第7話 ヤンデレ2人と大学生活
「大学、辞めようかな」
「ダメ!!」
眼鏡女が俺の腕を掴んだ。
「離せ」
「辞めないって言うまで離さない!」
「じゃあ休学」
「もっとダメ!」
「転校」
「大学に転校って言うな!」
「海外留学」
「シンガポール?」
「そこだけは絶対嫌だ」
「何でよ!」
「ろくな思い出がない」
「私とのデートは!?」
「白馬様との出会い」
「それ私との思い出じゃない!!」
「おはよう♡」
聞き覚えのある声。
二人で前を見る。
大学の正門。
元相棒。
そして、その首には学生証。
「…………」
「…………」
「今日からよろしくね」
眼鏡女が俺を背中へ隠した。
「帰れ」
「ひどいなぁ」
「何でいる?」
「大学生だから」
「昨日まで違ったでしょ」
「昨日なった♡」
「そんな簡単になれるか!」
俺は学生証を見る。
名前。
学籍番号。
顔写真。
「…………本物?」
「本物♡」
「どうやったの?」
「それは秘密」
「怖っ」
元相棒は笑いながら俺を見る。
「ちなみに同じ学部」
「…………」
「同じ学年」
「…………」
「今日の一限も一緒♡」
「大学辞めます」
「だからダメ!!」
◇
講義室。
「…………」
俺は座った。
右。
眼鏡女。
左。
元相棒。
「…………」
前後左右。
空席は大量にある。
「何で?」
「何が?」
「どうして二人とも俺の隣?」
「たまたま」
「偶然♡」
「嘘つけ」
俺は立ち上がる。
「あ」
「どこ行くの?」
「別の席」
二列前へ。
座る。
「…………」
右。
眼鏡女。
左。
元相棒。
「何で!?」
「たまたま」
「偶然♡」
「お前ら仲いいだろ!」
「よくない」
「最悪♡」
息だけピッタリだ。
教授が入ってきた。
「静かに」
「…………」
ようやく静かになった。
講義が始まる。
俺はノートを取る。
「…………」
右から紙。
『暇』
眼鏡女。
無視。
左から紙。
『遊ぼ♡』
元相棒。
無視。
右。
『ねえ』
左。
『ねえ♡』
右。
『無視?』
左。
『無視するの?♡』
「…………」
俺は紙に書いた。
『うるさい』
二人の間に置く。
「…………」
「…………」
静かになった。
勝った。
三十秒後。
右から。
『字かわいいね』
左から。
『分かる♡』
「…………」
何でそこだけ意気投合するんだよ。
◇
「学食行こ!」
講義終了。
眼鏡女が立ち上がった。
「白馬様のところ行く」
「まだ昼だよ!?」
「会いたい」
「昨日会ったでしょ!」
「昨日は昨日。今日は今日」
「恋人か!」
「違うよ」
「よかった……」
「それ以上」
「よくない!!」
元相棒が俺の反対側へ来る。
「じゃあ三人でご飯食べよ?」
「嫌」
「何で?」
「怖い」
「私が?」
「二人とも」
「私はもう安全でしょ!」
眼鏡女が胸を張る。
「昨日勝手に泊まった奴が?」
「…………」
「大学まで追ってきた奴が?」
「…………」
「俺の履修調べた奴が?」
「…………」
「安全?」
「……比較的」
「何との比較だよ」
元相棒が笑っている。
「ふふ」
「お前はもっと怖い」
「嬉しい♡」
「褒めてない」
◇
結局。
三人で学食。
「何食べる?」
「ラーメン」
「私も」
「じゃあ私も♡」
「真似するな」
「あなたこそ」
「…………」
「…………」
また始まった。
「じゃあ俺カレーにする」
「私もカレー」
「私も♡」
「ラーメン食えよ!!」
◇
三人でカレーを食べる。
「ねえ」
元相棒が言った。
「何?」
「二人って付き合ってるの?」
「付き合ってない」
「…………」
眼鏡女が俺を見る。
「何?」
「いや」
「付き合ってないよね?」
「……うん」
「何その間」
「別に」
元相棒が笑う。
「じゃあ私にもチャンスあるね♡」
「ない」
「どうして?」
「怖いから」
「この子は?」
眼鏡女を指差す。
「…………」
「この子も怖いよね?」
「まあ」
「じゃあ同じじゃん」
「違う」
口から出た。
「…………」
「…………」
二人が俺を見る。
「何?」
元相棒が首を傾げる。
「何が違うの?」
「…………」
考える。
何だろう。
眼鏡女も怖い。
最初は俺を追い回していた。
勝手に家にも泊まった。
大学まで来た。
普通に考えれば十分ヤバい。
でも。
「こいつは……」
眼鏡女を見る。
「もう、何するか大体分かるから」
「…………」
「お前は分からない」
「なるほど」
元相棒が頷く。
「安心できるかどうか?」
「たぶん」
「…………」
眼鏡女が固まっている。
「どうした?」
「今」
「うん」
「私に安心するって言った?」
「大体」
「…………」
顔を伏せた。
「何?」
「食べてる」
「止まってるけど」
「食べてる!」
耳が赤い。
元相棒がそれを見て笑った。
「かわいいね」
「うるさい!」
◇
午後。
空きコマ。
「白馬様のところ行ってくる」
「私も」
「来るの?」
「行く」
「珍しい」
「ライバルの視察」
「まだライバルなの?」
「当然」
元相棒も立つ。
「私も行こ♡」
「お前は来るな」
「何で!?」
「前科」
「ご飯あげただけじゃん」
「連れ去っただろ」
「でも大切にしたよ?」
「そういう問題じゃない」
「…………」
眼鏡女が俺を見る。
「今のちょっと嬉しい」
「何が?」
「白馬のことで怒ってる」
「当たり前」
「違う」
「?」
「大事なものを大事にしてる感じ」
「…………」
「そういうところ、結構好き」
「…………」
元相棒がニヤニヤしている。
「何?」
「青春だなって♡」
「うるさい!」
◇
「白馬様ぁぁぁ!」
「ヒヒーン!」
走る。
「会いたかった!」
「昨日ぶりだろ!!」
抱きつく。
「白馬様〜♡」
「ブルル♡」
「…………」
眼鏡女が腕を組む。
「今日こそ勝つ」
「何するの?」
「私もかわいがってみる」
「おお」
恐る恐る白馬様へ近づく。
「…………」
「ブルル」
「…………よし」
首筋を撫でる。
「ブルル」
「お」
「かわいい」
「でしょ?」
「うん」
眼鏡女が笑う。
「なんか……分かってきたかも」
「白馬様の良さが?」
「うん」
「…………」
俺は眼鏡女を見る。
「何?」
「いや」
「?」
「ちょっと嬉しい」
「…………」
「俺の好きなもの、好きになってくれるの」
「…………」
眼鏡女の手が止まった。
「おーい」
「…………」
「また?」
「うるさい!」
「顔赤い」
「夕陽!」
「まだ昼」
「暑い!」
「今日涼しい」
「黙れ!!」
眼鏡女が白馬様の陰へ隠れた。
「白馬様、壁にされてるよ」
「ブルル」
その様子を。
元相棒が少し離れたところから見ていた。
「…………」
笑っていない。
「どうした?」
「ん?」
「静か」
「考えてた」
「何を?」
「私には何があるのかなって」
「?」
「この子には」
眼鏡女を見る。
「あなたとの思い出がある」
白馬を見る。
「この子にもある」
そして自分を見る。
「私は?」
「白馬様を誘拐した」
「それ思い出に入る?」
「強烈ではある」
「嬉しくないなぁ」
元相棒は少し笑った。
「じゃあ作ろうかな」
「何を?」
「私との思い出」
「…………」
嫌な予感。
「普通のやつ?」
「普通の」
「本当に?」
「本当に♡」
「…………」
「信用してない?」
「してない」
「即答」
元相棒が少し考える。
「じゃあ」
手を差し出した。
「今度、二人で遊びに行こ?」
「二人?」
「うん」
「…………」
俺は眼鏡女を見る。
「何で私を見るの!?」
「いや」
「私に聞かないでよ!」
「じゃあ行っていい?」
「…………」
眼鏡女が止まる。
「…………」
「…………」
「……好きにすれば」
「怒ってる?」
「怒ってない」
「怒ってるね」
「怒ってない!」
元相棒が笑った。
「じゃあ決まり♡」
「どこ行く?」
「それは――」
「待った!!」
眼鏡女が割り込んできた。
「やっぱりダメ!」
「どっちだよ」
「二人はダメ!」
「何で?」
「それは……」
「…………」
「…………」
眼鏡女が俺を見る。
口を開く。
閉じる。
また開く。
「…………嫌だから」
「何が?」
「二人で行かれるのが!」
「…………」
静かになった。
元相棒も少し驚いている。
「…………」
眼鏡女は顔を真っ赤にしていた。
「悪い!?」
「いや」
「だったら何!?」
「かわいい」
「…………」
停止。
「あ」
また口に出た。
「…………」
「…………」
「…………」
逃げよう。
「白馬様!」
「待てぇぇぇぇぇ!!」
「ヒヒーン!」
白馬様へ飛び乗る。
「行け!」
「今かわいいって言ったよね!?」
「言ってない!」
「言った!」
「幻聴!」
「二回目だからな!!」
白馬様が走り出す。
眼鏡女が追いかける。
「待て!」
「嫌だ!」
「もう一回言って!」
「絶対嫌!」
「言えぇぇぇ!」
「ヒヒーン!」
◇
俺たちが遠ざかっていく。
元相棒は一人、その場に残っていた。
「…………」
少しだけ笑う。
「なるほど」
自分の胸へ手を当てる。
「これが嫉妬か」
そして。
走り去る俺を見る。
「…………嫌だな」
初めてだった。
自分が追わせる側ではなく。
誰かを――追いかけたくなったのは。
「待ってよ!」
元相棒も走り出した。
◇
「来るなぁぁぁ!」
「待てぇぇぇ!」
「待ってぇぇぇ♡」
「ヒヒーン!」
大学生活。
一日目。
俺はすでに後悔していた。
「普通の大学生活返せぇぇぇぇ!!」
誰も返してくれなかった。




