32 笑いに来たんですか
「よく頑張ったな、お前たち」
巨漢のゴルテア副隊長。その身長よりも、巨大な棍棒を持ったまま、その巨体からは想像もつかない跳躍力で、乾板の上に飛び上がる。
「ぬぉっ!!!!!」
冗談のような光景。
はるか上空から落下してきた、空鯨を、その棍棒で横殴りにひっぱたくと、空鯨は軌道を変えて、草原に落っこちた。
「本当は、空中で加勢する予定だったが……黒雲が予定より北に移動していた。間に合わなくて焦ったが……。いや、新人とは思えないな。賞賛に値する」
棍棒を肩に担ぎ、ゴルテアさんはにっこりと笑った。
***
エレナの傷は、スパナの応急処置と調合した薬で、止血も済み、危険な状態は脱したようだった。
ゴルテア副隊長は、その凄まじい怪力で、花火の原料を、ゴルテア副隊長が乗ってきた飛行艇に次々と積み替えた。
「それじゃ、先に戻っている。申し訳ないが、お前たちは、商会の艦長達を念のため、護衛しながら戻ってきてくれ。もう積み荷はないから、ゆっくりでいい」
徒歩でも、1時間くらいだろう。
ここからの街道は、普通の家族連れでも安全な場所だ。
いや、そうじゃなくて。
「あの」
キリンが何か言いかけようとしたのを察した俺は、その役を引き受けようと、急いで声を発した。
そんな俺の言葉を遮るように、ゴルテア副隊長はこう言った。
「それと……お前達の教師と、積もる話もあるだろうからな」
「え?」
お前たちの教師?
「よっ。大活躍だったじゃないか」
聞き慣れた、明るい声。
いつの間にか、ゴルテア副隊長の飛行艇の脇に護送用途の馬車が停車していた。
「「スザク先生!」」
キリンとソラが、同時に声を上げた。
「どうして、ここに……」
首を傾げた俺に、スザク先生は笑顔を浮かべる。
「かわいい生徒のいるとこには、必要があればどこにだって行くさ」
うぇ、かわいい生徒?
絶対思ってないだろ。
いや、キリンとソラのことか? なんか、それはそれで問題なような。スザク先生、独身だったよな……。
「……おい……何考えてんだ、コテツ……」
「……いえ、何でもないです……」
さすが、何年も面倒見てくれてただけあって、鋭い。
「そんで、エレナは、船の中か?」
5人全員が、とまどったように、沈黙した。
なんとなく。
分かってはいた。先生がここに現れた理由。
そして、俺たちがやらないといけないこと。
「先生、その……」
「そんな、心配すんな。手錠は俺がかける」
見透かされた。
そう。
無事、着陸した時から。
ゴルテア副隊長の顔を見たときから。
どこで切り出すべきなのか。
同級生に命を狙われて。
明らかに、あの黒男と関係があって。
それはどう考えても、明らかな犯罪で。
罪人として、エレナを捕まえないといけない。
良い思い出なんて、あるわけじゃない。
特にキリンとソラは、不快な記憶ばっかりだろう。
それでも、同じ制服を着て、同じ時間を過ごした生徒を捕まえるのは、ただただ、重苦しい行為だった。
「教師級がこんなところまで? 笑いに来たんですか?」
俺たちの背後から響く、刺々しい声。
エレナが、スザク先生を睨みつけていた。
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