106話 侵入
「では殿下、また後程」
「うん、また後で」
そう言って殿下は第一皇子が待つ席に戻っていった。
公国の正当な後継者でありながら力を持たない私だが
改めて思うが殿下はお優しい。
明らかな失態でお手を煩わせたにもかかわらず不快感一つ見せずにフォローしていただけた。
やっぱり殿下についてきてよかった。
「よし、行こう」
私はそう言って自分を奮い立たせると行動を開始した。
「行きましょう」
「はい、ハンナ嬢」
私がそう言うと兵達はついてきた。
この兵達は護衛にとつけてくれた軍の精鋭だ。
1人1人が南部では無双できるほどの実力を持っている。
彼らもこんなよそ者の私を文句ひとつ言わずよく守ってくれている。
彼らにも感謝してもしきれない。
ガチャッ
「あっちです」
席の室内側のドアを開けて廊下に出ると迷わずに進みだした。
緊急時のためにこの闘技場の間取りと警備の配置は暗記してきたから道はわかる。
「うぉー--!」
フィールドではまた試合の決着がついたようだ。
「この先ですね」
私の前を先行していた兵がそう言う。
外国選手用の控室の前に来たのだ。
「この先は外国使節の証明書がなければ入れません」
兵が言う通りこの先は一般人が入れないエリアだ。
「ここは入れないので裏から行きます。こっちです」
もしかしたら第一皇子の部下のことだから怠けて警備をサボっていないかなと思って来てみたが外国使節に対する印象向上ということもあってちゃんと警備している。
見取り図では確か裏から使用人用の通路が伸びていたはずだ。
そこなら警備も配置されていなかったはずだからいける。
私は兵達を引き連れて使用人用の通路に回った。
「くそ、ここにもいる」
裏口に回ってみたが予想に反して警備がいた。
どうせ外国使節の誰かが当日に要望して就いたのだろう。
「どうしますか?これ以外に出入口はありません」
その通りだ。
ここと正面以外に出入口はない。
トーズには早く事情を伝えて叔父の使節に話さないようにしたい。
私を探しに来たのだからそうそう話すことはないだろうが世の中確実はない。
「しょうがない。あの様子だと交代もしばらくないだろうから隠れて行くのは難しい」
「では排除しますか?1人でしたら気づかれずに排除可能です」
兵が真面目な顔で聞いてきた。
王国との戦場を駆け回ってきた精鋭だ。
任務のためならば覚悟を決めている。
未だ人を殺すことに抵抗を覚える私とは大違いだ。
「お願いします。死体は少なくとも大会が終わるまで気づかれないようにしてください」
「了解しました。敵を排除します」
私も兵達も覚悟を決めた。
これから母国で数えきれないほどの兵を、しかも自国民で構成された兵を殺すのだ。
1人殺すことにためらっていたら何もできない。
それに書類で殺害を命令することは簡単だが命令するものとしてその罪の重さを認識しなければならない。
「グラント、ベアル、リアナ、来い。」
隊長が後ろにいた隊員を呼んだ。
「グラントは見張っていろ。ベアルとリアナは私についてこい」
「了解です」
「了解です」
「了解です」
隊長の命令で1人は見張りについて残りは足首に隠していた小さな短刀をもって見張りに忍び寄っていった。
兵の1人は長髪の女性兵だった。
やはり女性も多い北部軍は自分にとって異様で慣れない。
年は中年くらいだが見た目は若く顔も奇麗だ。
父と一緒に暗殺されて死んだ母を思い出してしまう。
スッ
隊長がハンドサインで合図すると2人が見張りの前に立って隊長は見張りの後ろに回り込んだ。
次の瞬間。
ザシュッ
前に立った2人の兵から短刀が投げナイフのように投げられて見張りの首と胸に正確に刺さった。
その瞬間後ろに忍びよっていた隊長が見張りの口を押えて力が抜けて倒れそうな見張りの槍を支えた。
血も床に垂れないように持っていたハンカチで抑えていた。
まさに完璧な連携だ。
短刀は少しずれていれば隊長に刺さっていたくらいにシビアな調整だし隊長の消音措置も完璧だ。
「よし、片付けよう」
隊長の命令で兵の一人が大きな布を腰の袋から出した。
それで見張りの死体を巻いて近くの花壇に隠した。
使節団のエリアは2階で一部は小さな花壇が隣接している。
土を少し掘って死体を巻いた布にかけた。
これでにおいもある程度消せるし大会が終わるまでには気づかれないだろう。
「行きましょう」
「はい」
隊長はすぐさま切り替えて開いた道を僕に差し出した。
私も切り替えて進む。
トーズ、、、
私の元婚約者
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1回分遅れてしまいました!
次回は予定通り投稿できる予定です。
次回投稿は日曜日です。
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