カラーチェンジの罠(その2)
「おい、起きろ!」
頬をはたかれ、ロロクは目を覚ました。ゆっくり辺りを見渡す。薄暗い倉庫の中で、椅子に縛られ座らされているようだ。マフィア猫たちに周りを囲まれている。
「…もう石は盗っただろう。」
「俺たちの用事は石だけじゃねぇんだ。」
ブチ猫がロロクを見下ろす。ハチワレ猫がブチ猫の隣に出て、口を開いた。
「この石を見つけた鉱脈の場所を教えな。」
ロロクはじろりとハチワレ猫を見上げる。
「教えてくれたら帰してあげる。 さっさと言いな。」
「嫌だね。 そんなことペラペラしゃべってたら商売上がったりだ。」
瞬間、ロロクの腹に拳が入った。
「がッ……!?」
ブチ猫が思い切り腹を殴ったのだ。ロロクは激しく咳き込む。ハチワレ猫は涼しい顔で続ける。
「吐かせる拷問ならいくらでもできるけど、こっちも時間がないからさっさと済ませたいのさ。 早く吐きな。」
「……フフッ。」
ロロクは笑う。ハチワレ猫は首を傾げてロロクの顎を掴んで乱暴に上を向かせる。
「こんな状況で、何かおかしいことがあるかい?」
「…さっさと石を持って逃げればいいものを。 馬鹿な連中だ。」
言った瞬間にブチ猫に殴りつけられる。ブチ猫は怒りで興奮し、激しく暴行を加える。
「舐めくさりやがって!! ブッ殺すぞ!? こんなことに時間使ってるヒマないんだよ!!」
「そのへんにしときな。 死んじまったら鉱脈の場所が聞き出せないよ。」
ロロクは椅子ごと倒れ込んで、頭と口端から血を流している。
「早く言わなきゃほんとに死んじまうよ。 コイツは短気だからさ。」
ハチワレ猫がしゃがみ込んでロロクに声をかける。ロロクは目と口をぎゅっと閉じたまま動かない。ブチ猫が肩を怒らせながらロロクに歩み寄る。
「この野郎…!!!」
突然、ドアがものすごい音を立てて吹き飛んだ。砂ぼこりが激しく舞う。
「な、な、何事だ!?」
砂ぼこりの中から白い影が飛び出し、猫たちの間を縫うように走り抜ける。猫たちは次々と倒れていった。ハチワレ猫とブチ猫の前で、影は止まる。スズが鋭い目で2人を睨みつける。
「随分貧弱な部下ね。 マフィアのくせに。」
「なんだてめぇ!?」
ブチ猫はスズの威圧感に押されながら声を上げたが、
「突入ーーーっ!!!」
どやどやと警官たちがなだれ込んできた。
「ひっ…!!」
ハチワレ猫とブチ猫は構えたが、大量の警官に飲まれてあっという間に取り押さえられた。ロロクは薄く目を開ける。
「小娘…?」
「ロロク!」
スズがロロクに駆け寄り、縄をほどいてくれた。ハンカチで止血をしながら、声をかける。
「すぐ救急車が来るから、大丈夫。そのまま動かないで。」
「…あぁ。」
こういう時冷静に対応できる所は、さすが警察官だな、とロロクはぼんやり考える。ハチワレ猫に手錠をかけながら、モアレが声を上げた。
「スズくん! 全員手錠かけたから、こいつらは私に任せて、ロロク氏の手当を頼むよ。」
「はい!」
悔しそうに歯を食いしばっていたハチワレ猫だが、急に目を見開いて騒ぎ出した。
「アレキサンドライトがない!?」
「はぁ? そんな出まかせ、信じるわけないだろ! 署まで来てもらうぞ!」
「ほんとにないんだよ! 上着のポケットに入れてたのに!!」
騒ぐハチワレ猫を引きずるようにして、モアレはパトカーに戻って行った。入れ替わりに救急隊が入ってくる。
「ケガ人は!?」
「ここです。 意識はありますが、重傷です。 簡単な応急処置はしました。 ロロク、病院連れてくからね。」
スズはロロクの上体を起こして声をかける。ロロクは傷だらけの顔をしかめて、口を開いた。
「その前に、君に頼みたいことがある。」
「…?」
★
フードを深く被った猫が1人、暗い路地裏を足早に走り抜ける。くねくねとあちこち曲がりながら、やがて窓の破れた廃ビルの前で立ち止まった。軽く周りを見渡すと、一定のリズムで扉をノックし、中に入って行った。薄暗い部屋にライオンが2人座っている。猫はフードを外した。
「来たか、モアレ。」
フードの下から警察官のモアレの顔が現れた。
「ボス、奴らは全員逮捕しました。」
「ご苦労。 成果も出さないしたっぱ共に、これ以上金をかけるわけにもいかないからな。」
「ボスの正体すら知らない雑魚どもです。 一度に片づけが終わり、ようございました。」
「それでモアレ。 あの石は持ってきたのだろうな?」
「はい、こちらに。」
モアレはニヤリと口端を上げ、ポケットから石を出した。ボスは石を受け取ると、隣のライオンにそのまま渡す。
「大粒のアレキサンドライトです。 奴らを取り押さえるときにスって参りました。」
石を渡されたライオンはルーペで石を見ていたが、一通り観察が終わるとボスに耳打ちをした。
「フフ…」
ボスは笑い出す。モアレは不思議そうにボスを見つめていたが、ボスから思い切り石を投げつけられた。
「大馬鹿者が! まんまと罠に嵌められおって!」
「ボス…!?」
モアレは慌てた表情で狼狽える。 もう1人のライオンが口を開いた。
「これはカラーチェンジガーネットだ。 価値はアレキサンドライトの足元にも及ばない。 偽物を掴まされたな、間抜けが。」
「そ、そんな馬鹿な…!」
ボスがガタッと音を立てて立ち上がる。たてがみを振り乱して、怒鳴り声を上げる。
「さっさと本物の石を盗ってこい!! 失敗は許さん!! 次に失敗すれば、お前の命はないぞ!!」
モアレは転がるようにしてビルから飛び出した。走りながら、考える。
(まずいぞ…。本物は店の中か? 今は深夜1時…。 今回の事件で店は防犯体制を強化するだろう…。狙うなら今夜しかない!)
続く




