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第七章(中)

 ひとまず、入谷が起こした行動はこれだった。

 ― 行方不明となっている研究員が、どんな学生で、どのように行方が分からなくなったか捜査資料から調べる。


 入谷はまどかにも手伝ってもらい、例の捜査資料から、菅原研究室配下の学生の氏名、年齢、捜査をどこまで進めていたかについて情報を抜き出してもらった。

 結果、分かったのは以下の通りである。

 菅原隆義教授、直属の学生は全部で五人いた。

 全員、事件直後に行方をくらませている。

市村いちむら てる。25歳。当時、博士後期課程1年。

岩田いわた 綾子あやこ。24歳。当時、博士前期課程2年、修士として卒業を控えていて、すでに論文発表も論文提出も済ませており、就職先もとうに決まっていた。

佐藤さとう 一弥かずや。23歳。当時、博士前期課程1年。事件直後に突然中退の届出が出されている。実家にも戻っていない。

野村のむら 正和まさかず。22歳。きた 拓実たくみ。22歳。両名とも、卒業を控えた4回生だった。こちらも岩田綾子同様、卒業に必要な物は全て提出されており、就職先も決まっていた。


 さらにこの研究室には、この五名とは別に助教が一名いて、、さらにその下に学生が二名いることが分かった。

 助教の名前は富樫とがし 雅也まさや。37歳。5年ほど前から、この大学に異動してきたようだった。妻と、生まれたばかりの息子が居たそうだが、3人共、事件の数日後に居なくなっている。

 こちらは、大学に正式に離職の届け出を出していたそうだ。

 配下に居た2名の学生(いずれも修士1年)も同様、中退で届出をだしていたそうである。

 しかし、この3名については先ほどの5名と大きな違いがあった。

 まず、大学に届出を出したのが、事件の数日後であったこと。

 つまり事件から数日間…具体的には3日ほどだったそうだが…、この3名だけはあの研究室に居た、ということになる。

 次に、この大学を去る際の彼らの行動である。

 3人全員、この大学を去る数日前から前日にかけて、周囲にきちんと"居なくなる"旨を伝えていたのである。

 これは大きな手がかりだったろう。捜査員の色めきが、文書から伝わってくるようだった。




 よって当然、農学部の学長もこの事は知っていた。というかむしろ、富樫助教と話し合っていた。

 富樫助教は、優秀な研究者だったらしい。学長としては、出来れば残ってもらいたかった。3名を引き受ける、と手を上げてくれた教授も居たそうだ。

 しかし富樫の決意は固かった。

「今回の事件を受けて、しかも直属の学生が皆行方不明になっているということもあり、うちの学生2人とも、非常に不安を感じているようです。僕としても、出来れば一旦ここを離れた方が安全なのではないかと考えます。

 実は、ここ数日僕の自宅の周りも少し、おかしいのです。帰り道も視線を感じますし、妻からも同様の事を訴えられています。うちにはまだ0歳の息子も居ますし…。幸い、僕らの身元を引き受けてくれる所が見つかっています。その場所、組織についてはまだ言えないのですが、3人共、引き受けてくれると言っていただけました。急なことで申し訳ないのですが、できるだけ早くここを離れたい。」

 また富樫はこうも言ったという。

「本当は彼ら(直属の5人のことを言っているものと学長は思ったという)も助けたかったのですが…。翌日から行方が分からない、しかも連絡も付かないとなるとどうにも…。学長。もし彼らの内の誰かから連絡がありましたら、僕の所へ連絡をよこしてもらえませんでしょうか。この携帯は間もなく使えなくなりますが…ちょっと手段を考えます、お願いします。」




 捜査が打ち切られたのは、学長から上記の証言を取った数日後だった。

 なので富樫が言っていた"手段"とやらも、聞けずじまいに終わっている。



 入谷は、まとめられた調書を前に思案した。

 どう考えても、この富樫助教を取っ掛かりに探っていった方が早そうである。何せこちらはまだ10代のまどかを戦力として数えないとして、二人しか居ない。リソースが限られているのだ。

 そして入谷が次に注目したのはやはり証言にあった"手段"という単語だった。

 この証言を取って、すでに一か月半が経過している。

 ということは、農学部学長は現在は、富樫との連絡手段をすでに知っている可能性が高い。

(…まあ、ここから攻めるかな…)

 少々正攻法過ぎる気はするが。

 入谷はのんびり立ち上がり、ぐーっと伸びをした。

 こうして数日後。

 入谷将史、北島まどかの両名は、その大学にある応接室で、一人の初老の男性と相対していた。


 その男性こそが、例の農学部学長―長谷川はせがわ ゆたか教授、その人だったのである。



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