カラーチェンジの罠(その3)
はぁはぁと息を切らせながら、モアレは誰もいない深夜の猫目街を駆け抜ける。やがてロロク貿易の前に着くと、辺りを見渡してから防犯カメラのレンズを布で覆い、鍵穴に針金を入れてピッキングを始めた。カチャリ、と軽い音を立てて鍵が開く。鐘を鳴らさないようにそっとドアを開け、中に忍び込む。深夜で店の中の電気も消えている。夜目が利く猫といえども、カラーチェンジする石を暗闇の中から見つけることは不可能だ。モアレは小さなライトの明かりを点けた。
(アレキサンドライトはどこだ…?)
商品棚をゴソゴソと漁り、ライトを照らしながら石を探す。ブルーグリーンの石はなかなか見つからない。
(早く…早く見つけなければ…!)
「なんか探しもんかぁ?」
突然真横から声がして飛び上がる。木刀が振り下ろされ、すんでの所で額をかすめ、モアレは飛び退いた。
「随分反射神経がいいんだな、泥棒さんよぉ。」
ニヤリとトモルが笑い、鋭く黄色の目が光る。今度は背後に影を感じ、前方に向かって飛び込む。ガシャン!と音を立ててハンマーが床に叩きつけられていた。アイドのメタリックブルーの鋭い瞳がモアレを射抜く。
「くそっ!」
モアレは出口に向かって走り出した。
(2対1じゃ不利だ! 今はとにかくここから逃げ出さないと…!)
夢中で走り、扉のドアノブに手をかけた瞬間、脳天に衝撃が走りその場に倒れ込んだ。天井で待ち伏せていたスズが、飛び降りながら警棒で殴りつけたのだ。カチッと音が鳴って店の電気が点く。やれやれといった調子でトモルが歩いてきた。
「社長の言った通りだったなぁ。 残党が今夜あたり店に盗みに入るかもしれねぇって。待ち伏せしてて正解だったぜ。」
「うん、本当に今日のうちに来るなんて、よっぽど追い詰められてたのかな。」
アイドも縄を持ってやってきて、気を失ったモアレの手を後ろで縛る。
「モアレ先輩、真面目な方だと思ってたのに…」
スズはため息混じりに呟いた。
「ネズミノホシと同じね…。 警察とマフィアが繋がってたなんて、これから大騒ぎだわ。」
スズはスマホを取り出すと、電話をかけながら外に出ていった。署に連絡をしているようだ。
「俺たちは、ひと眠りして社長の見舞いに行くかぁ。」
トモルはふあぁ、とあくびをしながら言った。
「トモル、ちょっと待って。」
「ん?」
アイドはモアレの横にしゃがみ込んでいる。トモルが不思議そうに覗き込むと、モアレの目が開いていた。苦々しい表情で牙をむいている。
「目、覚めたのかよ。 早いな。」
「…僕は捕まったのか。」
「おまわりさんがなんでマフィアの獲物を横取りしたんだ?」
「…お前に話すわけないだろ。」
トモルは呆れた顔をした。アイドが間に入る。
「マフィアの裏に、ライオンがいるだろ?」
「な…!」
「アンタ、ライオンに脅されてるんだろ? あいつらのサイボーグ計画に、踊らされちゃったんじゃないの?」
「…お前、何者だ? どうしてそんなこと知ってるんだ?」
驚きを隠せないモアレを睨みつけ、アイドは続ける。
「質問してるのは俺だよ。 ロロクさんに傷を負わせて、こっちだって怒ってるんだ。 答えろよ。」
「…妹が、病気なんだ。 もうネコノホシの医療で助ける方法がない。 絶望している時に、あの方から声をかけてもらったんだ…。」
モアレは話しながら涙をぼろぼろとこぼし始めた。
「でも、もう終わりだ…。 僕は警察に捕まって、何もできないまま妹は病に侵されて死ぬ…」
アイドとトモルは黙ってモアレを見つめる。遠くからパトカーのサイレンの音が近づいてきた。
★
「そうか、犯人を捕まえてくれたんだな。 まさか警察が真犯人だったとは…」
病室のベッドから上体を起こし、包帯だらけのロロクが、アイドとトモルに話しかける。
「取り調べには協力的みたいだぜ。 まぁライオン共はトンズラした後で、アジトももぬけの空だったらしいけどな…」
トモルは目を細めて言う。
「結局、カラーチェンジガーネットはライオンたちに盗まれちゃいましたね…。 アレキサンドライトが盗られなくて良かったけど…」
「あぁ、アレキサンドライトなんて最初からないぞ。」
「えっ!?」
ロロクはフン、と笑いながら続ける。
「僕は誰にもアレキサンドライトを持っているなんて話していない。 リリーさんがガーネットを見て勘違いして食事の場で話していたのを盗み聞きされただけさ。」
「それでウチに盗みに入ったのか…」
アイドは脱力した様子だ。トモルが「そういえば」と、話し始める。
「お前、ライオンのサイボーグ計画について知ってたけど、あのフード被ったライオンから聞いたのか?」
「…うん、どうせトモルには隠してもバレるから話そうとは思ってたけど、今回の事件でバタバタしてて、話せなかった。」
「そりゃ仕方ないな。」
「そのことでロロクさんに相談したいことがあるんです。」
ロロクは黙ってアイドを見つめる。アイドはひとつ息をついて、話し始めた。
続く




