23 島間交流5/なるべく悟られないように
「あ、そうか。コテツは初めてだもんね」
何だ何だ……?
「この後、午後は「ウェバー」の試合があって、それが終わった後は、キャンプファイヤーと夕食になるんだ。その後の時間は宿舎の門が閉まる深夜まで、自由時間なんだ」
「だから、ま、付き合ってる奴とか、付き合おうと思ってる連中は、夜の海岸とか宿舎周辺でデートするのさ」
……。
どう反応したら良いか分からず、背筋を冷たい汗が伝った。
「さて、昼ご飯を食べて、「ウェバー」の試合の観覧席を取らなきゃ。良い席は早めに埋まっちゃうからね。コテツのために、良く見える席を用意するよ」
「え? 何で?」
リオが俺の耳元に近付く。
「あの子。朝コテツが気にしてた子。ミルカの友達らしくてさ。「ウェバー」の試合に出るらしいんだ。近くで見たいだろ?」
「え……いや、俺は……」
「協力するからさ! 夜までには話すきっかけ作らなきゃ! いや、コテツはこれだけ活躍したんだから、あの子の方から話しかけてくるかも」
上機嫌なリオは、何とかして俺をキリンと引き合わせようと企んでいるようで、そしてそれを楽しんでいる様子だった。
……最悪だ……。
***
「ウェバー」の競技場に足を運ぶ途中、キリンとソラがにこやかに挨拶した後、二人で何かを話し込んでいるのを見かけた。
が、リオの手前、何となく声をかけずらく、キリンを横目に、競技場の方に移動した。
何の話をしていたのか。
そんなことを考えているうちに、競技は進んでいって。
キリンは両校合わせての最後の競技者だった。
見惚れてしまった。
ということを悟られたくなかった。
「ウェバー」は、地面に、白い粉で描かれた直径一歩分くらいの円の中から、決められた木製の板の的に順番に、木製のスリングショットで小石を飛ばし、当てていく競技だった。
的は5つあって、大人の顔位の大きさの的が3つ、大人の手のひら位の大きさの的が2つ、そして、赤子の握り拳くらいの大きさの的が1つ。
的は、森の木々に吊されていて、競技者から距離が離れるほど、得点が高い。
3人の競技者の合計点で勝敗を競う、チーム戦。
大きな的が、近いものから10、20、30点。手のひらサイズの的が40、50点、そして一番小さい的が100点。
どの的も2回まで射撃することができる。
50点と100点の的だけが特別で、1回目で当てれば、得点は2倍になる。
最大で400点。
白銀島の競技者3人が打ち終わった時点で、ほぼ、勝敗は決まっていた。
陽光島のチームはその時点で、310点の差を付けられていた。
絶望的な点差。
この差を逆転するには、一番小さい的以外、全ての的に当てた上で、一番小さい的に1回目で当てる必要がある。
これまでの5人のうち、一番小さい的に当てたのは、一人もいなかった。
距離にして、30歩は離れているその的は、目視するのもやっとなほど。
歓声の中、競技を始めたキリンが、10点、20点、30点の的を射抜いたところまでは、単なるお祭りのような雰囲気で、両校の生徒は大騒ぎをしていた。
40点の的をあっさりと射抜いた瞬間。
歓声が、どよめきに変わった。
あまりに正確な軌道。
そして、そこだけ時間の流れが違うかのような、落ち着き払ったキリンの姿。
生徒達の歓声など、全く耳に届いていない。
そうなんだよな。
こいつ、集中すると、何も見えなくなるくらい、自分の世界に入るんだ。
今はきっと、的しか見えてない。
目立つなって、言ってなかったっけ。
一番目立ってるじゃないか。
スリングショットをゆっくりと引く、その姿、動き、横顔。
その全てが美しかった。
50点の的は、当然のように、一発で射抜かれた。
静まり返っていた会場に、爆発音のような歓声が響きわたった。
もう、どちらの生徒、というのもなくて、みんながキリンの次の一打に集中していた。
遠く離れた、小麦の粒のような大きさに見える、的。
キリンの集中力の全ては、そこに注がれている。
夕暮れが迫る野外広場に、潮の香りを含んだ風が吹いて、キリンのスカートを揺らした。
一瞬、ひどく寂しい気持ちになった。
俺は、いつまでも、こいつの近くに居られるわけじゃないのだから。
それでも。
いつからだろう。
俺は、キリンが幸せなら。
キリンに、本来あったはずの幸せが戻るなら。
今だって。
俺は、お前の全てが上手くいくようにって。
そう、祈ってる自分がいる。
赤い光を感じた。
的にだけ集中していたはず。
キリンと目が合った。
それは、何かを確かめるような。
そんな視線。
次の瞬間、遠くの的から、カツンと甲高い音が響いた。
審判役の生徒が赤い旗を上げた。
歓声を上げたミルカやリリア、陽光島の女子生徒達がキリンに飛びかかる勢いで抱きついて、胴上げを始めた。
「こんなの、初めて見たよ! コテツと言い、今期の転校生はとんでもない人ばっかだ」
リオが興奮した様子で話しかけてきた。
「……何かさ、最後」
「ん?」
「彼女、コテツのこと見てなかった? 気のせい?」
やっぱり、気のせいじゃなかったのか。
「いや、気のせいじゃない? 俺は分からなかったけど」
「そっか……ま、いずれにしても……」
リオが耳元でささやく。
「どっちも、今日の主役だから、夜、二人で話せるといいね」
……勘弁してくれよ。
あいつ、どうせ怒ってるんだろうし。




