【書籍版3巻、発売記念SS】半台詞形式な座談会:【お題】「もし超大型騎士に『抱っこ』されるとしたら?」
【マリア】「ヴァンレットが褒められたいらしくて。もはや誰でもいいので、頭なでなでされるために『抱っこ』したいそうです」
マリアは、隣のヴァンレットを手で示しながら一同に問う。
彼は、この部屋に集まっている一同へ、笑っているみたいにも見える呑気な表情で「うむ」と言った。いつでもやるぞという前向きな目を、各自椅子やらを引っ張り出して適当に腰かけたり、立ったりしている友人達へと向けた。
すると、真っ先に目が合ったロイドが、美麗な真顔のまま、空気を五度も下げる殺気を放った。
【ロイド】「絶対にするな」
【モルツ】「遠まわしで言いますと、もし私にやろうものなら――殺しますよ」
座っているロイドの隣に、忠実な犬のようにして立っていたモルツが、細い銀縁眼鏡を揃えた指先で押し上げながら言う。かなり嫌なのが伝わってくる、珍しく殺気立ったストレートな台詞だった。
【グイード】「すまんが、俺はちょっと勘弁……」
【レイモンド】「俺だって嫌だぞ。……というか、なんで男に抱き上げられなきゃならないんだよ」
【ジーン】「うーん、俺もパスだな。すまんな、ヴァンレット」
【ニール】「俺もいい歳した大人だし、『抱っこ』とか必要ないからね!?」
それぞれの回答を受けたヴァンレットが、ちょっと肩を落とした。駄目なのか、という子犬みたいな目を、続いてポルペオへと向ける。
【ポルペオ】「私も断固拒否だ。そもそも、そこのメイドの方が適任だろうに」
【マリア】「私は、まっさきにご遠慮させて頂きました」
【ポルペオ】「清々しいくらいに凛々しく言い切るな。というかな、頭を撫でられたいからもはや誰でもいい、という時点で馬鹿者すぎる提案だぞ」
【マリア】「私も阿呆だと思います。しかし、彼は本気なのです」
マリアは真剣な表情で言うと、彼を見るように手で示す。友人達は、揃ってヴァンレットに目を向けた。
それから数秒ほど、場が沈黙で包まれた。
【グイード】「あ~っと……。ならさ、ほら、文官君とかどうだ?」
【アーシュ】「勘弁してくださいよ。この前、猫みたいに持ち上げられたのもショックだったのに……」
【ルクシア】「私もご遠慮致します。そもそも、私に子供扱いは必要ありませんから」
【ニール】「あれ? ルクシア様って十五歳だし、全然まだ子供じゃ――むがっ」
【グイード】「後輩、それはちょっと言わないでおいてやろうぜ」
ニールの口を塞いだグイードは、一旦少しだけ離れた。
既にルクシアは、所長として立派に仕事をしている身である。それを踏まえて、大人の対応をしたグイードを見やったロイドが「いい判断だ」と口にする。
【ロイド】「むしろ、ニールの口から子供だという指摘が飛び出したら、俺が殺してる」
【レイモンド】「お前、常々『あんなのが俺より年上とは~』って、言ってるもんな……」
【マリア】「……まぁ、多分それって、同年齢組と後輩メンバーはそう思っているでしょうね」
【モルツ】「私は『同年齢組』ですが、何か?」
【マリア】「モルツさん、その括りが気に食わないからって、その部分を強調して言い返してくるのは、やめてくださいよ……」
それはそれでニールが可哀そうだぞ、とマリアは同情を込めてモルツを見つめ返す。彼は「お前こそ、露骨にその目を寄越すのをおやめなさい」と言った。
【国王アヴェイン】「ははは、抱っこくらいさせてやればいいだろう。俺はされる気はさらさらないが、その提案は実に面白い。愉快だ。――メイド以外の誰か、今すぐ『お姫様抱っこ』されろ。クソ笑ってやろう」
【宰相ベルアーノ】「陛下、ハードルが上がっております。なんで『お姫様抱っこ』になるんですか。そもそも奴に『お姫様抱っこ』は無理かと……」
【グイード】「カトリーナ、それ好きだもんな~。俺のアリーシアちゃんも、たまにやると今でも喜んでくれるぜ」
【レイモンド】「そもそもさ、アリーシアはツンが目立つだけで、結婚前からそのサービスが一番お気に入りだろ……。まぁ、俺も妻にはたまにするな」
そこで、アヴェインとグイードとレイモンド、そしてマリア達は全員揃ってポルペオを見た。彼が似合わないヅラの下で、太い黒縁眼鏡の向こうにある黄金色の切れ長の瞳を顰める。
【ポルペオ】「なんだ、その目は?」
【グイード】「お前のそういう話って、あんま聞かないなぁって?」
【ポルペオ】「話すほどの事ではないだろう。いいか、私は彼女とは婚約者として過ごして結婚し――」
【マリア】「意外とロマンチックですよね。結婚前に、舞踏会から帰る時に彼女を『お姫様抱っこ』して階段を降りてましたし」
【ポルペオ】「待て。なんでお前がソレを知ってる?」
【ジーン】「あ~、あったな。ちょっくら面白い話でもしてやろうと思ったのに、いい雰囲気だったし、これは邪魔しちゃいかんな~と声を掛けられなかったんだわ」
【ポルペオ】「おいジーン。そもそも、貴様はいつも私の邪魔をしてくれおって――」
説教が開始されそうな雰囲気を察して、グイードがニールを離すと「まぁまぁ落ち着けって」と、ポルペオに歩み寄る。それから、楽な姿勢で椅子に座り直した。
【グイード】「話を戻すけどさ。今コンビ組まされてる同僚だし、お姫様抱っこ、アローとかどうだ?」
【アロー】「急に僕を巻き込むのはやめてください、グイードさん。というか、なんで『抱っこ』が『お姫様抱っこ』という最悪な形でグレードアップしているんですか。妻にだってなかなかしないのに……」
【グイード】「あれ? 意外と奥手なのか?」
【アロー】「突っ込んで訊いてこないでください……あなた達が、普段からオープン過ぎるんです」
アローはそう言いながら、赤面した顔を震える手で押さえた。
これまで見て来た事が、頭の中には色々と浮かんでいるようだった。しかし、もはや言葉にならない様子で耳まで真っ赤になってしまっている。
【グイード】「自分の妻を好きだと言って、何が悪いんだ?」
【アロー】「そっちもですけど、あなた達は色々とオープン過ぎるんですよ」
【ジーン】「妻になったからって、デートをしないとかないだろ? 普通だって」
【アロー】「違います。本人に向かってストレートな台詞を吐くうえ、恥ずかしげもなくサービスしたりするじゃないですか」
【グイード】「隠す時は隠すぞ。その時の雰囲気と状況による」
【レイモンド】「まぁ、確かにそうだな。ちょっと本で隠して、さらっとやるとか」
思い出しながら、レイモンドが自分より結婚歴が浅い年下の彼に助言するように言う。それを聞いたアローは「手慣れすぎてる、もうヤだ……」と、ますます顔を押さえて小さくなる。
【国王アヴェイン】「ん? そういえば、この前俺がカトリーナといた時に――」
【アロー】「お願いです陛下ソレ言うの絶対やめてください! あなた達にとっては軽い恋人スキンシップ範囲内でも、恐らくこっちではピーかモザイク確定ですよ!?」
【宰相ベルアーノ】「…………(憐れむ目をアローに向ける)」
【ジーン】「ははははは、一呼吸で言い切ったなぁ。そして、想像つくわぁ。というかさ、それただのキs――」
パニックになったアローが、タイミング良くそばにあったクッションを投げた。それをジーンがひょいと避けるのを見て、ロイドが「チッ」と舌打ちする。
そんな中、モルツが、飛んでいったクッションの前にすかさず移動した。しっかり顔面で受け止めると、じっくり吟味した後「……残念な威力です」と言った。
その時、マリアが「あ」と隣を見る。
【マリア】「ヴァンレットが捨てられた子犬みたいな感じになってる……。すまないアーシュ、彼に『お姫様抱っこ』させてやってくれ」
【アーシュ】「おい待て。なんでお前の方も『お姫様抱っこ』に悪発展してんだよ、嫌に決まってるだろ」
【ラジェット】「だからって、こっちを見ないで欲しいな、アーシュ。僕だって無理だよ、されるよりする方が断然いいし」
【キッシュ】「そもそもさ、なんで軍人の皆様方で、伝言ゲームよろしく自然な感じで、提案が『お姫様抱っこ』に変更されているのか分からないんだが。メイドちゃん、ロマンあるだろ。されてあげろよ」
【マリア】「私は、する側です」
【アーシュ】「お前がするのか!? いや明らかにおかしいだろ。デカい男を、女のお前が『お姫様抱っこ』って!」
ぎゃいぎゃい騒ぐ彼らのそばで、ルクシアが困惑気味に、そしてどこか真剣そうにゆっくりと首を傾げる。
【ルクシア】「そもそも、男性の会話に女性が一人だけ自然と交じっている事に、違和感を覚えないのでしょうか……」
【ロイド】「………………」
【グイード】「あれ、ロイドどうした?」
【レイモンド】「横顔がすげぇ真面目なんだが……。え、仕事のこと考えてるのか?」
【ジーン】「ぶはっ。このガキが今、何を考えているのか手に取るように分かって、超ウケる!」
その時、ニールがある方向を見て「あれ?」と気付いた。マリア達も、ぷるぷると震えているその人物の異変にようやく気付いて、揃って目を向ける。
【謎の人物】「おいいいいいいい!? 何その目、全然無視してましたけど何かって感じじゃねぇかあああああああ! しかもなんだよ、この『謎の人物』って!? これ、書籍版3巻の記念の集まりなんじゃねぇの!? なのに、なんでこの俺がおいてけぼりなんだよ!」
すると、そちらを見たグイードが、困ったように眉を下げる。
【グイード】「涙目で怒るなよ……。だってさ、ほら、こっちでお前の名前とか出てねぇし?」
【謎の人物】「だからってこの扱い酷くね!? 見ろよッ友人メンバーの一人なのに、俺の名前んところ『謎の人物』表記だぞ!?」
【グイード】「出てないもんは出てないし、まぁ出ないから仕方がないっていうか」
【謎の人物】「ちょっと待てやああああああ! めっちゃ投げやりな感じじゃね!? 俺は、向こう(書籍版)でもあんたに迷惑掛けられたばっかりなんだけど!?」
【グイード】「何が?」
【レイモンド】「本来は最終章近くで、名前と数台詞だけで登場する予定だったらしいぞ。ただ、後になって※ピ―――※に深い関わりあるからどうしようってなったけど、こっちでの修正も厳しいし、出したら出したで余計長くなる。少しでも展開早目にしたほうがいいだろうって事で諦めた。そうしたら書籍版3巻出ることが決まったって連絡がきて「ありがとう!」って感激した、と」
【謎の人物】「何その最後の感想みたいなのは!? というか誰の言葉を代弁してんの!?」
それを見ていたマリアは、にこっと笑っただけでスルーした。視線を、そのままアーシュへと向ける。
【マリア】「ね? ちょっとアーシュに似てるでしょ?」
【アーシュ】「どこが……? つか、あの人、マジな涙目じゃね……?」
【謎の人物】「チクショーその※※※※※※※※※※※※※※※!? ※※※※※※※※※※ッ! ※※※※※※!?」
【ジーン】「ははは、とうとう台詞にモザイク入ったな~」
その時、一人の人物が「よいしょ」と言って立ち上がった。
【???】「さて、私達はもう行こうか」
【謎の人物】「えええぇぇぇぇぇぇ! ちょ、ま、それでいいんですか!? 俺ら全く何も話せてないですよ!?」
【ロイド】「おい。その人に無理をさせるなよ」
【謎の人物】「この引きずられている構図を見て、普通その台詞出る!? いや確かに書籍版では何度か名前も出て紹介されていて、出会いのエピソードもぶっこまれてる人だけどさ、この記念SSで力設定だけおかしい事になってね!?」
【???】「この年齢を気遣わせてしまって、すまないねぇ。若い君達の賑やかな空気に触れられて、楽しかったよ」
そう言った???が、被っている帽子を少しだけ上げて、紳士らしく挨拶する。
【???】「それでは、一旦さようなら」
マリア達は小さく苦笑すると、それから軽く手を振り返して、出て行く二人を見送った。
【ニール】「お嬢ちゃん。それで、ヴァンレットはどうするの?」
【マリア】「仕方ないですわ。ここは、使用人仲間のマーク辺りに突撃してこようと思います。今のところ、ヴァンレットはアーバンド侯爵家の一部の使用人メンバーと面識があります。つまり、それは可能です」
【ジーン】「親友よ、結局のところ、させてあげるつもりではいるんだな……。相変わらず面倒見が良くて、なんて優しいやつなんだ。ほろりとクるわ……」
そこで、グイードとモルツが、ヴァンレットに目を向ける。
【グイード】「結局、お前ほとんど喋らなかったな~」
【モルツ】「私も少々気が立ってしまい、そちらを気にかけるのを忘れていました。何か言いたい事は?」
【ヴァンレット】「うむ。マリアの『友人で仲間』の、マークという人を抱っこしてこようと思う」
【ニール】「おぉ……(ごくり)。ヴァンレットの笑顔の目がマジだ。誰かは分からないけど、どんまい!」
【グイード】「いや、その前にきちんと自分のアピールしろよ。書籍版3巻、お前のことも書かれてるのに……まぁ、それからニールのあのエピソードも分かるな」
【マリア】「それでは、行ってまいります」
【グイード】「マジで行くのか? というかさ、マリアちゃん、せめて俺の話くらい聞いてあげて――」
【マリア】「行くぞ、ヴァンレット! ついてこい!」
意気揚々、元気たっぷりにバタバタと走り去るマリアとヴァンレット。グイードが「ええぇぇぇぇ……」とするのも気にせず、それぞれ座ったり立ったりもたれかかったりしていた面々が、「解散か」と口にして立ち上がる。
完
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