12 どれもこれも約束と違う
※1章の1ー3話あたりと少しだけ関係ありです。もはや懐かしい、、、
クラスの中でも、やはりミルカは、とびきりに可愛い。
初日の印象も良かったが、話せば話すほど、可愛い。
女の子として、かわいい。とにもかくにもかわいいのだ。
妖精のような見た目にぴったりな、少し高い音色の鈴の鳴るような声。腰まである長い銀色の髪は、よく手入れされていて、日によって二つに結んだり、三つ編みにしたり、お下げにしたり、大人びたストレートの日もあったりして、女子の私からしても、ちょっと朝、「今日のミルカ」がどんな雰囲気か、楽しみにしているくらいだった。
「キリンは、手先が器用だよね、普通あんなに早く縫えるようにならないよ。卒業したらすぐに大きな工房に雇われちゃいそう」
「細かい縫い方だけね。デザインとかそういうのは全然だめ」
実際そうなのだ。
決められた手順で決められた縫い目で縫う作業は、確かにクラスの中で一番早くできるのだけど……。自由にデザインを、と言われた課題は、猫の形に縫ってみようとして、まぁ、ポンコツだった。
猫というよりは、半魚人……?
ほ乳類ですらない……いや、魚人だから半分ほ乳類?
……駄目だ、思考すら可愛くない。
他方、その脇でミルカがステッチした子犬が、かわいいことかわいいこと。
かわいい子からは、かわいいものが生み出されるものなのか……。
「えー、でも、可愛かったよ、あの子猫」
猫に見えてたの?!
しかも多分本気で言ってる。
ああ、どういう育ち方をすればこうなるのか。
私も、自分の家で育っていたらあるいは……。 貴族の女性っぽい振る舞いを身につけていただろうか……。
自分の家、か。
「施設でね、こないだ子猫が迷い込んで来て、飼うことになったの。その子にちょっと似てる。今度、見に来る?」
ミルカは、孤児院から通う生徒の一人だ。
それも、少し。勝手な話だけど、親近感を抱く一因だった。ある日突然、孤児になって、あのお屋敷で散々な目にあって、それからミリアムの施設に行った自分を、勝手に重ねて。
ああ、でも、まぁ。
そうすると、やっぱり育ちより、性格かしら。
ミリアムは、優しく、丁寧に育ててくれたんだから……。いや、あの屋敷で虐げられていたのが私の性格形成を……。
「キリン?」
「ん? あ、ごめん! 行っていいの?」
「もちろん! 施設長さんに話しておくね」
弾けるような笑顔。
素敵だなぁ。
そんなミルカの笑顔の余韻に浸りながら教室に入った私の目の前には、クラスの女子に囲まれたドレイク君の姿があった。
何やら、前髪を整えながら、見たことないくらい生き生きと話をしているが……。
「ドレイク君、女子からも男子からも人気なんだよ。こないだも、すっごく脚が速くて、みんなびっくりしちゃって」
……ドレイク、君?
まさか、あなた、ノードを使ったんじゃないでしょうね?
約束したよね? バレると大変だから、能力は使わないって。
ああ、だめだ、もう見たことないくらい、楽しそうな笑顔。
……あれ?
あんな子いたっけ?
ドレイク君集合の奥。
ちょこんと座っている、少し小柄な、濃いめの茶色い髪の女の子が、数人の女子に囲まれている。
少し垂れ目の二重で、恥ずかしそうに俯いた表情は、何とも不思議な魅力を放っている。
女子の制服がよく似合う。え? 転校生?
その子と目があった。
あれ、何かこっちに走ってきたぞ。
「ち、違うんです……その……どうしても着てくれって言われてですね……押し切られちゃって……化粧までされちゃって……」
ん?
んん??
あれ?
目の前の美少女から、聞いたことのある男の子の声が聞こえるぞ?
え? 頭おかしくなりそう……。
「……す……スパナ……君?」
「……後で、化粧落とすの手伝ってください……あ……」
「スパナ君! 写真! 写真撮ろう! 映写室! 映写室用意!」
「だ、駄目です……着るだけって約束で……」
「こんなかわいいの、記録に残しとかないと、罪だよ! 罪!」
美少女化したスパナ君が、女子達に連れていかれてしまった……。
「……確かに、ちょっと、すごかったね……スパナ君……あんなに女の子の格好似合う男子、いるんだ……」
ミルカも、目を丸くしてスパナ君の去った廊下の方を見つめていた。
いつも前髪でろくに目元も見えなかったし、猫背で調合ばっかりしてるから、知らなかった……スパナ君、あんな顔なの……。
***
「知らなかったの? キリンちゃん?」
「え? ソラ、知ってたの?」
「……何年一緒にいると思ってるの……結構有名な話だったけど……スパナ君って、最初の頃、先生達に女子に間違われてたし」
……知らなかった……。
「キリンちゃんは、もうちょっとコテツ君以外に興味持った方がいいよ」
「え? ちょっと?! どういう……」
「あ、もうすぐ月に一回の島間交流日だね」
「え、あ、そうね……来週だったわね」
「キリンちゃんに会えるの、楽しみだな」
「久しぶりだもんね。まぁ、ほとんど毎日話してるけど……お昼、一緒に食べましょ」
「うん、あ。ちゃんとコテツ君との時間も作るから」
「え? 何それ、そんなのいらな……」
「あー、でも、コテツ君、人気だからな……約束はやっぱできないかな……」
「え?」
「あ、いや、何でもない。それじゃおやすみなさい」
その日の夜のソラとの定期通話は、そんな一言で切断された。
……絶対、わざとだと思う。
最近、ソラがちょっと私とコテツで遊んでる気がする。
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