獅子の隕石(その2)
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昔、ヒトノホシがまだ地球と呼ばれていた頃、1人の科学者がいた。ずば抜けた頭脳を持っていたが、思想は極端だった。人間だけが支配し、破壊していく地球を嘆き、全ての哺乳動物に知恵を与える研究をしていた。知恵があれば、平等に世界を分け合うことができると考えたのだ。科学者は支持者を集めて世界各地を渡り、哺乳動物に知恵を与える薬を撒き散らした。
知恵を得た動物たちは人間と同じように話し、後ろ足を持つ動物は二本足で歩くようなり、寿命も人間と同じほどに伸びた。科学者の望んだ通りの結果になったと思われた。
ただ、知恵を得た動物たちは、同じく知恵を得た動物を食べることを拒むようになった。会話のできる相手が、泣き叫び、懇願するのを見て、心が痛むようになった。草食動物たちは肉食動物の排斥を呼びかけるようになり、肉食動物は飢えに苦しんだ。知恵の与えられなかった卵生動物たちを捕食することで飢えをしのいだが、すぐに地球では賄いきれなくなってしまった。生態系の崩壊が加速した地球を見て科学者は絶望し、自ら命を絶った。
科学の進んだ世界で動物たちはそれぞれの星を見つけるために宇宙へ飛び立ち、見つけた星で新しいコロニーを作って繁栄していった。こうして、ネコノホシやシシノホシなど、それぞれの星が出来上がったのである。
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「シシノホシは、君も知っての通りライオンの星だ。元々肉食動物の我々は数を減らし、鳥の畜産を盛んに行って食を賄ってきたのだ。だが、そんな食に苦しむライオンを救うと謳う政党が現れたのだ。 シンシャという男が率いる『紅獅子党』だ。」
「鳥肉なんかを食べる以外に、食糧問題を解決できる方法ですか? 一体どんな?」
「肉体のサイボーグ化だ。」
ギベオンは睨むように虚空を見つめる。
「サイボーグ化すれば食には困らないし長生きできるから全て解決だと言って支持を集め、政権を握ったのだ。」
「…言ってることは無茶苦茶ですけど、実現するなら確かに、長生きを望む動物はたくさんいそうですし、アリかなとは思います。」
ギベオンはキッとアイドを睨んだ。アイドは失言したかと思い身を堅くしたが、やがてギベオンはため息をひとつついた。
「確かに、重いケガや病気をした者などはサイボーグ化を望むこともあるだろう。しかし、問題は実験の方法だ。」
「方法?」
「奴らはライオンで実験しない。 他の動物を研究施設に強制連行して実験体にしている。」
「!!!!!」
「それに、実験はまだ一度も成功していない。施設に入って行く動物はいても、出てくる動物は1人もいないからだ。」
アイドの心は怒りと恐怖が入り混じり 、身体が震え始めた。ギベオンは目を細め、続ける。
「私は元々前の政府に仕えていたが、新しい政府になってからすぐに反対勢力と見なされ、7年もの間幽閉されていたのだ。 牢から出て自宅に戻った頃には、世界はすっかり紅獅子の連中に支配されて様変わりしていたよ。 私は怒りに震えたが、強大な力に立ち向かう術を持っていない。だから亡命することにしたのだ。 その時に亡命に手を貸してくれたのが、私の家の近くに住んでいたミュウだ。」
「ミュウ…」
「牢から出てきたばかりで、栄養失調でふらふらと歩く私を皆避けた。しかし、私の事情を知っていたミュウは、こっそり飢えた私の家にパンを持ってきたり、無邪気に笑いながら話をしてくれたのだ。 おそらく父親がネコノホシの役人だったから、私のことを知ったのだろう。 ある時、父親の手紙を盗み見て、ネコノホシから船が来ること、荷を積むための船のため忍び込みやすいことを教えてくれたのだ。 おかげで私はここに逃げることができた。」
ミュウはいつでも優しい。自分の危険を顧みず、手を差し伸べることができる強い猫だ。アイドの記憶に残る彼女の性格は、数年経っても変わらなかったのだ。
「彼女は、逃げようとしなかったんですか…?」
「両親を置いては行けないと…。 代わりに君宛ての手紙を預かっているんだ。 君を見つけるまでに時間がかかってしまったが…」
「手紙!?」
ギベオンは引き出しから手紙を一通取り出した。アイドの心拍数が上がる。表には見慣れた字で「アイちゃんへ」と書かれている。
「ミュウの字だ…」
アイドの目に涙が溢れる。ギベオンから手紙を受け取ると、恐る恐る爪で封を切った。
続く




