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アレステリア国物語  作者: 鳩峰浦
第三章 その手を離さないで/never let me go
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16 その花には溺れるほどの蜜が

 「キリン、今日も「ウェバー」部に行くの?」


 教室の中から、私に気付いたミルカが声をかけてきた。


 「うん、何かすっかり期待されちゃって……」


 「島間交流の競技会、部長のティンバー君は、今回、特に負けられないんからね。キリンのこと、救世主って言ってたし」

 「え、そうなの? 何か理由が?」


 「告白しようと思ってる子が、白銀島にいるのよ。今回の試合に勝ったら、そうするって言ってた」

 「別に、負けても大丈夫なのにね……向こうの、リグルも告白されるの待ってるんだから」


 リリアが、黒髪を揺らし、頬に手を当てながら笑った。

 その、小さな仕草一つ一つが、大人っぽい。

 何だって言うのか……。どうしたら、同年代でこんな雰囲気が出るのだ……。


 「でも、キリンもモテそうだなぁ」

 ミルカが笑みを浮かべる。

 「綺麗な上に「ウェバー」の上手い女子なんて、もう、ね」


 リリアが同調して笑顔を浮かべる。


 ……タイプの違う美人の二人に見つめられると、何だか緊張してきた。

 「……リオとラシャには、気をつけるように言っておかなきゃ」

 「ちょっと、リリア」


 リリアが悪戯っぽく笑うと、ミルカがふてくされたように頬を膨らませ、リリアを睨みつけた。

 リオ? ラシャ?


 「あ、私たちの彼氏。白銀島にいるの。ミルカの彼氏がリオ。ラシャが私の」


 不意に直接的な話を聞かされ、一拍置いて、私は頬が真っ赤になってしまった。

 夕日の差し込む教室の逆光の中、急に二人が、ずっと年上の女性の様に見えた。

 

 「ほら、この二人」

 

 リリアが、1枚の写真を私に見せた。

 肩を組んで笑っている、茶色の髪に、日に焼けた愛嬌のある顔立ちの少年と、その子より少し背の高い、黒髪の端正な顔立ちの少年。

 

 「こっちの茶色い髪のかわいい顔の方が、ミルカの彼氏のリオ。黒髪のイケメンの方が、私の彼氏のラシャ。どっちもいい男でしょ」

 

 ミルカの。私の。  


 自分の特別な人、というのを何の衒もなく、さらっと、でも、何だろう、「自分のもの」という縄張り意識を語尾に込めて言い放つリリアに、私はすっかり圧倒されて、硬直してしまった。

 

 「リリア……言い方……。キリンが困ってるじゃない」

 「あはっ、ごめん。いきなり色々話して……。明後日、島間交流じゃない? もう正直、私たち学校どころじゃないのよね。彼氏と会って、何話そう、何しようって。行事も抜け出しちゃおうかな」


 「それはやめてよ、リリア。他の子にも影響でるかもでしょ? 行事後は自由時間長いんだから、そっちでやって」


 「はいはい」


 「それと……やりすぎは駄目だからね。分かってるでしょうね。また、手を繋ぐ以上のことは……」

 「もー、優等生のミルカちゃん。分かってるわよ。ほら、キリンが困ってるよ?」

 

 て、手を繋ぐ以上のこと?

 以上って……。

 心臓がバクバク言い始める。 


 「異性と仲良くなるのは推奨されてるけど、手を繋ぐ以上の行為は、禁止なのよ。明日、男子女子、それぞれ集めて、先生から説明があるんだけど。島間交流の度に毎回同じ注意事項。もういい加減にしてほしいって感じだけど」

 

 リリアが、机を離れて、私の方に近付いてきた。


 「だから、キリンも、良い人に声かけられても、手を繋ぐところまでしか、しちゃだめだからね」

 

 少し、私より背が高いリリアが、顔を近づけて耳打ちしてくる。


 何だろう、感じたことのない、色気。

 

 それに反応したのか、思わず、コテツの顔と、手の感触が浮かんでしまった私は、耳まで真っ赤になってしまった。


 「あれ? もしかして、もう誰か良い人いるの? 同じ島は駄目よ?」

 

 「い、いない! いないから! あ、じゃあ部活あるから!」


 目の前には美しい黒髪。大きな、艶めいた瞳。夕陽の中でもほんのり赤い唇。


 そこには、溺れるほどの蜜を内包した、美しい花が咲いているようで。


 その全てが、何故かひどく不吉に思えて。


 足元から、床の方に引きずり込まれそうな感覚に恐怖した私は、あわてて、ミルカとリリアに背を向けて、射撃場の方に全力で駆けだした。


 本当なら、女子同士、恋愛話に花を咲かせても良さそうな状況だったのに。

 私はとにかく、その場から逃げたくて仕方がなかった。

 

 ***


 その時感じた違和感も、恐怖心も、全て正しかったのだ。

読んでいただいてありがとうございます!

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