26 空鯨の結婚式会場
想像以上に、大きい。
空鯨の瞳は、緑色に光ると聞いた。実際の色は、青に近いか。
「左後方、空鯨の接近を確認。迎撃する」
艦内通話機に向かって叫ぶ。了解、気を付けろよ、ドレイク、とコテツの声が聞こえた気がした。
まぁ、妥当な配置。だが、癪に触る自分が情けない。
あんな巨大な化け物に襲われても、コテツならキリンさんを守りきるような気がする。極めて特殊なノード。
自分にあんなことができただろうか。速く動く力をどう使えば、飛んでくる矢の軌道を読みきって、掴むなんてことができるか。いや、自分は同じことはできない。
できないが、今は自分にできることをやるだけ。
黒い雲の中を吹き荒れる暴風を切り裂くような、地鳴りのような激しい咆哮。
距離が迫ってくる。飛行艇の3分の2位の大きさだろうか。額の辺りに白い角が生えている。雄の印だ。
そりゃ、怒るよ。結婚式を邪魔されたら。
結婚式会場に、土足で踏み込んだんだ。
気持ちは分かるが。
「許してくれよ。ここを通らないといけないんだ」
白い角を目印に、僕は勢いよく引き金を引いた。
手元と肩にずしりとした反動。射出された砲弾は、空鯨に吸い込まれるような軌道で飛び、次の瞬間、風船が割れた時の様な破裂音と白い閃光を放って四散した。
再び、空鯨は大気を揺るがすような咆哮を上げると、目を閉じ、急激に軌道を下げたかと思うと、背鰭を翻すように反転し、黒い雲の中に消えていった。
効いた。成功だ。
「空鯨に命中。標的は反転して逃走」
通話口からキリンさんとソラの歓声のような音が、これははっきりと聞こえた。
「こちら側はお任せを。コテツ、スパナ、そっちの迎撃、外さないように」
コテツの、うるせー、というような声が聞こえた気がした。
***
ドレイクに続いて、スパナからも迎撃の連絡があった。空鯨達に囲まれていて、相当に怒りを買っている状態であることがはっきりした。
「!」
何か、先方に巨大な光を感じる。
「キリン、ソラ! 準備を!」
俺は対空鯨撃退砲を肩に担ぐ。
1つ、2つ……いや、3つ?
「前方、左右!三方向から突っ込んでくる! 二人とも、3秒後! 全力で放ってくれ!」
俺の指さした方向に、緊張した顔のキリンとソラが、それぞれ手をかざす。
「撃て!」
俺が前方に引き金を引くと同時。
「雷撃槍!!」(ジャベリン)
「風弾丸!!」(ヴェント・デレオ)
分厚い光の束と、轟音を伴う爆風が、右方と左方から迫る空鯨に直撃した。
3体の空鯨は、飛行艇に直撃する軌道を逸れて、それぞれ、反転、錐揉みし、叫び声を上げながら雲の中に消えていった。
……危なかった……。
「……コテツ……ありがとう……」
青白い顔のキリンが、そうつぶやく。
もし、俺の「見分ける力」で、あのタイミングで接近に気づけなかったら。
あの速度で3方向から直撃されたら、ひとたまりもない。
離脱や避難など、考える暇もなく、空の塵になっていた。
とりあえず、空中の光は全て消えた。
「こ、怖かった……」
ソラがキリンの側に駆け寄った。
船室の方。
危険を知らせる光が灯る。
やはり勘違いじゃない?
「ソラ! キリン!」
俺が、船内に潜む驚異を伝えようとした、その時。
船体が大きく揺れ、傾く。
俺はバランスを崩してその場に膝をついた。
「きゃあっ!」
ソラが転倒し、傾いた甲板を転がって、俺とキリンから離れていく。
「!」
何か、黒く禍々しい物が、ソラに覆い被さった。
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