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105話 婚約者



 闘技場の周りには2000人の重武装兵がいる。だが闘技場内部は完全に第一皇子の管轄だ。

 気づかれずに外にいる隊に命令を知らせなければ。


「ここを右です」


 エレナさんは迷わず僕を外まで案内した。

 今日のために闘技場の見取り図は暗記してきたらしい。

 僕たちはメインの広場と反対側の比較的人がいないところに出た。

 

「伝令兵」


 エレナさんが呼ぶと兵がすぐに来た。

 こういう時に備えて各出口に伝令兵が待機している。


「本隊に連絡しろ。バーレル公国の選手が使節団ともにサプライズ登場した。選手にハンナ嬢の顔を見られた恐れがあるため公国の人間は闘技場から出すな。基本捕縛、無理なようなら殺傷を許可する。くれぐれも第一皇子側にばれないように実行せよ」

「はッ!」


 伝令兵は急なことにもかかわらずすぐに対応し敬礼した。


「これは姫様からの最優先命令である。公国への干渉に関するありとあらゆる情報を死守せよ」

「命令受け取りました。」


 伝令兵はその後すぐに本隊がいるメインの広場に走っていった。

 伝令兵は2人で動き片方は情報を持ち片方はそれを護衛する。

 基本的な伝令兵だが去り際に少し緊張が垣間見えた。

 それだけ最高司令官からの最優先命令というのは軍隊に所属する者にとって重みがあるのだ。


「よし、次はハンナだ」

「ですね。案内いたします」

「うん、行こう」


 僕たちはハンナのいる席に向かった。

 この事態はハンナにとっても明らかに予想外だったはずだ。

 僕が軍に命令したのは情報の抑え込みだけだ。

 どうするかは公国のことを一任しているハンナに判断を仰ぐのが適切だろう。


「少しお待ちください」


 エレナさんが特級席のエリアに入る手前で止まった。


「ここからは第一皇子の監視が多くなります。これをかぶってください」


 そう言ってエレナさんは軍で配布されるフードを渡してきた。

 エレナさんも腰にかけてある外套を広げて被った。

 僕もフードを深くかぶって顔がわからないようにした。

 特にこの目の色は皇族の特徴だから監視に見られてはいけない。


「行きましょう」

「うん」


 僕たちは顔を隠し終わると再び歩き出した。

 衛兵や私服の監視がいたるところにいる。

 第一皇子にとっては各国の代表や帝国の重要人物が集まるこの大会は絶好の情報収集の機会というわけか。


「ここですね」


 そう考えているうちにハンナの席に着いた。

 周りには監視はいない。

 入るなら今だ。


ガチャッ


「殿下ッ!」


 席に入るとハンナが気づいて寄ってきた。


「申し訳ございませんッ!私の失態です。どんな処分も受け入れる所存でございます。」


 ハンナは腰を曲げ頭が床につきそうな勢いで謝ってきた。

 見たところ彼女は相当追い込まれているな。

 まあ計画修正した直後に状態がひっくり返るようなことが起きる不運に見舞われたのだから当然だろう。

 だがこれはハンナの失態ではなく完全に不運だっただけだ。

 たまたま公国の騎士がサプライズ登場してたまたま本来ならば目に入りもいないはるか上の最上段に座っていたハンナの顔を見てしまった。

 とんでもない不運だ。


「大丈夫だよ。ハンナ、僕はハンナを責めようとは思わない。結果としてこうなってしまったがそれは不運によるものだ。僕も予測できなかったし誰も予測できなかった。大事なのはこれからどうするかだ」


 僕の考えを聞いてハンナは安心して力が抜けたようだった。

 恐らく僕に捨てられるとでも思ったのだろう。

 だが今彼女は僕の配下であり友だ。

 簡単に諦めるようなことはしない。


「さっき軍に寄ってきて公国関係者の監視と闘技場を出る者の捕縛を命令してきた。最悪の場合殺傷も許可すると言ってきたから少なくともこの会場から情報が漏れることはない。でも早急に手を打たないと第一皇子側に情報が渡ってしまう。ハンナ、どうする?」


 僕がそう尋ねるとハンナはハっとした感じで話し始めた。

 

「そうです、騎士のことでお伝えしたいことが」

「何?」


 聞くと予想外の答えが返ってきた。


「あの公国の騎士、トーズ・フォン・ベリアルは私の婚約者だった者です」

「ええええ!!!!」


 ハっ!

 しまったあまりの予想外に大声を出してしまった。

 幸い観客の歓声で打ち消され気づかれることはない。


「こ、婚約者、、、?」

「はい、トーズ・フォンベリアル、私と同い年で幼馴染でもあります。幼いころから剣術の英才教育を受けており公国一の腕は間違いないでしょう」

「ん?待って、なんでその婚約者が敵側である叔父の代表として来てるの?」

「恐らく私を探すためでしょう。現在公国は人口流出を防ぐために叔父が実権を握ってから出国が制限されています。それは貴族も対象なので選手として出国してきたのでしょう。彼の家自体は中立なので私との婚約を切った時点で彼が叔父の攻撃対象にはならなかったはずなので」


 なるほど。

 なかなか責任感ある婚約者だな。


「なので第一皇子側に情報を渡さないためにもすぐにトーズに接触したいと思います。私が自分で行きます。私がまいた種なので」

「わかった。外の部隊からいくらか人員を引き抜いて行って。もしトーズさんとの接触が叔父側の使節団バレたらやばいからね」

「はい、配慮ありがとうございます。」

次回投稿は24日火曜日です。

少し期間があきます。


読んでくれてありがとうございました!




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