27 血しぶきの中で私が望むことは
両腕、両足が、何か黒く重いものに押さえつけられている。
動かない。
私に向けられている、尖った何か。
それが、エレナの握りしめたナイフだと気付いて、ようやく、状況を理解した。
仰向けの私に馬乗りになったエレナが、私の胸元にナイフを突きつけている。
エレナの着る黒いローブが、意思を持った生き物の様に私を押さえつけて、体が動かない。
それどころか、電撃を呼び出すこともできない。
ノードが封じられている。
エレナの瞳は、血走って、赤い。
肩越しに、黒い雲が凄まじい勢いの風に流されていくのが見える。
荒い息。
エレナが、ナイフに力を込める。
薄い、紫色の液体が塗布されてる。
猛毒。
殺される。
死ぬの?
「……どうして?」
私の口から、こぼれた言葉に、エレナが、ぴくりと震えた。
「……何故、そんなに私たちを憎むの?」
「……うるさい……うるさいよ。あなたと……あなたとキリンが……あなたたちさえ……あなたたちさえいなければ……私は……」
エレナが、ナイフを振り上げた。
***
「ソラ!!」
俺よりもソラに近い位置のキリンが、風を集めて、弾丸を作りながら、ソラに向かって駆け出す。
「速く動く力」
それでも駄目だ、間に合わない。
何でだよ、俺は……!
仲間一人、助けられないのか?
……何だ?!
エレナを取り囲み、その体を操るような、黒い影が見える。
違う。
そうだ。
それは、嘘だ。
体の中で、何かが光った様に感じた。
俺は、それを言葉にして、全力で叫んだ。
「騙されるな!!!」
***
コテツの叫びは、落雷のように甲板に響きわたった。
ナイフを振り上げたまま、エレナが硬直した。
「それが本当にお前の望みか?!」
エレナが、コテツに視線を送った。
***
「私は……」
心の中に、亀裂が入った。
いつから。
私の心の中は、いつから、こんな黒い霧に覆われていたの?
ソラに試験で負けてから?
キリンに、弓矢の的当てで逆転されてから?
違う。
本当は、私は。
私は、本当は。
ー殺せー
ー契約を履行しろー
「私は……っ!!!」
ナイフに込められた力が強くなる。
私の腕が、ナイフを振り下ろす。
違う。
こんなこと、望んでない。
***
血しぶきが上がった。
嘘だ、そんな。
「ソラ!!」
エレナに手が届く。
私の手は空を切った。
血塗れのエレナが、よろけて、甲板を転がる。
わき腹に、ナイフが刺さったまま。
「……私は……あなたたちを殺したくなんか、ない」
甲板の端の欄干に、もたれ掛かるようにエレナが震えながら立ち上がる。
「うらやましかった、憧れてた。追いつきたかった。それだけ」
大量の血が、溢れて甲板を伝う。
不意に、エレナが、上方に視線を送った。
「全員伏せて。何かにしがみつきなさい。まもなく突風で揺れるから」
そう言って、エレナが笑った。
直後、飛行船が激しく揺れ、再び船体が傾いた。
欄干にもたれ掛かったエレナの上半身が、船の外に投げ出された。
読んでいただいてありがとうございます!
もしよければ評価★★★★★・ブクマ、感想等いただけたらとっても嬉しいです!




