表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アレステリア国物語  作者: 鳩峰浦
第二章 空の果ての無重力/far from home
PR
92/140

30 兄

「古代竜……なんで、この空域に……」

 通話器から、船長のかすれた声が響いた。


 船体を覆い尽くすような、巨大な翼。

 角と牙、鱗に覆われた、獰猛そうな顎。

 

 授業で、おとぎ話のようだなと思って聞いていた話があった。

 空の、遙か上層には、人間とは別の生き物達の住処があって、その中には巨大な竜が支配する領域があると。

 人間の飛行艇が飛ぶ程度の高度に降りてくることは滅多にない。

 だが、気象条件が重なって、彼らの空域を騒がせるような事象が生じると、テリトリーの管理のために降りてくることがある、と。

 

 黒雲の中で、空鯨が騒がしくしている中、人間が砲撃や雷撃をまき散らして騒いでいた。

 

 その瞳に宿るのは、明らかに、怒り。

 住処の側で静寂を破られた、不快。

 

 ドレイクが最後の一発となった砲弾を放った。 それはあまりにも小さく、巨大竜の眉間の辺りで弾けて、消えた。

 

 「……どうしろって言うんだ……」

 

 何か……。

 方法は……。

 竜が、その右前足を大きく振りかぶる。

 「船長! 左に急旋回を! みんな、船にしがみつけ!」

 通話器に向けて俺が叫ぶと同時に、大きく船体が傾いた。

 船体の側面の一部が、竜の爪でそぎ落とされる。激しい破壊音。

 「制御機構一部破損! このまま高度を下げる! マルカンティアの北の平原に着陸する!」

 大きく傾いた船体にしがみつく。

 古代竜の瞳の怒りは薄れない。

 翼をはためかせ、とどめの一撃を船体に加えようと、竜が再び右前足を振りかぶりながら、追いすがる。

 

 何とかして、あいつをひるませる方法を。

 甲板に巻き付けられた、離着陸用の太いロープを掴み、意識を集中する。

 縛る力。

 残された力を、ロープにそそぎ込む。

 意識が飛びそうだ。

 「うおおおおおおおお!」

 ロープを解き放つと、振りかぶった竜の右前足に巻き付け、全力で引っ張る。

 

 古代竜が空中でバランスを崩し、不快そうな咆哮を上げた。

 

 左手に、暖かい感触があった。

 キリンが俺の手を掴んでいる。


 「……弾丸を……作って……」

 「キリン……お前……」

 「弱点は……見える?」


 俺は古代竜に意識を集中した。

 眉間の間、わずかに鱗の薄いところ。


 「そこね……打ち抜いて、見せるから」


 空っぽに近かったはずの、ノードの容量が。

 キリンの右手から、あふれ出してくる様だった。

 何が起きてるのか、そんなことは分からない。 俺は、キリンの力の共同行使で、暴風を一気に小さな弾丸に凝縮した。


 「道はある。 帰って、花火、一緒に見よう」

 こんな時に。

 キリンは、少し笑った。

 

 「弾丸!」(デレオ)


 キリンの放った風の弾丸は、正確に、一直線に、古代流の眉間を打ち抜いた。


 空全体を震わせるような咆哮。

 

 それは、船体を揺らして、キリンが姿勢を崩し、甲板に倒れ込む。

 俯いて、荒く息をつく。

 もう、ノードも、残ってない。 


 「!」

 

 そんな。

 キリンの弾丸が打ち抜いた古代竜の影から。

 さらに2体の古代竜が姿を現した。

 

 「古代竜の、群……」


 まだだ……弾丸を……。

 キリンは、俯いたまま。

 気付いてない。

 

 駄目だ、力が、入らない。

 ノードは、無限じゃない。

 

 俺は……。

 守らなきゃ……キリンを……。


 「さすがに、これは、度が過ぎる」


 全身の血が、逆流しそうだった。

 傾いた甲板に、すっと立つ後ろ姿。

 それは、確かに、聞いたことのある声。

 それは、確かに、見覚えのある姿。


 ***

 

 「とはいえ、何が起こるか分からないからね。ノードの使い方は、もっと勉強するんだよ」

 

 長い髪、細身で、女性のような顔立ち。

 ほんとうに兄弟なのかって、言われたことは何度もあったっけ。


 その人は、ぱちん、と指を鳴らした。

 二匹の古代竜が、咆哮を上げた。

 その意に反して、古代竜は風に運ばれるかのように、不自然に、上空の方へ急速に浮遊し、飛行艇から引き離されていく。


 「それじゃ」

 

 そう言って、姿を消した。

 その声は。

 間違いなく、兄貴。

 ハル・インバクタスだった。


 ***


 艦長が体勢を立て直した飛行艇は、マルカンティア北の平原に向けてゆっくり高度を落としていく。平原に停泊している飛行艇が一隻。双眼鏡でのぞくと、手を振っているのは、マルカンティア警邏官部隊副隊長のゴルテアさん。

 ゆっくりと、水平に。船底に設置された、風を吹き出す石の力で、ゆっくりと、柔らかな草原に飛行艇は着陸した。

 張りつめていた緊張の糸が解け、私は甲板に崩れ落ちるように座り込んだ。


 草原を走る風が、髪の毛を揺らす。

 風除けの種の効果も、切れた。

 

 甲板に、コテツが大の字で倒れ込んだ。

 

 「大丈夫?」

 「……」

 反応がない。

 

 心配で、座ったまま、顔をのぞき込んだ。

 え?


 コテツは、泣いていた。


 「どうしたの? どこか、怪我?」

 焦った私は、コテツの右手を掴んだ。

 

 「……幻覚じゃなかったら、最後、もう2体、あの竜がいた」

 

 「え? 私が撃った奴のほかに?」

 

 コテツが、小さく頷いた。


 「そいつらから、守ってくれた」

 

 「え?」

 あの竜から?

 どうやって?


 「ハル……兄貴が、守ってくれた」

 「え?!」


 ハル。

 ハル・インバクタス。

 

 コテツの、目的。


 「ハルが、いたの?」

 「ああ、間違いない。竜を2匹とも、どっかに吹っ飛ばした」

 空を見ていたコテツは、左手で涙を拭った。


 「ハルは……変わってないかも知れない。罪人じゃ、ないかも、知れない」


 そっか。

 そうだ。

 ハルが、手配書どおりの重罪人なら。

 国宝の強奪と警邏官殺しをするような人間なら。

 

 コテツを守るなんて。

 

 ずっと、コテツの心を押しつぶしていた、お兄さんへの気持ち。

 

 ほんの少しだけど、希望が。


 良かった。

 私たちは、進むべき方向にちゃんと進んでる。

 「おい! あんたら! 危険だ! 船から離れろ!」

 

 え?

 何?

 日差しが遮られる。

 「キリンちゃん、コテツ君! こっち! 速く! 落ちてくる!」

 ソラの声が響く。

 

 落ちてくる?!

 

 一瞬、空に視線を送る。

 空鯨が一体、落下してきている。 

 

 「えええっ!? こ、コテツっ!」

 「い、いい加減にしてくれ……!」


 慌てて立ち上がったコテツと、急いで甲板を降りようとした時。

 別の大きな影が私たちを覆った。

読んでいただいてありがとうございます!

もしよければ評価★★★★★・ブクマ、感想等いただけたらとっても嬉しいです!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ