タンザナイトの洞窟(その2)
ピピピピピピ………
「ん〜…朝…?」
「起きろアイド。 朝食を済ませたら採掘に出発だぞ。」
「ふぁーい。」
とっくに起きて身支度を済ませたロロクに、アイドはあくび混じりで返事をする。タンザナイト採掘当日の朝だ。2人は簡単に朝食を済ませると、採掘場まで移動し、ランプに灯りを灯してツルハシで採掘を始めた。
「いいか、出てくる結晶の大半はゾイサイトだ。 注意深く見落としがないように探すんだ。」
「はい。 …ほんとに結晶がゴロゴロしてますね。」
ツルハシで掘ると、岩に混じってすきっと立ち上がった結晶が溢れ落ちる。 大半は水色や緑色のゾイサイトだ。ランプの灯りを反射し、チカチカと輝いている。アイドは溢れた石の中に変わった色を見つけた。
「ん? ピンクの石…?」
「おっ…ピンクゾイサイトか! これもマニアのお客さんが喜びそうだ。 持って帰ろう。」
「マニアのお客さん?」
「富豪のダイフクさんって方がいてね、石マニアで有名なんだ。 こないだの事件で盗まれたカラーチェンジガーネットも、ダイフクさんのために掘ったものだったんだが…。 今度お詫びに色々な石を持っていく予定だったから、こいつも持っていこう。」
「なんだか名前からして富豪のニオイがしますね…」
突然、ドカン!という爆発音が響いた。
「な、なんだ!?」
「奥の方だな、きっと違法採掘師だ! 行くぞ!」
ロロクはなぜか嬉しそうに走り出す。アイドも慌てて後を追った。
「ロロクさん! 違法採掘師を見つけてどうするんですか!?」
「しょっぴいて、警察に突き出す! 常習犯で指名手配されてたら賞金がもらえるぞ!」
「そんな腹黒い理由ですか…」
呆れ顔のアイドだが、ロロクが突然立ち止まったため、顔面をロロクの後頭部にぶつけてしまった。
「いてて…どうしたんですか。」
「…見ろ。」
前方の岩肌から砂埃が上がっており、その中に向かって黒い影が空中から飛び込んでは出てきてを繰り返している。砂埃の中からは悲鳴が聞こえてきた。
「あれは…コウモリ?」
「違法採掘師が襲われてるみたいだな。」
コウモリたちは集団で採掘師達に噛み付いているようだ。
「い、いててっ! そこのあんた達! 助けてくれぇ!」
砂埃から傷だらけの人間の男が飛び出してきた。コウモリ達は一斉にロロクとアイドを睨みつける。
「アイド、1人残らず捕らえろ。 違法採掘師の方をだ。」
「はいっ!」
「えっ。」
男はぽかんとした顔をする。アイドは縄を掴んで砂埃へ飛び込んだ。あっという間に採掘師達は縄でぐるぐる巻きにされてしまった。
「全部で5人か。 全員人間とは…ヒトノホシも違法採掘をしないと成り立たないほど景気が悪いようだな。」
「お前ら! おとなしくしてろよ!」
アイドが、縛られながらもバタバタと騒ぐ人間たちに向かって一喝していると、コウモリたちが地上に降り立ち、ロロクたちを取り囲んだ。
「おい貴様ら。 俺たちの手助けをしたつもりか? こいつらを捕らえようが、採掘師なら貴様らにも容赦はしないぞ。」
一際大きなコウモリが声を上げた。 コウモリたちのリーダーのようだ。ロロクが前に出て口を開いた。
「僕たちは違法採掘師じゃない。 きちんとルールに則って採掘をしているんだから、こいつらと一緒にしないでもらいたいね。 宿の主人から、君たちが違法採掘師たちの無茶苦茶な採掘で居住区域を荒らされていることは聞いている。」
「…なんだと?」
「君たち、僕の会社と契約してタンザナイトの採掘と違法採掘師の取り締まりをやってくれないか?」
「はぁっ!?」
リーダーは驚いて変な声を上げたが、構わずにロロクは続ける。
「さっきの様子を見る限り、違法採掘師の取り締まりにも向いているし、奴等の掘ったタンザナイトを盗んでいくくらいだから、タンザナイトの目利きもいいんだろう。 僕たちもいちいち日にちをかけて採掘に来る手間が省けるし、悪い話じゃないだろう?」
コウモリたちは顔を見合わせて考え始めた。ロロクはニヤリと笑う。
「君たちも、いくら違法採掘師が相手とはいえ襲撃を続けてると捕まるぞ。 真っ当な仕事に就いて、安定した収入を得る方がいいんじゃないか?」
「…話がうますぎる。 どさくさに紛れて俺たちを警察に突き出すつもりじゃないのか? 俺たちが採掘師を襲ってタンザナイトを奪っていたことだって知っているんだろう?」
「今警察に突き出しても捕まらないだろう。 君たちの敷地に侵入して破壊活動をした輩を攻撃するのは当然だし。 君たちの敷地のタンザナイトを勝手に掘って盗んだんだから、取り返すのだって当たり前だよ。 ただし、度が過ぎると警察も動き始めるだろうがね。」
コウモリたちは静かになって、ロロクたちを見つめた。やがて、リーダーがフッと笑って口を開いた。
「わかった。 契約しよう。 俺たちみたいなヤクザ者を雇うなんて、物好きな奴だな、アンタ。」
「本物のマフィアに比べたら、君たちのほうがよっぽど穏やかだよ。 契約成立だな。
アイド、帰ったら雇用契約書を人数分作成してくれ。」
「わかりました!」
コウモリたちから歓声が上がり、リーダーはロロクと握手を交わした。
★
違法採掘師たちはコウモリたちによって、キバンの宿に連行されていった。ロロクたちは残って違法採掘師たちが爆破した岩肌の安全点検をしていた。
「派手に爆破したもんだよなぁ。 埋まってるタンザナイトが砕けたらどうするんだ。」
「あれ? ロロクさん、ちょっとここ来てみてください。 崩れたとこから風が吹いてるんです。」
「風?」
ロロクはアイドのそばに近づいてみた。確かに崩れた岩の隙間から空気が出ている。
「外に繋がってるんですかね?」
「そんな馬鹿な。 深さがどれだけあると思ってるんだ。 空洞に繋がってるんだろう。」
「空洞!? なんか珍しい石とかあったりして!」
アイドは嬉しそうに岩を崩し始める。ロロクは慌ててアイドの肩を掴んで止めた。
「馬鹿! 危険だからやめとけ!」
ガララッ!
岩が崩れ、アイドの背丈くらいの穴が現れた。
「穴? 下に繋がってるみたいだ…」
「お、おい! 覗き込むなって…」
ピシリ、という音が辺りに響いた。アイドの足元にヒビが入っている。
「やべっ…」
ガラガラッと大きな音を立てて、足元が崩れ落ちる。同時にアイドはバランスを崩しながら穴に吸い込まれていく。
「うわあぁぁああぁっっっ!!!!!」
「アイドッ!!!!!」
ロロクはアイドの体を掴もうと手を伸ばしたが、手は空を掴み、アイドは叫びながら穴に落ちていった。
「アイドーーーッ!!!!!」
ロロクの叫び声が辺りに虚しく響き渡った。
続く




