↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
8/10

第8話 ヤンデレと普通のデート

「デートしよ♡」


 翌日。


 一限が終わった瞬間、元相棒が言った。


「嫌」


「昨日いいって言ったじゃん」


「遊びに行くとは言った。デートとは言ってない」


「男女二人で遊びに行く」


「うん」


「デート♡」


「違う」


「デート♡」


「違う」


「デート♡」


「しつこい」


 右を見る。


 眼鏡女。


「…………」


 無言。


「どうした?」


「別に」


「怒ってる?」


「怒ってない」


「顔怖いよ」


「生まれつき」


「昨日までそんな顔じゃなかったけど」


「今日生まれた」


「怖っ」


 元相棒が俺の腕を引く。


「じゃ、行こ♡」


「今から?」


「空きコマでしょ?」


「そうだけど」


 立ち上がる。


 すると当然。


「私も行く」


 眼鏡女も立った。


「二人でって言ったでしょ?」


「監視」


「何の?」


「こいつの」


 元相棒を指差す。


「危険人物だから」


「あなたに言われたくないなぁ」


「私は更生した」


「昨日、彼の履修全部調べてたよね?」


「…………」


「更生?」


「……途中」


「まだ服役中じゃん」


「誰が犯罪者だ!」


 俺はため息をつく。


「眼鏡」


「何?」


「今日は来なくていいよ」


「…………」


 止まった。


「何で?」


「二人でって約束したから」


「…………」


「それに」


 元相棒を見る。


「こいつとも普通の思い出作るって言ったし」


「…………」


 眼鏡女が目を逸らす。


「そっか」


「うん」


「…………」


 座った。


 あっさり。


「いいの?」


「約束したなら仕方ないでしょ」


「へえ」


「何?」


「いや」


 ちょっと意外だった。


「ただし」


 眼鏡女がこちらを見る。


「夜九時までには帰ってきて」


「お母さん?」


「変なところ行かない」


「お母さんじゃん」


「連絡にはちゃんと出る」


「完全にお母さんじゃん」


「あと」


 元相棒を指差す。


「手を出すな」


「彼女?」


「…………」


「…………」


 眼鏡女の顔が赤くなる。


「うるさい!!」


     ◇


「で」


 大学を出た。


「どこ行く?」


「映画♡」


「お」


 普通だ。


「その後ご飯」


「普通だ」


「その後ホテル」


「帰る」


「冗談♡」


「目が笑ってない」


「ふふ」


「やっぱり眼鏡連れてくればよかったかな」


「もう後悔してる?」


「若干」


「ひどいなぁ」


 元相棒が笑う。


「でも」


「?」


「来てくれてありがと」


「…………」


 普通だった。


「どうした?」


「いや」


「何?」


「お前も普通にありがとうとか言うんだな」


「私を何だと思ってるの?」


「白馬様誘拐犯」


「まだ根に持ってる?」


「一生」


「馬、大好きだね」


「うん」


「私と馬なら?」


「白馬様」


「早いなぁ」


     ◇


 映画館。


「何見る?」


「恋愛映画」


「嫌」


「何で?」


「恥ずかしい」


「かわいい♡」


「ホラー」


「怖いの好き?」


「まあ」


「じゃあそれにしよ」


「いいの?」


「うん」


 チケットを買う。


 座席。


 俺。


 元相棒。


「…………」


 映画が始まった。


 暗くなる。


 静かになる。


 スクリーンを見る。


 十分。


 二十分。


 三十分。


「…………」


 横を見る。


 元相棒。


「…………」


 普通に見ている。


「何?」


「いや」


「私の顔に何かついてる?」


「何も」


「じゃあ映画見なよ」


「うん」


 変だ。


 こいつが何もしてこない。


 怖い。


「…………」


「ねえ」


「何?」


「そんなに警戒されると傷つくんだけど」


「だって」


「今日は普通にするって言ったでしょ」


「言ったっけ?」


「言った」


「…………」


「信用して」


「難しい」


「そっか」


 それだけ言って、またスクリーンを見る。


「…………」


 少し悪いことをした気分になった。


     ◇


 映画が終わった。


「面白かった?」


「まあまあ」


「厳しい」


「そっちは?」


「映画より」


「?」


「横にいる人が気になった」


「…………」


「ふふ」


「普通にするんじゃなかった?」


「これくらいデートなら普通でしょ?」


「デートじゃない」


「まだ言ってる」


 レストランへ。


 向かいに座る。


「何食べる?」


「何でも」


「一番困る答え」


「じゃあハンバーグ」


「子供みたい」


「帰るぞ」


「ごめんごめん」


 笑う。


「私も同じのにしよ」


「真似?」


「昨日の続き♡」


「ラーメンからカレーに変えたやつ?」


「覚えてるじゃん」


「昨日だからな」


「嬉しい」


「安いな」


「そう?」


 元相棒はメニューを閉じた。


「私、結構高いと思うよ」


「何が?」


「嬉しいの基準」


「?」


「誰かに覚えててもらうの」


「…………」


「私にとっては高い」


 少しだけ。


 声が違った。


     ◇


「お前さ」


「ん?」


「眼鏡とどういう関係だったの?」


「元相棒」


「それは聞いた」


「それ以上?」


「うん」


 元相棒は少し考えた。


「似てたの」


「二人が?」


「昔はね」


 水を一口飲む。


「あの子は欲しいものを追う。私は欲しいものに追わせる」


「真逆じゃん」


「やり方はね」


 笑う。


「でも結局、自分のところに来てほしいのは同じ」


「…………」


「だから一緒にいた」


「今は?」


「あの子、変わっちゃったから」


「俺のせい?」


「たぶん」


「…………」


「嫌?」


「いや」


 少し考える。


「今の方がいいと思う」


「即答なんだ」


「昔知らないし」


「それもそうか」


 元相棒は窓の外を見る。


「じゃあ私は?」


「何が?」


「変わった方がいい?」


「…………」


 突然だった。


「知らない」


「ひどい」


「俺が決めることじゃないだろ」


「…………」


「お前が変わりたいなら変わればいいし、そのままがいいならそのままでいれば」


「でも、そのままじゃ嫌い?」


「白馬様誘拐するのは嫌い」


「そこ?」


「そこ」


「他は?」


「…………」


 考える。


「よく分からない」


「そっか」


「まだお前のこと、ほとんど知らないし」


「…………」


「だから今日来た」


 元相棒が俺を見る。


「普通の思い出作るんだろ?」


「…………」


「何?」


「いや」


 笑った。


「ずるいなって」


「何が?」


「そういうところ」


     ◇


 食事を終える。


「次どうする?」


「ゲーセン」


「行く!」


「好きなの?」


「初めて」


「え?」


「ゲームセンター」


「…………」


「何?」


「意外」


「連れてって♡」


 行った。


「何これ!?」


「太鼓」


「叩いていいの?」


「そのためにある」


「楽しい!」


「下手」


「うるさい!」


 次。


「取れない!」


「貸して」


「できる?」


「知らん」


「知らないの!?」


 三百円。


 五百円。


 千円。


「…………」


「…………」


 取れない。


「下手じゃん」


「うるさい」


「ふふっ」


「もう一回」


「まだやるの?」


「ここまで来たら取る」


「意地?」


「うん」


 さらに五百円。


 落ちた。


「取れた!」


「おお!」


 小さな馬のぬいぐるみ。


「…………」


「…………」


「白馬様」


「また馬!?」


「運命」


「どこまで馬に支配されてるの?」


 俺はぬいぐるみを見る。


「いる?」


「え?」


「今日付き合ってくれたし」


「…………」


 渡す。


「いいの?」


「うん」


「白馬なのに?」


「本物いるし」


「…………」


 元相棒はぬいぐるみを受け取った。


「…………」


「いらなかった?」


「いる」


 ぎゅっと抱える。


「絶対いる」


「そう」


「…………ありがと」


「うん」


 まただ。


 普通のありがとう。


     ◇


 外へ出る。


 夕方。


「楽しかった」


「俺もまあまあ」


「そこは楽しかったって言ってよ」


「まあまあ楽しかった」


「ほぼ同じ!」


 歩く。


「ねえ」


「何?」


「手繋いでもいい?」


「嫌」


「即答」


「恥ずかしい」


「…………」


「何?」


「それならいい」


「?」


「嫌われてるからじゃないなら」


「…………」


 元相棒は前を歩く。


 少しだけ距離が空いた。


「…………」


 何だろう。


 今までなら。


 勝手に腕を掴んできそうなのに。


「おい」


「ん?」


 俺から距離を詰める。


「…………」


「どうしたの?」


「別に」


 横に並ぶ。


「離れなくてもいいだろ」


「…………」


「?」


「それ、期待していい?」


「何を?」


「何でもない♡」


 笑った。


     ◇


 午後八時五十八分。


 家の前。


「じゃあね」


「うん」


「今日はありがとう」


「うん」


「また行ってくれる?」


「気が向いたら」


「そっか」


 元相棒が馬のぬいぐるみを抱える。


「大事にする」


「ゲーセンの景品だぞ」


「私には大事なの」


「…………」


「じゃあ」


 手を振る。


「また明日♡」


「うん」


 元相棒が歩いていく。


「…………」


 普通だった。


 本当に。


 普通のデート。


 いや。


「デートじゃない」


 自分に言い聞かせる。


 玄関を開ける。


「ただいま」


「おかえり」


「…………」


「…………」


 眼鏡女がいた。


「何で!?」


「八時五十八分」


「は?」


「二分前」


「何が?」


「門限」


「お母さん!?」


「ちゃんと守ったね」


「そもそも俺の家!」


「それで?」


「何?」


「どうだった?」


「普通」


「…………」


「何?」


「楽しかった?」


「まあ」


「…………」


「何だよ」


「別に」


 分かりやすい。


「楽しかったよ」


「…………」


 さらに不機嫌になった。


「嘘ついた方がよかった?」


「それも嫌」


「面倒くさ」


「うるさい!」


 眼鏡女が頬を膨らませる。


「何したの?」


「映画」


「うん」


「飯」


「うん」


「ゲーセン」


「…………それだけ?」


「それだけ」


「手は?」


「繋いでない」


「…………」


 少し機嫌が戻った。


「何で?」


「恥ずかしいから」


「…………」


「何?」


「じゃあ」


 眼鏡女が手を差し出す。


「私とは?」


「何が?」


「手」


「…………」


「繋げる?」


「何で今?」


「比較」


「何の?」


「いいから」


「…………」


 手を見る。


 顔を見る。


「…………」


 俺は。


 その手を取った。


「…………」


「…………」


 眼鏡女が固まる。


「何?」


「いや」


「お前から言ったんだろ」


「そうだけど」


「…………」


「…………」


 手を繋いだまま。


 二人とも動かない。


「…………恥ずかしい」


「じゃあ離す?」


「嫌」


「どっちだよ」


「もうちょっと」


「…………」


「もうちょっとだけ」


 握る力が少し強くなる。


「…………」


 俺も離さなかった。


     ◇


 その頃。


 帰り道。


 元相棒は一人歩いていた。


「…………」


 腕には、小さな白馬のぬいぐるみ。


「普通か」


 抱きしめる。


「悪くないなぁ」


 スマホが鳴った。


 知らない番号。


「?」


 メッセージ。


『その馬、かわいいね』


「…………」


 足が止まった。


 もう一件。


『今日、楽しかった?』


「…………」


 元相棒の顔から笑みが消える。


 周囲を見る。


 誰もいない。


 もう一件。


『今度は私とも遊ぼうよ』


「…………誰?」


 返信。


 既読。


 すぐに返ってくる。


『あなたたち三人のこと、ずっと見てたよ♡』


「…………」


 元相棒は白馬のぬいぐるみを抱く手に力を込めた。


 そして。


 初めて。


 追わせる女が――


 誰かに追われる側になった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。