魔法戦士ペルソナ
ファーヴェニールの小屋を拠点に銀竜の泉を捜索し始めて九十日が経った、彼女との新婚生活のような幸せな日々に反して相変わらず目的の泉は見付けることが出来きていない、焦りはあるが、この日々が続けばと思う日が多くなってきた。
この森を探索してみて不思議に思う事が幾つかあった、初めは気にならなかったのだが、まずこの森でファーヴェニール以外の人間に出会ったことが無い、大型の魔獣やエントなどの木の精霊の気配もないのだ。
二つ目は森全体に結界魔法がかかっているような気配がある、ハインラインは魔法を使うことが出来ないので、はっきりとはわからないが普通では無いのだ、そして誰かの視線を常に感じる。 そして三つ目、これは気のせいか、または幸せボケかも知れないけど、森のどこに行まてもファーヴェニールの香りがすると感じるのだった。
暖かな日の光を木の葉越しに受け、森の中を散歩でもするように銀竜の泉を捜索していると、遠くに巨岩が見えてきた。竜の尖ったヒレが幾つも連なったようなイビツな形をしている黒く透明感のある艶やかな表面は日の光を反射するように光っている。そして巨岩の回りには水色の花びらを付けた小さい花が咲き誇っていた「巨岩信仰かな?」
巨岩信仰、大きな岩で畏怖する物に蓋をしたり、崇拝する物を呼び下ろす為の場所だったりと地域や思想で目的や方法は違うが、この巨岩はおそらく銀竜の泉への道標なのだとわかった。
「騎士のクセにこの巨岩が見えたか」
ふと、巨岩の上から男の声がした。ハインラインは剣の柄を握り、声の主を見上げ問うた「お前はこの巨岩の守人か?」
男は灰色のローブをはおり、長く蓄えた白い髭をさすりながら続けた。
「いや、違うな、ワシはお前さんの助言者のような者じゃ」
「助言者? ではお前は私に何を助言する?」
「そうじゃな、銀竜の事は諦めろ、どうせ強欲なゲル三世の命令で来ておるのだろうが、お前にとっては残りの人生を不幸にしかねない……後悔するぞ」
ハインラインはこの老人の脅迫めいた、しかし慈愛に満ちた言葉に少したじろいだが「しかし、私は騎士だ、国王のため、国の民安寧のための行為で私が後悔することはない」
老人はため息をつき「聞き分けのない騎士めが、ではここで果てるが良い」
そう言って老人は左手をハインラインの方に向けると呪文を唱え始めた、手のひらから黒い煙のような物が出るとそれは、うごめきながら人の形を形成した。
「人間の騎士ごときではワシのペルソナは倒せまい」そう声を残して老人は消えた。
「うわ、魔法人形か厄介だな」
ハインラインが魔法人形と言ったのは正式には【ペルソナ】手練れの魔法使いのみが作ることの出来る魔法戦士だ。
ペルソナは往々にして道化のような仮面を付けている、感情や痛覚は無いが制作者の魔法使いの意思を受け継いでいる。なのでペルソナは感情はないが私を殺す意思だけを持っている。
「あのジジイ、騎士を馬鹿にしやがって、魔法人形など秒殺してくれる」
ハインラインは剣を抜き正眼に構える、ペルソナはクロスボウの短い矢を数本取り出すと直上に投げた、不思議なことに投げられた矢は全て矢じりをハインラインに向けたまま空中にとどまっている。
ペルソナが少し反ったショートソードを逆手に持ち、低く飛ぶように斬りかかってくる、構えた剣先を下げながら後ろに引いてペルソナの一振を避けると、そこに例の矢が飛んできた、矢を剣で払い上げる。
「こいつ速いな」
ペルソナの動きは速く、一度に二人と戦っているような気分になった、おまけにスピードに変化を付けて飛んでくる魔法の矢。
「器用な人形だな!」
鋼同士がぶつかる鈍い音と火花を散らして、剣を交える度にジリジリと圧され始めた。
ハインラインは力を込めてペルソナを押し返し、間合いを取った。
また正眼に構えると深く一呼吸し、異能の能力を開放するトリガーとして握った剣の柄を返した。
ハインラインの黒い瞳は赤くなり、視界も赤くなる、身体中の血液が沸騰するように熱くなり、制御できない程に力が溢れてくる。
正眼から上段に剣を上げる、これだけでも全身の骨と筋肉がきしみ、意識が飛びそうになる。
ペルソナがもう一度低い体勢で飛びかかってくるが、今度はハインラインの剣がペルソナを縦に一閃する。
黒い煙が二つに割れるようにペルソナの姿は消えた。
赤くなった視界はもとに戻り、激しい脱力感が全身を覆う。
消えたペルソナの後ろで黒い巨岩は粉々に砕け、そこに洞窟の入り口が現れた。




