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オオカミ  作者: ASH
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2-オオカミさん、出会い

※5/22 現在、修正中です!

高校1年の夏。

図書委員だったため、夏休みも学校にいることが多かった。


ちょうどその時図書室には誰もおらず、手持無沙汰というわけではないが

やることもやって手が空いたため、数学の教科書を広げてぼーっ見ていた。

すると、急に後ろから誰かが覗き込んでくる。

はっとして瞬時に振り返ると、私を見下ろしてくる男子生徒が誰かは一目瞭然だった。


「大神さんって名前なんだっけ?」

「違います」

「いや、じゃなくて名前名前」

「―アスカです」

「名前は割と普通なんだ。大神って、かっこいい名前だよね。俺は渉、よろしく」


いや知ってます、という言葉を喉の奥に飲み込んだ。


赤井渉。オレンジ色にも見えるほど明るめの茶髪に、夏ならではの焼けた肌色。

彼が陸上部のエースであることは、たぶんほとんどの生徒が知っていることだ。

さらい同い年で、同じクラスならばなおさら。

明るく男女分け隔てなく接する性格から、万人に好かれる絵に描いたような存在だった。

さらに、女子受けするを容姿をしているためか、学校でも5本の指に入るくらいモテるらしい。

そんな人を、たとえ興味がなくとも名前くらい知らないはずがないではないか。


私にとっては、まったく人種が違い無縁なイメージの赤井渉。

なんとなくのイメージでしか知らないが、あまりイメージは良くない。

そんな風に、私は彼を過小評価していた。


なぜ、彼のイメージにそぐない図書室にいるのか謎だった。

まさか、私のことをいじりに来たわけじゃるまいし。

夏休みといえば、陸上部は毎日鬼のような練習があるだろうに。

遠征に行ったり、練習といっても外だから、校内にいること自体が珍しいはず。

赤点の補習か?ならば少しかわいそうに。

私は、勝手に彼に同情した。


興味津々に見返した私に、彼はこれでもかってくらい目尻にしわを寄せた。

その屈託ない笑顔がなぜかすごく記憶に張り付いた。

張り付いたのがなぜか分からないのに、私はそこに理由を探した。

だが結局見つからぬまま、その日私は赤井渉を認知することとなった。





7月の前半。

空は真っ青で、今の時期は一日中ぽかぽかしている。


私の趣味は読書だ。

もともと人付き合いが苦手というか、必要としていないため、

休み時間に入り浸る場所といえば、教室でも保健室でもなく、図書室もしくは屋上くらいだ。

雨の日は屋上には行けない。だから雨の日が嫌いだとか、ベタなことはない。

逆に雨粒が窓を何度と打ち付けるのを見ているのは好きで、

その様子を横目にできる図書室の窓際の席で読書をするのが好きだった。


しかし、今日のように晴れた日もまた屋上が気持ちよくて好きだった。

真夏だとコンクリートが火傷しそうなくらいに温められているが、

今日は風が少し吹いているため涼しいはずだ。


だか実際は図書室にいて、いつもの窓際の指定席でうたた寝していた。

窓際のその席は、雨の日なら雨音が音楽を奏でているように聞こえて、

こんな晴れた日には日差しの差し込み具合が斜め45度で丁度いいのだ。

そんな時には、読書しながらうたたねすると、とんでもない幸福感に包まれる。

自分が眠りに落ちている事を、思考のどこか深いところでは感じながら夢を見ていた。


私は教室に一人佇んでいる。そこから校庭が見える。

放課後の少し薄暗い校庭では、陸上部の部員達が練習をしていた。

その中の一人に視線が釘付けになった。

真夏の太陽に焼かれて黒く焼けた剥き出しの腕は、他の部員達より心なしか細い。

だがスタートラインを切れば、その細い腕が他のどの部員よりも早く風を切って、一番にゴールラインをすり抜けて行った。


そこで場面はとび、帰宅のため学校を後にするところだった。

特別仲のいい友達もいないため、学校にいるときもだが、登下校もいつも一人だ。

いつも放課後読書にふけっている私は、皆より一歩遅れて下校するの日課となっていた。

対外その時間帯に学校に残っている人達は、部活動で居残りしている人達だ。


先ほど教室から見ていたグランドには、もう誰の影もなくなっていた。

本当に誰もいないのか、グランドをフェンス越しに覗き込んでいると、

後ろから誰かが近づいてくる気配がした。


「アスカ!」


そこで目が覚めた。

視界に入ってきたのは、先程とは全く違う風景だ。

そういえば私、図書室に居たんだったな。

自分が図書室でうたた寝してしまっていたことを、寝ぼけた思考でゆっくりと認識した。

机の上で半開きになったままの本の上に、外から差し込む日差しが影を作っていた。

重たい瞼を一度閉じ、もう一度開ける。


「アスカ」


そういえば、誰かの声で目が覚めたのだった。

開いた視界の端に入り込んだのは、端正な顔形。渉だ。


「なにしてんの?」


彼は腰を折ってしゃがみ込むと、私の顔を下から覗き込んだ。

突然現れた彼に驚いたがリアクションは見せず、

まだ鮮明ではない思考回路をフル回転させた。


「また読書してんの?図書委員の仕事しなくていいんだ?」


図書室は静かにするのが一般常識だろうに、彼の声はおそらく廊下まで響くほど大きかった。

さっと周囲を見渡したところ、図書室には私と彼しかいなそうだったため、

いったんほっとした。


「あのさ」

「なに?」

「声が大きい」


渉は驚いた表情をする。

ここが図書室だということを忘れていた、そんな表情だ。

最近はこのように渉と二人っきりになることが、図書室ではなく屋上がほとんどだったから、

涉はうっかりしてたって表情をしている。

屋上なら大声で叫んでも、誰にも文句は言われないし、逆に少し大きな声じゃないと聞こえないから。


「屋上に行ったのにいないから、俺の勘で多分ここだと思ったんだよなあ」 


まるで俺すごい、って言っている風に聞こえる。

いや、図書委員だって知ってるくせに。


彼はおそらく、屋上に行ってから図書室に来たのだろう。

そこまでして私を探していた理由が気になる。ただ単に暇だったのだろうが。


「うたた寝してた」

「ここで?めずらし」


渉の跳ね上げるように言葉の語尾を切った。


「アスカって冬とかしか図書室に居候しないのかと思ってたから」


居候って、なんかそれは違う。


だが、渉がそう思うのもしょうがないのかもしれない。

最近は図書委員の仕事がないときは、屋上に行くのが日課になっていたからだ。

だが以前はずっと図書室に居た。そのことを渉は知らない。

それは、涉と親しくなってから、屋上を訪れる回数が増えたのだから。

それは、涉が屋上によく入り浸っているからだ。


屋上なら誰にも何も言われない。私が読書をする横で渉はいつもくだらない話しをしてる。

そんな時間が、最近すごく心地いいのだ。


私と渉は付き合っているわけではない。

授業中以外で学校に居る時間、誰かと時間を共有するとしたら渉とだけだから、周りには時々誤解されたりもする。

はみ出しものの私はなんという事もないが、普段輪の中心にいる涉だから、皆おもしろくないはずだ。やっかみも多い。

私もハッキリ言って、渉が私と一緒にいる理由が分からない。

わざわざ輪の中から抜け出してきて、私と一緒にいようとしている。

特にそのことについて追求したりはしないが、ほんとうに謎だ。


だけど、嬉しかった。


「つか、何読んでんの?」

「若草物語」

「ふーん」


なぜなら、涉のことが好きだから。


こうやって渉はいつも本のタイトルを聞いてくるが、

だが内容までは聞いてこない。

なにに興味があって聞いてくるのか、イマイチわからない。


だけど、渉にはずっと忘れられない人がいるらしい。

前に、本人から少しだけ聞いたことがある。

だが教えてもらったのは、付き合って数ヶ月で別れて、今では連絡も取り合っていないということだけだ。

だけど、その話をした時の渉の表情。まだその人のことを想っているのだと、すぐに分かった。


だから私は必要以上には聞かない。


「アスカ、今日一緒に帰ろう」


渉はいつもこんな感じ。

なにを考えているか分からない。

だけど、いつもこんなんだからこそ、ふとした瞬間にドキドキさせられる。


友達なら沢山いるのに。彼と帰りたいと思う女子なら沢山いるのに。

彼はあえてこうやって私を選ぶ。それにはちゃんと理由がある。


「だってアスカといると楽だもん」


まるで恋とかそんなのには関係のないセリフ。

だけど、そんな理由が今一番私は嬉しい。


甘えるように私を見た渉は、私が突っ伏している机の上に顎をのせてきた。

そしてけだるそうに目をつぶる。それが渉のリラックスする時の癖。


私だけが、本当の渉を唯一見ていられる。それが今はとても嬉しい。


「うん」


だから私は、いつも渉の誘いを断ることはできない。

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