カラーチェンジの罠
アイドはふわふわとした表情でギベオンの小屋から出てきた。手にはミュウからの手紙が握られている。手紙には、いろいろなことが書いてあった。
私的な手紙のやり取りが禁止されているため、ずっと連絡を取れなかったこと。毎日ライオンの衛兵が銃を持ってうろついているため、買い物ひとつするにも気が休まらないこと。他の星から来た動物たちの失踪が続いていることーーー。
手紙の最後にはこう書かれていた。
『お別れの時にアイちゃんと喧嘩してしまったこと、今でも後悔しています。 今は大変な状況ですが、必ず良い方向に進むと信じて毎日頑張ります。 きっと猫の星に帰って会いに行くからね。 ミュウ』
この手紙を書いてから3年、まだ彼女はシシノホシから帰ってきていない。アイドはため息をついて、ギベオンとの会話を思い出す。
『私はシシノホシを変えるための計画を立てている。 君にもどうか協力してほしい。』
『でも、俺に何ができるでしょうか…』
『今はとりあえず、君の働いているロロク貿易と取引させてもらえないだろうか。 私も資金集めが必要だし、隕石ならよく目が効くから役立てると思う。 何より、紅獅子の連中も資金集めに宝石を使っているというウワサだから、情報を得ることができるだろう。』
「ロロクさん、なんて言うかなぁ…。正直に言うしかないよな…。 隠したらトモルにバレるしな…。」
悶々と考えながら歩いていると、いつの間にか会社の近くまで来ていた。
「あ、もう着いちゃった。」
アイドは少し考え込んでいると、会社からトモルが飛び出て来た。
「わっ、トモル!? 戻ってたのか?」
「アイド! 帰ったのか! 大変だぜ!!」
「どうかしたの?」
トモルは息を整えながら続けた。
「社長が誘拐された!」
★
トモルが帰ってくる1時間ほど前の出来事である。
「ねーロロク、今度はアレキサンドライト仕入れておいてよね。」
「わかっていますよ。 また採掘に行きますから、採れたら連絡します。」
ロロク貿易からリリーとロロクが出てきた。リリーを見送ると、ロロクは店の中に入る。
「ふー、やれやれ。」
すぐにカランカランとドアの鐘の音がして、ロロクは振り返った。大柄なブチ猫が立っている。
「…いらっしゃいませ。」
「アレキサンドライトくれないか? あるんだろ?」
「生憎、今は在庫がございません。」
「嘘は良くねぇなぁ。」
ドアが開いて猫たちが次々と入ってくる。どの猫もガラが悪そうだ。
「…なんだ? お前たちは。」
「さっきの女とメシ食ってた時に言ってただろ? アレキサンドライトを持ってるって。」
(前にリリーさんと食事したときの話を聞かれたのか…)
「探させてもらうぞ。」
「おい! 何を勝手に…」
ロロクは他の猫に取り押さえられる。猫たちが辺りをゴソゴソと探し出すが、すぐに1匹の猫が声を上げた。
「アニキ! ありやした! でっけぇ青緑の石です!」
「アネゴ、これがアレキサンドライトか?」
アネゴと呼ばれて出てきたのは、白黒のハチワレ猫だった。
「お前は前にウチに来た…」
「そうよ、私たちマフィアなの。」
女はペンライトで石を照らすと、ニヤリと笑った。
「赤紫への鮮やかなカラーチェンジ…。 間違いないわね。」
ハチワレ猫は上着のポケットに石をしまい込むと、ロロクの方に向き直った。
「お目当てのものは見つかったけど、まだあなたに聞きたいことがあるの。 ちょっと場所を変えましょう。」
ロロクは薬品のついたハンカチで口を塞がれ、意識を手放した。
★
「ロロクさんが誘拐されたってどういうこと!?」
「戻ったら店内が荒らされてて、社長がどこにもいないからさ、こないだ社長がつけてた防犯カメラの映像見ながら警察に通報した!」
トモルはパソコンを開くと、アイドに映像を見せる。映像には、ロロクが複数の猫に運び出される様子が映っていた。
「どどどうしよう!? こいつら、ロロクさんをどこに連れてったんだ!?」
「警察に動画を送ったんだが、どうも前からマークしてたマフィアグループらしい。 アジトの場所もだいたいわかってるからすぐに向かうってよ。」
「俺たちも行かないと…」
立ち上がるアイドを、トモルは制止する。
「今は警察に任せようぜ。 さっきの奴らが留守を狙って石を盗みに来るかもしれねぇ…。俺たちは店を守ろう。」
「…わかった。」
★
夕暮れ時の街を歩く警官が1人。 白猫のスズだ。
「スズくーん!!」
後ろから名前を呼ばれ、スズは振り向いた。パトカーが横に停まる。窓から同僚のモアレが顔を見せた。
「モアレ先輩! どうかしたんですか?」
「まずいことになった。 前から張ってたマフィアたちが、宝石店を襲撃したんだ!」
「襲撃!?」
「しかも店主が誘拐されて…。 誘拐されたのは、ロロク氏だ。」
スズは目を見開く。
「ロロクが…!?」
「僕たちはこれからアジトに突入する! 君も協力してくれ!」
「わかりました!」
スズはパトカーに乗り込む。真っ赤な夕陽を横目に、パトカーは走り出した。
続く




