306.軌道変位(12)
「数学な話はこれで最後だよね?」
「多分。」
「大丈夫かな?」
「保線では『正矢』ってことで説明したけれど、実は三角関数にもこれと同じ性質の情報があって、同じ漢字だけど『正矢』って呼んでいるんだって。」
「矢って矢とも読むんだ。」
「あんまり使わない読み方だけどね。『一矢を報いる』なんて言うでしょ。」
「ああ、あれって矢の字だったっけ。」
「で、英語ではこの正矢を『versine』って呼んでる。」
「ひょっとしてサイン・コサインと関係する?」
「そう。接頭語のverには向きを変えるって意味があるらしい。詳しい話はネットで調べてね。」
「トモもそろそろ面倒になってきたらしい。」
「計算式で正矢はversineの頭文字をとって『V』で表すことが多い。フランス語で『矢』を表す『flèche』の頭文字『f』を使うこともある。」
「フランス語は三角関数と関係ないネーミングみたいだね。」
「X座標については、さっきのAの位置を0番目として、そこから何番目かを『n』で表す。『n-1』とあればn番目の位置の1か所手前、つまり5m手前の測点ってこと。」
「あー、プログラミングの配列とかテーブルみたいだね。」
「うん。なので、何番目かについてはプログラミング風に [ ] で表すね。」
「わかった。」
「それでY座標の求め方なんだけど、Y[0]とY[1]は0.0だから、対象はY[2]以降でこんな式になる。」
・ Y[n] = Y[n-1] + (Y[n-1] - Y[n-2]) - (2 × V[n-1])
・ Y[n] = 2 × (Y[n-1] - V[n-1]) - Y[n-2]
「式がふたつあるけど。」
「上の式はさっきの説明どおりに書いたもので、下の式はそれの変形。どっちでも答えは一緒。逆に、この式を使って線路の形状から10m弦正矢を計算することも可能。」
・ V[n] = Y[n] - (Y[n-1] + Y[n+1]) ÷ 2
「こーゆー計算式を教えてもらっても、使う機会は無いと思うな。」
「ネットで高低や通りの波形図が載ってることがあるから、そこに定規あてて測ったのを使ってみるとか。」
「どんなところに出てるんですか?」
「研究発表とか、運輸安全委員会の報告書なんかだね。」
「表計算ソフトで試してみましょうか。」




