塾が異様な雰囲気を帯びていた。
「皇帝が、この老体までアヤは、カティアと共に魔術師リュシオン・ファルクレアに会うことができた。
だが、皇帝からの緊急招集のため、塾は異様な空気に包まれていた。
「皇帝が、この老体まで緊急招集とは、どういうことかね。それも完全装備で来いとは。反乱でも起こったかね」
入口には送迎用の馬車が止まっている。
ファルクレアは言った。
「馬車は返しな。この装備なら飛んで行くよ。皇帝には窓を開けておけと伝えてくれ」
そう言うと、弟子が馬車へその旨を伝えに走った。
ファルクレアは、ちょうど入口に着いたばかりのアヤ、カティア、そして雪豹のエイルーンを見た。
「新しい生徒かい。早く中に入りな。入口を閉鎖する。歓迎もできずにすまないね。外は物騒になるからね」
ファルクレアは入口の扉に魔術をかけた。
扉が熱を持ったのがはっきりわかる。
「触るんじゃないよ。火傷するからね。この短時間ではこの程度しかできないが、ないよりはいいだろう」
そう言うと、
「装備は整ったかい」
と弟子たちに声をかけながら、奥の部屋へ戻っていった。
アヤはつぶやく。
「ラズレックとジェスタ、もう何か事件を起こしたのか……」
カティアはエイルーンを抱きしめながら、不安そうに言った。
「大丈夫かしら」
落ち着かないエイルーンを撫でながら、
「大丈夫よ」
と自分にも言い聞かせているようだった。
ファルクレアは屋敷の中を右に左に歩き回っていた。
どうやら屋敷中の入口に魔術をかけているらしい。
その後ろを弟子たちが装備の服を持って追いかけている。
アヤとカティアは入口の広間に残っていた。
勝手に奥へ入るわけにもいかない。
するとカティアが言った。
「アヤ様、行かれてください。ラズレック様やジェスタ様が困っているかもしれません」
アヤは少し声を大きくして嘆いた。
「カティア。ラズレックは困らない。ジェスタも困らない。そこが問題なんだよ。止まってくれないからね」
その声がファルクレアに届いた。
「そこの者。今、ジェスタと言ったか」
アヤは、しまった、という顔になった。
ファルクレアが老体とは思えぬ勢いでこちらへ歩いてくる。
「ジェスタ。ジェスタ・ヴェルミナを知っているのか!」
エイルーンは警戒し、カティアの前へ出た。
アヤは隠し持つ小剣の位置を確認してから、答えた。
「知っている」
カティアがいる以上、戦闘はできる限り避けたい。
そしてこの魔術師には、下手な嘘もつかない方がいいと直感した。
(ジェスタと同じものを感じる。怒らせてはいけない)
ファルクレアは低く問う。
「今、ジェスタはどこにいる」
「おそらく、城へ」
ファルクレアは天井を見上げた。
「わかった。皇帝が完全装備で緊急招集をかけた理由が……」
そして、アヤたちを見た。
「お前たちは何者だ」
「このカティアを、ここまで護衛してきた者だ」
ファルクレアはエイルーンを見た。
「共に、と言ったな。この白豹は近くにいたのか」
「いた。触ることはできなかったがな」
ファルクレアは今度はカティアを見た。
「名は」
「カティア・ヴェスナーと申します」
「そうか。この白豹は、お前を害そうとする者を排除するだろう。ジェスタがカティアの近くにいることを許したということは……復讐の塊にはなっていないということか。少し安心したぞ」
そう言って、大きく息を吐いた。
「ジェスタが帰ってきたか。懐かしい友であり……そして、恐ろしい『魔女』でもあった」
その表情は、複雑な思いを無理に押し殺したようだった。
「ジェスタは、興味を持ったものの味方になる。それが正しいことであろうと、悪であろうと変わらん。おそらく復讐よりも興味あるものができたのだろう」
そして、アヤとカティアを交互に見た。
「ジェスタは、なぜ城へ行った」
アヤは答えた。
「戦争を止めに」
ファルクレアは即座に言った。
「そのようなことに、ジェスタは興味を持たない」
アヤは言い直す。
「戦争を止めに行った戦士を、皇帝に会わせるために」
ファルクレアの目が細くなる。
「戦士は何人いる」
「一人だ」
「一人で城の騎士を相手にできるのか」
アヤは答えた。
「誰一人相手にならない。人の領域を超えている」
ファルクレアは天を仰いだ。
「最悪じゃ。魔術師が、そのような存在を見たら……まして、ジェスタが見たら……それは、それは狂喜するだろう。もはや復讐など吹き飛んでおるはずじゃ」
もう一度、大きく息を吐く。
そして控えている弟子たちに向かって言った。
「もう一度、馬車を呼び戻せ。城へは三人と一匹で向かうことにしよう」




