第三話:崩れたロジックと、沈黙するメイン電源
「解凍完了! 副船長、覚醒しました!」
地獄のような30分が過ぎ、覚醒した副船長マーカスが手動オーバーライドで安全ロックを解除。生き残ったわずかなクルーは「中央ブリッジ」と「中央分析室」の二拠点に分かれて籠城した。30名いたクルーの過半数が絶命し、動く死体となって通路を彷徨っていた。
「どうやら緊急事態のようだ。ハンス、詳細を説明してくれ」
緊急解凍で体調がすぐれないマーカスが端末で現状を把握しながら言った。
「ほかの船で発生したバイオハザードが本艦でも発生しました。今、サンプルの採取と中央分析室での分析を進めています。」
「情報端末通りならその船は全滅したよな!中央分析室、全滅の可能性がある緊急案件だ!仮説で構わんから現状の情報で原因を考察してくれ。」
コンソールスピーカーから、中央分析室のハンスの焦燥しきった声が響く。
『副船長! 聞こえますか! スティーブ船長が水耕栽培エリアで感電自爆した時の高電圧ショックで、船載AIに深刻なバグが発生したんだと思います! 実るはずのない桃の木にいきなり実がついたのも、AIが環境制御やナノマシン管理を暴走させた証拠です! ナノマシンが死体の神経系を狂わせて動かしているんですよ!』
ブリッジでマイクを握りしめた副船長マーカスが怒鳴り返す。
「よし、なら緊急強制遮断プロセスを適用しAIと通信を全遮断すれば全て終わるな!」
『待ってください!』ケンジの切羽詰まった声が通信に割り込む。『まずはここで血液サンプルを解析して原因を確定させるべきです! 会議だって原因が分からず揉めていたんですよ!?』
「グズグズしている暇はない! これ以上犠牲者を増やせるか!」
副船長は非常遮断スイッチを強力に押し込んだ。
ブツン――。
船内のメイン電源、通信、そして船載AIが完全に沈黙し、禍々しい非常灯の赤だけが空間を染めた。
中央分析室では、ハンスがハッチの隙間から押し寄せる死者の腕へ採血シリンダーを突き刺し、目の前の卓上ナノスキャナーと遺伝子シーケンサーへ検体を叩き込んだ。
「どうだハンス!? AIの暴走によるプログラムエラーか、未知のウイルス遺伝子が出たか!?」
解析画面を見つめるハンスの顔から、みるみる色が失われていく。
「……エラーなんて……出てない……」
「なんだと!?」
「ゼロだ! 寸分の狂いもなく完璧に正常稼働している! ……それだけじゃない、未知のウイルスどころか、寄生虫も、有害な細菌すら存在しない……! 血液を構成している物質自体に異変がない!」
「バカな!? 首が折れた死体が動いているんだぞ!? 会議のどっちの説も間違っていたというのか!?」
「機械の論理的にも、生化学的にも、完全に『ただの健全な人間の血液』なんだよ!!」ハンスが狂乱したように叫ぶ。
電源もAIも切った暗闇の中、外の死者たちは一切動きを弱めることなく、凄惨な力でハッチを「ドォン……ドォン……」と叩き続けていた。
科学的データがすべて「異常なし」と示す中で、目の前の死体だけが蠢き続ける――完璧なロジックの崩壊だった。




