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アレステリア国物語  作者: 鳩峰浦
第二章 空の果ての無重力/far from home
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29 縛る力/空に浮かぶ巨大な目

 俺は、全力でキリンと船体を結ぶ命綱を引っ張り上げる。

 

 両手に、光が集まってくるのを感じていた。まるで、命綱が生き物の様に、俺の意思に反応する。

 

 「……縛る力……!」

 

 ソラが呆然とつぶやいた。

 確かに、これは。


 5つの基本ノードの一つ、縛る力。

 何故、俺が今使えるのかは、全く分からないが。


 縛る力は、紐や縄とか、縛るのに使えそうなものなら、何でも、思い通りに操れる能力、と習った。

 一見地味だが、この能力の最上位の警邏官は、強度の高い素材の紐で、超長距離から戦艦を縛り上げて運行不能にすると聞いた。対人でも、縛り上げて行動不能にするという力は、単純に強い。


 俺の握った命綱は、今や命の宿った動物のように、勢いよくキリンと、キリンが掴むエレナを引っ張り上げる。


 「うわっ」

 あまりの勢いに、キリンとエレナが俺の頭上まで持ち上がり、俺はキリンの下敷きになった。

 

 「いてぇ! 重い! 降りろ!」

 「何よ! 避けないのが悪いんじゃない!」

 「何だと! 助けてもらっておいて! だいたい、何てことすんだ! こんな危険なこと……!」

 

 甲板に横たわるエレナのうめき声。

 わき腹に刺さったナイフからは、血が滴り続けている。


 「……エレナ!」


 エレナが、せき込む。

 血が混じっている。

 

 「猛毒だから。悪いけど、喧嘩、できなそう」 

 「……そんな……」


 「同じ、蛇毒でしょう?」

 

 え?

 いつのまに?

 

 スパナが注射器を持って、エレナの隣に膝をついている。

 「ちょっと痛いですよ」

 スパナが躊躇無く、注射器をエレナの左手首辺りに突き刺す。

 

 「温泉の時の毒矢、解析して、中和剤を作っていたんです。また急に狙撃されたら、困りますからね」

 そういや、試験管に入れてなんかやってたな。 

 やっぱ、頼りになるな、スパナは。


 「コテツ! 四方八方から空鯨が迫ってる! 手伝え!」

 通話器からドレイクの叫び声と、砲撃の音が響く。


 「速く動く力」で空鯨を撃退しまくってくれていたのか。

 「すぐ加勢する。スパナ、エレナを頼む」

 「船室で応急処置します。砲撃は、ソラさんに引継で」


 ***


 それから、4人で何体の空鯨を撃退したか。

 「キリン!」


 強力な暴風弾を放った後。

 キリンが急に、甲板に両手をつき、荒い呼吸を繰り返す。

 「ご……めん……ちょっと……力を使い……過ぎた……」


 もう7発は撃ってる。限界に近づいてる。


 ソラも苦痛に顔をゆがめている。電撃を使いすぎだ。

 この狂乱の結婚式会場である黒雲に入って、もう30分は経つ。


 「黒雲を抜けるまで後5分! 後5分持ちこたえてくれ!」

 通話器から、艦長の声が響く。


 前方に2つ、いや3つ。空鯨の接近を告げる光。それも、だんだん霞んできている。俺も、力を使い過ぎてる。

 「ドレイク! 来れるか?!」

 「今そっちに行く!」


 これで、2体、もう1体は……。

 「私とソラで、同時に撃つから」

 キリンとソラが、甲板に膝をついた状態で、手をつなぐ。


 「電撃と暴風を混ぜて、一発分の威力にする」

 ノードの共同行使の変形か。


 「上から迫ってきてる奴を頼む」

 「分かった」

 「俺はどっちの方向だ!?」

 ドレイクが姿を現す。


 「左方斜め上」

 俺はおぼろげな光の一つを指さす。

 甲板を「速く動く力」で駆け回り続けたドレイクも、顔に疲労の色が濃い。

 側方や後方は、スパナが抜けた後、結局、ドレイクの目視が頼りだった。ドレイクが撃退し続けなかったら……。


 「ありがとな」

 「何がだ? 気持ち悪い」


 奇妙な動物でも見つけたように、顔をしかめると、ドレイクは俺が指さした方向に砲撃を向けた。

 「礼より、帰ったらゼスト隊長に、空鯨撃退数第一位の、僕の活躍をしっかりと報告してくれたまえ」


 冗談か、本気か。

 学校じゃ、喧嘩をふっかけてくるばかりの、ムカつく奴だったけど。

 

 仲間、か。


 「ああ、もちろんだ」

 一瞬、ドレイクが驚いたような顔をして、すぐに砲撃の準備に戻った。

 

 「来るぞ! みんな! 撃てっ!」

 

 俺とドレイクが引き金を引くと同時に、ソラとキリンは電撃と暴風を圧縮した弾丸を空鯨に解き放った。

 

 砲撃を受けた空鯨が、悲鳴を上げて空中で身を翻した。

 「きゃあっ!」

 「うあっ!」


 ソラとキリンが、二人で放った弾丸の反動で、甲板を転がる。

 いきなりの実戦使用、制御が上手くいかなかった?

 空気を突き破るような轟音が響き、その電撃混じりの暴風弾を受けた空鯨は、遙か上方に吹き飛ばされていった。


 あんなの、人間が食らったら、ひとたまりもない……。

 強すぎる力。


 「大丈夫か?」

 キリンとソラに駆け寄る。

 やや朦朧としているようだが、二人とも意識はある。

 だが、もうノードは使えないだろう。

 

 後2分、黒い雲が薄くなってきた。もう、前方に危険を知らせる光は見えない。

 

 「残り1発で弾切れだった」

 ドレイクがため息をついた。

 黒い雲が少しずつ薄くなっていく。

 

 「もうすぐ、黒雲を抜けるぞ! すげぇな! あんたら!」


 艦長の明るい声が響いた。


 エレナの件を抜きにしても、厳しい依頼だった。どうにか切り抜けた……。


 不意に、辺りが真っ暗になった。


 甲板が大きく揺れた。

 

 「……なんだ……これ……」

 

 空一面を覆う、危険を知らせる光。

 巨大な、は虫類の様な目が、雲間から俺をにらみつけていた。 

読んでいただいてありがとうございます!

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