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薫香の令嬢はリドルを溺愛する王弟に愛される  作者: 今尾曜


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4 旅立ち

 母が存命の頃から、父が妹である叔母と不倫していたなんて、とても許せることではない。


「酷すぎる……」


 母に対するあまりの仕打ちに涙が頬を伝う。


「うるさいっ!! おまえに何がわかる!?」


 非難されたことで、父は激高した。


「私は始めからカリナではなく、アメリアを愛していた。だが、ふたりの結婚は許されず、アメリアはすぐに他家へ嫁がされ、わたしは婿入りの時期を早められてしまった。カリナは口では優しいことを言っていたが、重要な仕事は何ひとつ任せてはくれなかった。あの女はずっと私を馬鹿にしていたんだ!!」


「あたりまえだろう」


 大公が呆れたように言った。


「カリナが嘆いていたぞ。リドルを高く売りつける事ばかり考えていて、イーラの森に足を向けることもないと。領地の管理も人任せ、そのうえ妻の妹である愛人に貢ぐばかりのクズだ。信用などできるわけがない」


「それはっ」


「もういい。これ以上、おまえの言い分を聞くつもりはない。ルナリアは先週、十六歳の誕生日を迎え、成人となった。国王陛下からルナリアの爵位継承を認める書状を預かっている。おまえが準備したパーティーはルナリアのお披露目の場としよう」


「そんな勝手なことはさせないぞ!!」


 完全に頭に血が上ってしまったらく、父は自分よりはるかに身分の高い相手に怒鳴り散らした。


「勝手なのはおまえのほうだ。後継者の変更を陛下に願い出ることもせずにユリアナを後継として紹介しようなどと、あまりにも常識がなさすぎる。ここまで無知だと面倒だな。何をしでかすかわからないし、とりあえず牢に入ってもらうか?」


「どうして、そんな、横暴だっ!!」


「ああ、これも後で説明しようと思ってたんだが、こいつ、無断でリドルを他国に売ってたよ」


 大公は喚き散らす父を視界から外し、ルナリアだけをみつめると、苦々しげに言った。


「君が書いた報告書を私ではなく、無認可の商人に渡して買い手を探させたうえに、おそろしく高い値段をつけてね」


「なんてことを!!」


 ルナリアは怒りのあまり叫んでしまった。


(大公様がちゃんと調査して主を選んでくれているからこそ、安心してリドルたちを送り出していたのに……)


 リドルが生まれるとまず大公家に報告し、大公が譲渡先を決める。

 友好の印として贈られることもあれば、高額で売られることもある。

 リドルを世話するには大金がかかるため、それが可能な財力を持つ者だけが彼らの主となれるのだが、いずれの場合にもあらかじめ決められた一定の金額が、国からグウェン家に支払われることになっている。

 アインス大公はリドルに関するすべての事由の責任者であり、グウェン伯爵家の監視役でもあるのだ。


 真っ青になり立ち上がって逃げようとした父を騎士たちが取り押さえた。


「黙らせてから地下牢に連れて行け。それから、夫人と娘は処分が決まるまで謹慎だ。部屋から一歩も出さないように」


 父は大声で母とルナリアを罵っていたが、騎士に猿ぐつわを噛まされ、部屋を連れ出された。


「あの男のしでかしたことでグウェン家に傷をつけたくなかったからね、ルナが爵位を継いでから除籍し、平民に落とした後で捕らえようと思っていたんだ。もっと早くなんとかしてやりたかったんだが、さすがに他家の内向きのことに口を出すのは難しくてね、遅くなってすまない」


「いえ、助けてくださってありがとうございます。父がそんなことをしていたなんて気づきませんでした。リドルたちに申し訳ないわ」


「できる限り回収したいと探してみたんだが、みつけるのは難しい。不法に手に入れた者たちはリドルを表に出さないからね」


 自分が何もできないくやしさと、今まで気付かなかった情けなさに涙があふれてくる。


「ルナリア、これからは君が伯爵だ。もうこんなひどいことは起こらないよ。そうだろう?」


「はい……」


 ルナリアは泣きながらうなずくことしかできなかった。


 ***


 翌日、無事にパーティーが開かれ、ルナリアはグウェン伯爵としてお披露目がなされた。


 今後、政務に関しては大公家が推薦してくれた新しい家令が中心となって行い、ルナリアの指導もしてくれることになっている。


 大公はいったん王都に戻ったが、すぐに数人の侍女や侍従をつれて戻ってきた。


 父は国王による裁きが下り、北方の収容所で強制労働。

 平民となった義母と義妹は父の犯罪に加担していなかったが、ルナリアを虐げていたことが明らかにされ、グウェン家からの援助は一切なしで、領内から追放された。


 ルナリアは処分を伝えに来た王宮の役人から、伯爵家が存続できたのは大公の口添えによるところが大きかったらしいと聞かされた。


 あらためてお礼を言おうと大公のもとを訪れると、申し訳なさそうに頼みごとをされた。


「ルナリア、こんな時にすまないが、新しく生まれたリドルを連れてロイス王国に行ってもらえないだろうか?」


「えっ? わたしが?」


「じつはロイスの王弟殿下のもとにはすでにリドルがいる。今まで自己流で世話をしてきたから詳しい人間にいろいろとアドバイスしてもらいたいのだそうだ。私としても、新しいリドルとその子が仲良くできるかという心配もあるし、ルナリアに見届けてもらえると安心なのだが」


「お役に立ちたいとは思うのですが、まだいろいろと落ち着きませんし、今、ここを離れても良いのかどうか……」


「ああ、こちらのことは任せてくれ。君がいない間にすべて調えておくから。使用人も選別して、必要なら再教育もさせてもらう」


 さすがにそこまでしてもらっては申し訳ないと辞退しようとしたが、助けるのが遅くなったお詫びだから、これくらいさせてくれと押し切られた。


「領地に関することはゆっくり学んでいけばいいのだから焦ることはないよ。今回は公式な訪問ではないから、ちょっとした旅行のつもりで行ってくれて構わないから」

「わかりました」


 ルナリアがうなずくとあれよあれよという間に旅の準備が調えられ、二日後には馬車に乗っていた。

 あの予知夢を見せてもらった日に生まれたリドルと一緒に。

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