十八章 元黒騎士部隊四人の初任務(3)
定時の仕事開始の時刻を過ぎた王宮区内は、人の流れも比較的落ち着き始めていた。仕事の移動も増えるから、相変わらず雑踏としていて公共区などはがやがやと混みあっているけれど、気を抜いて肩がぶつかってしまうというほどではない。
一番左にニール、彼と手を繋いだヴァンレット。その隣にジーンがいて、マリアが右側にいるという並び順で、四人は服装と剣を隠すように、旅用のローブを揺らしながら、辿り着いた公共区を背筋を伸ばして歩いていた。
今日に作戦が決行されるとは思えないくらい、普段通りの王宮だ。
いや、そう装っているので当然だろうか。
時代が変わっても不思議とあの頃と同じようにして、高い天井の下を行き来する人々の様子を、マリアはぼんやりと眺めやった。
十六年前には考えられなかった事だが、つまりは国王陛下を筆頭に、軍部ではトップであるロイドを中心にして、彼らは『裏切り者』である内通者を疑っているのだ。そのため、本日の作戦に関しても、ギリギリまで全てに知らされる事はない。
それが少しだけ、マリアには不思議だった。
そこまで徹底してやらざるを得なくなった起点というか、作戦の出発点は、はたしてどこだったのだろうか、とチラリと思ってしまう。
多くの人に受け入れられなかったけれど、王宮での毎日は、そんな事も気にならないくらいにとても賑やかだった。また友人たちのいる『ここ』に戻ってきたい、と、いつもそう考えていた前世の頃を思い出した。
必ず帰ってくるよと誓って、戦い続けた。
そして、オブライトは騎士として忠誠を誓った友を裏切って、『彼女』のために命を使い、戦友と部下たちを、この青い空の下に置いていったのだ。
そのせいだろうか。あの日に見た空の青を、よく覚えている。
共に逝く事をどうか許してくれ、と『彼女』を抱き寄せた。忘れもしない、自分がオブライトとして見た、最期の情景だった。
「お嬢ちゃん、飴玉食べる?」
マリアはその声を聞いて、ふっと、そちらへ冷静な眼差しを向けた。十六年前と全く変わらない元部下――ニールが、横目にチラリと見下ろしたジーンと、前を見ているヴァンレットの向こうから、首を伸ばしてこちら覗きこんでいた。
ああ、らしくない事を考えた。つい、任務に立つ時の王宮の眺めに、当時の事を感傷的に思い返してしまっていたらしい。そう遅れて気付かされたマリアは、何も答えられなくて、どうしたものかと思って、困ったように小さく笑った。
ニールが、パチクリと瞬きした。こちらを見たヴァンレットが、不思議そうに首を傾げて、ジーンの向こうから大きな背を屈めるように覗きこんでくる。
「ねぇ、お嬢ちゃん……? なんか変だけど、どうしたの――」
どこか戸惑うようにニールがそう口にした時、その続く台詞を遮るように、場の空気を一転させる聞き慣れない済んだ高い青年の声が上がった。
「あ! 『リボンのメイド』の『マリアちゃん』だ」
人混みの足音や雑談の声を、押しのけるみたいな大きな声が聞こえて、マリア達は揃ってピタリと足を止めていた。
自分を『マリアちゃん』なんて呼んでいるのは、グイードくらいのものだ。他の人には呼ばれていなかったから、マリアは訝った。一体どこのどいつだろうか、と声がした方に目を向けてみると、そこには白衣に身を包んだ眼鏡の青年がいた。
足を止めてこちらを見ているその青年は、彫りの深くない目鼻立ちの整った質素な印象が残る顔に、呑気な表情を浮かべていた。一見すると、似合う眼鏡もあって頭脳派そうながらも、その瞳は若さに輝いていて、おちゃめなイメージもある。
マリアは最近の記憶を辿ったところで、彼が救護班のラジェットであると思い出した。アーシュがお世話になっている、例の超不味いとお墨付きの『気付け薬』の開発者である。
以前、偶然会った際にもラジェットは、個人的に話すのは初めてなのに、慣れたように声をかけてきた事もあった。それを考えると、朝一番なのにどこに行くの、と訊くくらいなら、世間話でやってしまいそうな気もする。
それはそれで、ちょっと面倒な状況ではある。そうマリアが考えていると、ジーンがこちらの頭の上から、手を振る眼鏡の白衣の青年を見て首を捻った。
「親友よ、あれって誰だ? 腕に『救護班』ってあるけど」
「アーシュが女性恐怖症なのは、知ってる?」
「おぅ。女性恐怖症ってのは、調書を見て知ってる」
簡単に答えながら、ジーンは背を丸めるようにして、高い位置にある自身の頭を、横目にチラリと見上げてくるマリアに近づけた。
「アーシュが倒れるたび出動させられている班のメンバーの一人で、全員が彼とは長い付き合いの友人らしくて。気絶したアーシュを叩き起こすために、毎回すごく不味い『気付け薬』を調合しているのが、あの彼、『ラジェット』なの」
「なんだソレ、めちゃくちゃ面白いんだけど」
今度ちょっとロイドつかまえて詳しく聞いてみるわ、とジーンは無精鬚を撫でて呟いた。
先程うっかり素の口調で話してしまっていたマリアは、小声とはいえ、念のため少女らしく話していた。ニールが「知り合い? ねぇ、お嬢ちゃんの知り合い?」と、ヴァンレットの手を握ったまま落ち着きなく言うのを見て、聞こえなかったらしいと分かって、さて、どう説明したもんかなと考える。
すると、少し思案したジーンが、疑問の表情を浮かべる二人を振り返って、先に口を開いた。
「どうやら、『アーシュ君』の友人らしい」
「副隊長! 実は俺、白衣繋がりで、そうなんじゃないかとは思ってました!」
「お前、調子乗って適当に言ってるけどな、白衣は関係ねぇからな? ヴァンレットは、確か文官君とは一回会ってるんだっけか。覚えるか?」
尋ねられたヴァンレットが、子供みたいな目でしばしジーンを見つめ返し、それから「うむ」と自信を漂わせて頷いた。
「マリアや殿下と一緒にいた『文官』です」
「…………あ~なるほどな、うん、名前を覚えてやろうぜ。何せ一緒に仲良く頑張ってる『友人』だもんな、親友?」
ジーンがこちらを見て、唐突に話を振ってきた。
マリアは不思議に思って首を傾げつつも、ヴァンレットが同じように視線を向けてきたので「そうね」と答えて、こう続けた。
「アーシュは、一緒にルクシア様を助けている仲間で、友達よ」
その間にも、向こうにいたラジェットが、通行人を避けながらこちらに歩いてくるのが見えた。ジーン達と一緒であると、余計に理由を尋ねられそうな気もしたから、ひとまずマリアは背中で軍人式の合図を出して、少し離れて待っているように指示した。
状況から親友の考えを察したジーンは、「了解」と馴染みのある了承を口にして、ニールとヴァンレットを連れて壁際に向かって少し移動する。
その肉付きの悪い高い背丈の後ろ姿が、王宮一の大男であるヴァンレットと共に人の波をかき分けた。そして、彼らが人の流れが少ない壁際近くに寄って、並んで足を止めたのを見届けたところで、マリアは視線を戻した。
少しもしないうちに目の前に立ったラジェットが、ガラス部分も縁も薄くて細い、軽量を重視されたような眼鏡を押し上げながら「おはよう」と言った。片腕には紙袋を抱えていて、開いた口部分から詰め込まれた包帯などが覗いている。
「えぇと、おはようございます。ラジェットさん――とお呼びしても?」
「あははは、今更だなぁ。前に一度自己紹介した仲なのに」
律儀だねぇ、メイドだからかな、とラジェットはコテリと首を傾げる。
マリアは、なんと相槌を打てばいいのか分からず、「はぁ」と間の抜けた声を上げた。なんで声をかけたんだろうなと思ったし、ジーン達のところに目を向けられないだろうかと半ばハラハラして動向を窺っていると、彼が続けて口を開いた。
「君がいない時、アーシュは二回ぶっ倒れたよ」
数秒遅れて、マリアは「はぁ!?」と叫んでいた。
最近はほとんどなかったので「え」「嘘」「マジか」「いつ?」と、途切れ途切れに思い付くまま、疑問の言葉を口にしてしまう。
すると、ラジェットが優しげな瞳で、にっこりと笑んだ。実に爽やかな笑顔を浮かべて、残っていた片手を上げて指折り説明し始めた。
「一昨日が一回、昨日は二回も、文官の仕事場に僕ら救護第十七班が駆り出された。多分プライドが強いから、アーシュは、君や殿下には絶対に知られたくないだろうと思ってね。だから、こうして僕が暴露する事にした」
「は……? あんた一体何やって――あ、いえ、その。一体どうして、そんな事をしようと思ったのですか?」
友人ではなかっただろうか、とマリアは不思議でならなかった。何故アーシュが嫌がると分かって、それを自分に知らせるのだろう?
尋ねてすぐに、ラジェットがとても楽しそうに笑った。
「あははは、昨日の一時間とちょっとの間に、二回も出動させられた腹いせだよ。同じ文官の子と少し肘が触れただけで、バタンキューだよ? 信じられる?」
ラジェットが、あっさりと理由を教えて「やれやれ、困った友人だよ」と言葉をしめた。マリアとしては、アーシュが女性恐怖症となった原因に、一体どんな過去があるのだろうか、とますます気になってしまった。
自分に対してはほとんど出なくなっていたから、恐らく免疫も、少しずつではあるが付くのではないだろうか――とは思いたいけれど、出会った際の様子を思い返すと自信がない。
「うん、それだけ。呼び止めちゃってごめんね」
「え、それだけ?」
マジか、たったそれだけのために、こいつは呼び止めたのか?
今にも『さよなら』とあっさり別れを告げそうな様子だったから、マリアは思わず尋ね返してしまっていた。そうしたら、ラジェットがにっこりと笑って「だって本人がすぐそこまできてるし」と、ある方向を指した。
そこには、この公共区の広間に直結している大きな廊下を、少し駆け足で進んでくるアーシュの姿があった。ルクシアのところに行く前のようで、文官服の上に白衣はない。
すると、こちらから向けられる二人分の視線を察知したのか、アーシュが懐かない犬みたいな顔を「ん?」と向けてきた。目が合った拍子に「そんなところにいたのか」と言うように、彼の目が小さく見開かれて、こちらに方向転換する。
唐突に駆け出した彼を見て、近くにいた貴族の男たちが煩わしそうによけた。並んで立つジーン達が、こちらに走ってくる『文官君』に気付いて、視線を向けた。
その時、アーシュが少し遅れて、ようやく隣にいる人物に気付いた様子で顔を顰めた。それを見たラジェットが「バレちゃった」と全く困った素振りもなく口にする中、彼が向こうからでも聞こえるよう、大きな声を上げてきた。
「おいっ、ラジェット。なんでお前がそこにいるんだ?」
「君が昨日、二回も女性恐怖症で倒れた事を、告げ口するため」
「てんめぇぇぇえええ!」
わざわざ何してんだよぶっ殺す、とアーシュが猛然と駆けた。
ラジェットが「あははははは」と笑って踵を返した。こちらが呼び止める暇も与えず、「じゃあね、『リボンのメイド』のマリアちゃん」と別れの言葉を告げて、あっさり通行人の向こうに紛れていってしまう。
マリアは、追い駆けるべきだろうか、と一歩を踏み出したところでピタリと動きを止めた。視界の端で、真っ赤な髪が動くのが見えて、思わず身に染みた条件反射のように目を向けて「あ」と口にした。
待つという暇な時間に耐性がないニールが、自身に気付かず目の前を通り過ぎようとしたアーシュに何を思ったのか、ついでとばかりに足を出して引っ掛けたのだ。
全速力で走っていたアーシュが、「おわ!?」と短い悲鳴を上げた。駆けた勢いのまま、一気にバランスを崩して躓いた地点から派手に飛んだ瞬間、マリアは一瞬にして移動し、揃えた両足でニールの顔面を踏みつけていた。
「何やってんだ阿呆」
「ぐはっ」
ジーンが「おぉ、見事に決まったなぁ」と感心するそばで、顔面から床に向かうアーシュの背中の衣服を、ヴァンレットが片手で掴んで、ぐいっと引き上げて猫のように持ち上げる。
派手な転倒から救い出されたとはいえ、全力で駆ける中でのちょっかいは、大変心臓に悪い。ヴァンレットに持ち上げられたアーシュの横顔には、ひどい驚きの後の脱力感があり、そこには静かな憤りも浮かんでいた。
とはいえ、怪我をしてしまう事がなくて良かった。
マリアは安堵感を覚えながら、十六年前と同じように「ヴァンレット、よくやった」と声をかけていた。ヴァンレットが「マリアの『友人』だから」と答えるのを聞きながら、こめかみに青筋を浮かべるアーシュの横顔を覗きこむ。
「アーシュ、大丈夫?」
「…………俺、なんで足をひっかけられたんだ……?」
こちらを見ないまま、アーシュが怒気を孕む低い声で、そう言った。
マリアは、それを本人に問うべく、やや乱れたローブの前を整えるニールをジロリと睨みつけた。どういうカラクリかは知らないが、直前に急所をそらして大ダメージを回避したニールが、こっちを見て「ごめんね、アーシュ君」と反省のない表情で口を開いた。
「ちょっと挨拶しようかなと思ったんだけど、目の前を走られると、つい出来心が」
俺ってお茶目なんだよ、としみじみといった風で口にしたニールを見下ろして、ジーンが困ったように眉尻を少し落とした。
「お前の場合、時によって『ちょっと』の度合いが迷惑級なんだよなぁ……」
「ぐぅ――理由もなく足を引っ掛けるのはやめろと、何度も言い聞かせていたのに、こいつときたら……ッ」
思わず目頭を押さえて、マリアは口の中で小さく愚痴ってしまった。
ここで怒りを爆発させてはいけないと、自分に言い聞かせながら丹念に目頭を揉み解す。部下や知人や友人たちのほとんどもされていて、足を引っ掛けられたロイド少年がブチ切れた事もあり、それが様々と思い出されて頭が痛くなった。
二度目の顔合わせとなったアーシュが、自分を持ち上げているのが近衛騎士部隊の隊長であるヴァンレット・ウォスカーであると遅れて気付き、慌てて「うわっ、すみません」と謝った。床に降ろされた際にも、再びきちんと頭を下げて「助かりました」と礼を告げる。
どこかの誰かと違って、そこはしっかりしている二十歳である。
顔から手を離したマリアは、ヴァンレットやニールが二十歳だった頃と重ねて、遠い目で乾いた笑みを浮かべてしまった。ジーンがメンバーを代表するように「すまなかったな」と詫びると、アーシュは「いえっ、大臣様が謝るほどでは」と言って、すぐにチラリとこちらを見てきた。
何か用があって自分を捜していたらしい。そう感じて、マリアは尋ねてみた。
「どうしたの、アーシュ?」
「えぇと、実は、レイモンド総帥様から今日動くらしいって事を聞いてさ……まだ出発していなくて、良かった」
視線を落としたアーシュが、どこかほっとした様子で、後半は独り言のように口にした。ほんの数秒ほど考え込んだかと思うと、瞳に意思の強さを宿して顔を上げる。
「あのさ、お前、女だろ? だから、やっぱり一人で行かせるのも――」
そういえば、彼は時々ちゃんと女の子扱いするところもある青年だった。そう思い出したマリアは、つい苦笑を浮かべて「大丈夫よ、アーシュ」と、続く彼の台詞をやんわりと遮っていた。
「私がやるのは、『ちょっとしたお手伝い』くらいだから」
それを耳にしたヴァンレットが、親切に訂正しようと声を掛けかけた口を、咄嗟にニールとジーンがほぼ同時に手で塞いだ。
その様子を、アーシュが訝しむように見やる。マリアは小さく苦笑して、それから軽く握った拳の裏で、隣にいたジーンの腹をポスンと叩いてこう続けた。
「それに『仲間』だっているわ。だから、ルクシア様の事は任せたわよ」
すると、途端にジーンが、カラカラと愉快そうに笑って「当然だとも」と言い、ヴァンレットから手を離して胸を張った。ぐっと背を屈めるようにして、自分よりも随分低い青年である文官アーシュを覗き込む。
「あの時は『俺の親友をよろしくな』と言ったが、今は、俺がこうしてマリアのそばにいる。だから、なんの心配だっていらねぇんだ」
先日『総隊長』に追い駆けられていた『大臣』が、マリアを脇に抱えて走るという出来事があった。
初めての顔合わせになったその時の、別れ際に言われた台詞だったと思い出した様子のアーシュが、けれど一体何を納得すればいいのか、といった戸惑いの表情を浮かべる。
「でも、大臣様――」
「俺らは『最高の相棒同士』なんだぜ、超名コンビなのよ。だから信じろよ、文官アーシュ君」
マリアに続いて、今度はジーンにも台詞を遮られたアーシュが、こちらの同じローブ姿を確認するかのように順に見つめてきた。
揃って呑気そうな笑顔を浮かべていることに、少し戸惑っている様子だった。これから何かしらの任務で外に出るのに、全くそんな様子もないのが不思議なのだろうか、とマリアは思い至って、困ったようにふっと微笑をこぼしてしまった。
心配しないでいいんだよ、絶対に大丈夫だから。
王宮で見送ってくれる人には、いつもそう言ってきた。だからマリアは、十六年前と同じく、元部下たちとそう伝える笑顔でアーシュの様子を見守っていた。
けれど彼が再び、「でも」と躊躇するように言ったのを見て、ジーンが「仕方ないか」と小さく笑って、説得するようにこう続けた。
「無事に『ちゃんと帰ってくる』。んで、メシを奢ってやる」
「……大臣様、それ、関係あります?」
「仕事が成功したら、たらふく食うのがご褒美なんだぜ。何せ二十二歳までは成長期らしいし、食べるのは大事だろ? ルクシア様も、まだ十五歳だもんなぁ」
うーん、俺も歳を取ったね、参った、とはぐらかすようにジーンは続けて、アーシュの頭をぐしゃりと撫でた。ヴァンレットが、笑っているようにも見える表情で目を留めて「褒められてる」と感想を口にした。
アーシュが「二十二歳って、どこかで聞いたような台詞だな……?」と、ぐしゃぐしゃにされた髪を整えもせず顔を顰めた。ニールも「なんか似たようなのがあった気が」と首を捻ったものの、彼と違って数秒後には「思い出せないや」と諦めていた。
マリアは「ルクシア様の事、頼んだわよ」と言って、アーシュと別れた。
人混みの中から、じっと見送る彼からだいぶ離れたところで、ジーンが指を組んで左右の手の関節をごきりと鳴らし、こう言った。
「さぁ、こっからは大人の時間だぜ。久々に『四人の班』、いっちょ派手に暴れてやるか」
「あの腐れ外道野郎の、活動大本の屋敷だったな。――潰す」
「お嬢ちゃん、めちゃくちゃ口悪くない?」
女の子が潰すなんて言っちゃ駄目だよ、とはいえまぁ――と、ニールは前方を見据えたまま続ける。
「俺も一昨日のは、さすがに久々ってくらいプッツンきたんだよね~。張り切って用心棒の若造共をぶっ飛ばすわ」
「あれは許せないな」
ヴァンレットがそう言って、まるで貴族の美丈夫にも見える、にっこりとした笑顔を浮かべた。けれど子供みたいな無垢の目のままなのに、その瞳孔は害意も殺意もないまま開いていた。
ハーパー本人を直接ボコボコにする役目ではないが、奴の一番デカい拠点であるオークション会場を潰せるのだ。一見すると落ち着いた様子で今日までを過ごしていたマリア達は、実のところ、一昨日の件で大変怒っていた。
横を通り過ぎた衛兵班が、殺気立った目を見た訳でもないのに、ぶるりと震えて立ち止まり、堂々と背を伸ばして歩き去る、体格の違う四人の後ろ姿を見送った。




