ジェスタの戦い
城へ向かって走りながら、ジェスタはラズレックに言った。
「城が見えた。先に行きなさい。もう守りは組まれている。あなたなら、大地から城へ、城から王の間へ、あっという間でしょう」
ラズレックは応えない。
「ラズレック。あなた、私が銃に撃たれることを危惧しているわね。周囲を探っているんでしょう」
そう言いながら、ジェスタは自分の周りに水の魔術をかけた。
姿がゆらりと歪んで見える。
「この水の粘度なら、銃弾が当たっても皮膚までは貫けないわ。行きなさい、ラズレック」
ラズレックは「わかった」とだけ言い、大地の中へすうっと消えた。
「ラズレックは行ったわね。さて、様子を見ていた連中も出てきたか」
その直後、ジェスタへ銃撃が集中した。
定期的に、何度も撃ち込まれる。
水の魔術で威力はかなり軽減され、石をぶつけられた程度の痛みに収まっていた。
(……痛いわね。やはり急がないと。魔力が尽きたら、まずいかもね)
ジェスタの前方、城の手前には地上部隊が布陣していた。
(なるほどね。ここで地上部隊に、この水魔術を破らせるつもりか。私が「歌」で地上部隊を一気に無力化しようとして防御を解いた瞬間、銃で狙うつもりね)
ジェスタは足を止めた。
次の瞬間、水の防壁は土の防壁へと変わった。
兵たちは、突然ジェスタの姿が消えたことに呆然とする。
兵隊長が叫ぶ。
「あの土の塊を潰せ! 槍を突き入れろ! 中の者の生死は問わん!」
地上部隊の兵たちは槍を構え、土の盛り上がりへ突き刺した。
長い槍は、後方まで突き抜ける。
「死んだらどうするのよ」
ジェスタの声が響いた。
土の防壁は崩れ落ちる。
兵の一人が呟いた。
「誰もいない……」
ジェスタの声が再び響く。
「ラズレックには、舌も喉も、その形はあるけれど、機能はしていないのよ。
どうやって話していると思う?
震わせるの。硬い鉱物を震わせているの」
少し間を置いて、楽しそうに続ける。
「それからね、ラズレックから学んだの。大地の中の歩き方を」
「私は、地面の中にいるわ。さて、どこでしょう。探してみて」
ジェスタは、くすりと笑い、歌い始めた。
地上部隊は、必死にあちこちの地面を突き刺していた。
しかし、ジェスタの声が届く範囲の兵から、ばたばたと倒れ始める。
数分後、ジェスタは大地の中からゆっくりと浮かび上がってきた。
水の防御魔術も解いていない。
(まったく……真下に潜るだけで限界だわ。兵に穴を掘られていたら終わりだった。ラズレックは本当にその中を歩くんだから……)
ジェスタは息を整え、城を見上げた。
(さて、私も城の中へ行きましょう)




