34 希望につながる細い糸
「ああ、そうだ。お前等、次の行き先、決まってるか?」
馬車の窓からスザク先生が顔を出す。
俺はみんなと顔を見合わせた。
キリンとソラの行きたい国はまだ遠いけど、ドレイクはエクエスティアだろうし、スパナはヘルバスティア……どっちから行くか、まだ話してないな。
「あ、いえ……エクエスティアか、ヘルバスティアか……」
「じゃ、ヘルバスティアに向かってくれないか? 事情はまた、ゼスト先輩のとこに手紙送っとくからさ」
スザク先生はそう言って、馬車の中に戻った。
***
「今回はありがとうございました」
「いえ、実際、資材が不足していたので、こちらも助かりました。なかなか、わがままな方でして。少しぐらい、花火の色が少なくても、気にしなければいいと思うのですが」
「お元気でいただけるなら、それに越したことはありませんよ。リレニア商会の飛行船は、すみません。本当は、被害を出したくなかったのですが。古代竜は想定シナリオのうち、確率の低いルートだったので、少し対応が遅れました」
「なに、一部損傷で済んだので、保険の範囲内です。空鯨の大半は、そちらの護衛艦で追い払っていただけましたからね。古代竜もありがとうございました。その分のお支払いは上乗せを」
「それがですね。古代竜の群の方は、私たちではないんです。どうも家族連れだったようですが……何らかの要因が生じて、追い払われたようです」
「何らかの要因?」
「詳しくは調査中ですが、重罪人のハル・インバクタスが関係している可能性があります。また、分かりましたら情報共有します」
「それは穏やかではないですね。ユリウス審理管理官。引き続き、よろしくお願いします。……ハルの弟君は優秀なようだ。くれぐれも、同じようなことにならないように、祈っています。盗みや強奪は、健全な商売が最も憎むものですから」
「承知しております」
マルカンティア宰相との通話器を置いた。
「ハルモニア、アリアステル、ハルの行方は」
「捜索中ですが……見失いました」
ハルモニアがあっさりと言い放つ。
「なんだか、嬉しそうですね」
「まさか」
アリアステルは、視線をあさっての方向に向けている。
「……コテツ達を助けた、というのは、本当ですか?」
「護衛艦からの映像を見る限り、リレニア商会の輸送船の前方2体、右方2体、左方1体の古代竜を、いっぺんに、上空に落としました。護衛艦も、撃墜の準備はしていましたが……わずかに間に合わない可能性がありました。その状況から見れば、あの行動は、そのようにしか見えません」
5体の古代竜。
その質量はいかほどのものか。
それを、一瞬で、一度に。
恐らくは、「重くする力」の逆向き使用で軽くしたか、「重さ」の向き自体を変えたか。
いずれにしても、彼以外に同じことができる警邏官が何人いるか。
ましてや、どこからともなく、空中に現れ、あっさりとやってのけ、消える。
今、彼がどんなノードや、その他の力を組み合わせて運用しているのか。興味は尽きないが。
「今回の行動の意味は不明です。しかし、分かっているでしょうが、彼は「ななつなぎの国々」共通の、指名手配、重罪人ですよ。気を引き締めて、捜索してください」
ハルモニアとアリアステルが頭を下げた。
気持ちは分からなくもない。
もし。
彼がコテツを助けたのだとしたら。
彼が罪を犯した動機が全く不明であるところ。
それは、彼が無実である、という、ごくわずかな希望に繋がる、細い糸にも見えるのだから。
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