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オオカミ  作者: ASH
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3-オオカミさん、出会い

 人が誰かを好きになる瞬間なんてあるのだろうか。

私はそう思う。


っていうのは誤りで。


好きになった瞬間に気づいたり、それに理由をつけることなどできないのではないだろうか。

私も同じく。渉のことを好きになった瞬間など知らない。

ただ気づいた時には、彼を目で追うようになってた。


彼は入学当初からとても目立った存在だったから、意識せずとも視界に入ってきた。

ただ、そのことを当初の私はとにかく嫌がっていた。渉のことが嫌いだった。

だから、ただでさえ人付き合いの苦手な私は彼という存在を無視し続けた。

独りでいれば、争いごととは皆無。それがとても楽だ。


そうして数ヶ月が過ぎた初めの夏頃だった。


「アスカだっけ?」


唐突に彼が話し掛けてきた。

それは日直の仕事で、私が教室に居残りをしている時だった。


「うん」


無視するはずが、返事をしてまった。

相当そっけないものだったが。


渉は、私の座る机の前まで近づいて来る。それはなかなかの急ぎ足で。


「俺、渉」


親指を自分の方に立てて、彼は名乗った。


いきなり自己紹介されて、私は唖然としてしまった。

入学当初から彼を知っていたとはいえ、言葉を交わすのは初めてだったからだ。

ただ自分でもビックリするほど他人には興味がなかったため、人気者の彼の名前すら知らなかった。


「だから?」


答えに困り、私が出した結論は酷い返事だった。

普通ならそう思っても、言わないだろう。


でも私は、他人にどう思われるかなんて理由で自分を隠したりしない。

他人の陰口などに臆病になったりなんかしない。

どうせいい子ちゃんでいたって、他人はどんな所にでもつけいってくるものなのだから。

昨日の敵が今日の味方というではないか。今日の味方は、明日の敵である。


損があれば得もあって、プラスマイナスゼロだ。だから別にいいのだ。

私は他人に嘘をつく人間も嫌いだが、自分に嘘をつく人間が特に嫌いだ。


「だからって・・・そういう言い方はないんじゃねーの」


彼が少し口をとがらせたが、私は気にしない。

別に私は、話し掛けてなんて頼んでない。


しかし大抵、初めて私に話し掛けてきた人達は、このセリフでもうそれ以上干渉してこなくなるのだ。

むっとした顔つきで、陰では「何様よ」とかぼやいてる。

勝手に吠えていればいい。そういうのを負け犬の遠吠えというのだ。


しかし彼は、その大抵に分類されないようだ。


「アスカっていっつも一人でいるよなーって思ってさ」

「それがなにか」


あなたに迷惑でもかけてますか?

無表情で相手の顔を見れば、相手は少し気難しげな表情になる。


「イジメとかじゃねーよな?」


要するに彼は、いい人面して私の心配でもしているつもりなのだろうか。

それで私からも人気を得ようという魂胆だろうか。

甘すぎる。甘すぎるぞ。そんな在り来りなストーリー展開。ない頭でももっと使うべきだ。


しかも、そんなの有り難迷惑だ。それに残念ながら違う。


「残念ながら違う」

「いや残念じゃないだろ」


私の言葉に、彼は少しマヌケな顔を見せた。


「イジメだったらどうしようかと、俺はハラハラしてたんだぞ。そうじゃなくてよかったよ」


彼は安堵した笑みを見せた。私にしたら意味不明だったが。

なぜ私の事をいきなり気にかけ出すのかが分からなかった。


彼と私は別の世界の人間だから。

彼はグループの中心にいる人気者。私はグループから外れた一匹狼。

2つは決して交わる事のない存在だ。共通点などありはしない。


「じゃあ輪に入れないくらいシャイだとか?」


しかし考え込む私を無視して彼は話し続ける。


「違う」

「入学時にタイミング逃しちゃったとか?」

「違う」

「実はみんなが馬鹿すぎて嫌だとか」

「・・・」


確かに。それはあるかも。

話の話題といえば、恋バナとか陰口とかお洒落系とか。

もっと身のある話ができないものかと、つくずく思う。


黙り込んだ私に彼は、「いやそこは全力で否定しろよ」とぼやく。


「そのみんなってのには、俺も入ってんだから」


少し残念そうに言う彼。

まるで自分は特別扱いしろ、とでも言っているようだ。

出会ったのは数ヶ月前でも、ほぼ知り合ったのは今に等しい。それなのに、だ。おかしなことを言う。


「俺さ、アスカのこと尊敬してんだよね」

「なんで」


意味がわからなかった。

性格も立ち位置も、こんなにも真逆な私のどこを尊敬すると彼は言うのだろうか。

目指すところも志しも、価値観さえひとつとして重なる所はないと思っていたのに。

ハッキリ言うが、私はこれっぽっちも彼に尊敬心など持ち合わせていない。ちなみに好意も。


「アスカって、何でも一人でできるじゃん。強いよな。他の奴らはほら、集団でいなきゃ強くいれないし何もできないからさ。まあ、俺もその一人なんだけど。だからこそなんか、すげーなって」


私は驚きで声を失った。

彼がそんな事を考えていたとは。


「俺はなんつか、それが楽だからなんとなく輪にのってるだけでさ。一人って何かと不便じゃん?」

「いえ別に」

「二人組での体操とか、実習ん時とか、体育の時とか困ったことない?」

「別に。あぶれたら先生とやるし」

「ほらそーゆうとこ。アスカってなんか他と違ってるよ」


そりゃ他と違ってるから、私はいつも独りなわけで。

自ら望んでることであり、それは他の生徒達を見下しているからと言われれば、否定はできない。

私が真面目すぎるのかと言えば、そうでもないのだが。どうにも同世代の考えは合わないのだ。

浅はかで表面的。核心にかすりもしない。

大勢でいても、どこか孤独感をぬぐい去れない。

独りでいる孤独感の方がずっと、自由で楽だ。


無論、彼のこともまた、私は同じように思っていた。


今日までは。


「俺達、対照的な似たもの同士だな」


彼が言ったこの台詞が、私達の始まりだった。


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