タンザナイトの洞窟
満天の星を見上げるように、船は上昇を続ける。星の海を泳ぐエイの船の中には、ロロクとアイドが並んで座っている。アイドはちらちらとロロクを横目てま見ている。
「…なんだよ。 言いたいことがあるなら言え。」
「…ごめんなさい。 ギベオンさんのこと。」
あの事件から少し時間が経ち、ケガから回復したロロクはアイドに連れられギベオンに会いに行った。しかし、まだアイド以外の猫を信用していないギベオンは、かなり無愛想な態度だった。フードを深く被り、無造作に隕石を並べ、素気なく言うだけだった。
『隕石だ。 買え。』
さすがのロロクの営業スマイルも、あの時はひきつっていた。
「君が気にすることないよ。 君の彼女が危険をおかしてまで助けたんだ、よっぽどいいヤツなんだろう。 僕には良さがさっっっぱりわからないがね。」
「うぅ…めちゃくちゃ根に持ってるじゃないですか…」
アイドは泣きそうになりながら、後ろの大荷物に目を向ける。
「それにしても、今回の採掘は3日がかりなんて、そんなに店空けて大丈夫なんですか? トモル1人に任せちゃって…」
「問題ない。 僕より腕がずっと立つから襲われる心配もないし、何かやらかしてたらアイツの給料から差し引くだけだ。」
「給料で間に合わないくらいやらかしちゃったらどうするんすか…」
アイドは頭を抱えるが、ロロクは知らん顔だ。やがて、船は星のかけらに着陸した。
★
「さて、ここがZ-12だ。 今回は洞窟の中を通って深くまで降りるぞ。片道1日、採掘に1日だ。」
「うへぇ…」
アイドは大荷物を荷車に乗せ、げんなりとした表情を見せる。ロロクはランプに灯りを灯し、荷車に吊り下げた。目の前には大きな洞穴が見える。
「まぁ、道はだいぶ舗装されているからあまり心配はいらないよ。途中に宿もあるしな。」
「洞窟の中に宿ですか? 空気も薄そうなのに?」
「宿から真っ直ぐ上に向かってパイプが通ってるんだよ。 採掘師がよく使うから、かなり儲かってるらしい。 今回は事前に宿代を振り込んでおいたから、安心してくれ。」
「へぇ、なんか近代的ですね。」
話しながら洞窟に入ると、早速あちこちに水色や緑色の石の結晶が見えてきた。
「ロロクさん! 深く行かなくても結晶がたくさんあるじゃないですか!」
「あれは普通のゾイサイトだ。 今回狙うのはただのゾイサイトじゃない。」
「と言いますと?」
「ゾイサイトの中でも最も美しく希少な、タンザナイトだ。」
ロロクは胸ポケットから小さな青紫の石の結晶を取り出し、アイドに見せる。
「これは僕が数年前に掘ったものの一つだ。 美しく青の中に紫が燃える。 多色性と言われる効果だ。」
「…すごい。」
アイドは思わず声を上げる。夢中になって石をライトで照らしながらルーペで見つめている。
「タンザナイトの美しさに心を奪われるのは無理ないが、今日はできるだけ早めに進むぞ。早く宿に着いた方が体力回復の時間を長く取れるからな。」
「あ…すいません。」
ロロクは少し嬉しそうに笑った。
「君も石が相当好きなんだな。 最初は冒険冒険って騒いでるだけだったが。」
アイドはハッとする。
(俺は…石や冒険が好きだったミュウの夢を代わりに叶えるくらいのつもりで採掘師になったけど…俺も根っこでは石が好きだったんだな。今更気づくのかって感じだけど…)
少し心が温かくなる。ミュウの代わりと思っていた夢が、いつの間にか自分の夢になっていた。
(本当は死んでしまったのかもしれないとすら思ってた…。 でも、ギベオンさんから手紙を渡されて、シシノホシでも強く生きているミュウを感じて…。 彼女のように強く生きたい。 俺は、心の底から楽しんでいいのかもしれない。 採掘師の仕事を…)
★
真っ暗な道を、ランプの灯りを頼りに進んでいく。随分歩いてきたため、ロロクとアイドはへとへとだ。ふと、ロロクがヒゲをピンと前に向かって立て、声をあげた。
「アイド、やっと着いたぞ。 宿だ!」
「あぁぁ…疲れたぁ…」
前方にぼんやりと明るい小屋が見える。ロロクとアイドは早足で小屋に向かい、ドアを開けた。
「どうも、予約していたロロク貿易です。」
ロロクが中に向かって声をかけると、奥から店主のモグラが出てきた。
「いらっしゃい。 ロロクさん、久しぶりだねぇ。」
「一年振りくらいかな。 キバンさんも元気そうで何よりだよ。 今日は部下のアイドと一緒なんだ。 よろしく頼むよ。」
アイドはぺこりとお辞儀をする。キバンはニコニコと2人を部屋まで案内してくれた。 木の温もりを感じる部屋に、ベッドが2つ。荷物を下ろしていると、キバンが声をかけてきた。
「そうそう、ロロクさん。 最近この先でコウモリたちが追いはぎしてくるって騒ぎになってるんだよ。 採掘帰りのとこを襲われて、石を盗まれちゃうらしいんだ。 用心したほうがいいよ。」
「コウモリか。 前に来た時はそんな話聞かなかったけどな。」
キバンはふぅ、とため息をつく。
「ここのところ違法採掘師が増えてね。ルールを無視してタンザナイトの鉱脈を好き放題掘り散らかして、コウモリの住みかまで荒らしちゃったもんだから、コウモリたちも怒っちゃってるんだ。」
「違法採掘が原因か…。 キバンさん、情報ありがとう。 気をつけるよ。」
ロロクがお礼を言うと、キバンは片手を上げて、部屋を出て行った。
「話は聞いてたな? 明日の採掘は特に注意して…」
ロロクがアイドに振り返りながら声をかけたが、アイドはベッドに大の字になって爆睡していた。
「コイツ…!!」
ロロクが怒鳴り、アイドが飛び起きるまで、あと3秒。
続く




