27 帰国
部屋に戻ってベッドに横になると、やはり疲れていたのだろう、すぐに寝入ってしまった。
目覚めた頃には、すでに陽が高くのぼっていた。
ルナリアはいそいで身支度をすませ、フェンリルと共にヴァンレードのもとに向かった。
驚いたことに彼はすでに目覚めており、ベッドの上で半身を起こし、ギゼルと談笑している。
カイとマーラも一緒にいて、ベッドの端に座っていた。
「どうして知らせてくれなかったの?」
ギゼルに抗議したが、彼はヴァンレードを指さして訴えた。
「団長が悪いんですよ。私は知らせようとしたのですが、この人がどうしてもあなたを起こしたくないと言い張るもので……」
「今後、そういう気づかいはしないで。わたしは子供の頃から森を走り回っていたから、体はいたって丈夫なの」
「そう怒るな。俺が悪かったよ」
ヴァンレードは苦笑すると、そばへ来るよう手招きをした。
「傷は痛む?」
「ああ、少しな」
ルナリアがベッドの脇に置かれた椅子に座ると、ヴァンレードはギゼルとフェンリルに、しばらくふたりきりにしてくれるよう頼んだ。
ギゼルに続き、カイとマーラの手をひいてフェンリルが出て行くと、ヴァンレードはクッションを背中に当ててもたれかかった。
「大丈夫? 無理はしないで」
「ああ、少し疲れただけだ。それより、あなたに頼みがある。できるだけ早くラースに戻ってほしいんだ。カイとマーラも一緒につれていってほしい。ふたりともイーラの森で休ませたほうがいいと、フェンリルにすすめられたからな」
いきなり帰国のことを言われ、ルナリアは少なからずショックを受けた。
「あの子たちも大事だけれど、まずは自分の心配をして。これからどうするつもりなの?」
「俺のことは心配しなくていいよ。これでもいろいろと考えてるから。とにかく、今はこれ以上、あなたを巻き込みたくないんだ」
「嫌よ。まだ傷も治っていないのに、あなたを置いて帰れと言うの?」
怒りと不安で泣きたい気持ちになる。
「そんな顔をするな」
ヴァンレードは苦笑した。
「事が収まったら、必ず会いに行くから」
「本当に?」
「ああ」
ヴァンレードはルナリアの手を取って、軽く唇をあてた。
「傷が治ったら、今度はあなたからキスしてほしいな」
「なっ!?」
ルナリアは真っ赤になった。
「淑女に向かって、なんてこと言うの!?」
「それは失礼」
ヴァンレードは笑いながらも、傷の痛みに顔をしかめた。
「もう少し眠ったほうがいいわ。そばにいるから」
「ああ、そうしよう」
その日は戻ってきたリドルたちと一緒にずっとそばにいたが、夜が更けると、ヴァンレードからリドルたちといっしょに休んでほしいと頼まれ、ルナリアも自室に戻った。
だが、翌朝にはそれを激しく後悔することとなる。
*
目覚めてすぐヴァンレードの部屋に行くと、ベッドはもぬけの殻だったのだ。
あわてて部屋を飛び出すと、真っ青な顔をしたギゼルがこちらにやってくるのが見えた。
「ヴァンがいないわ」
「ええ。私もついさっき知ったところです」
「いったい、どこへ行ったの?」
「わかりません。じつは昨日の夜遅くに、国王陛下がこちらにいらしたのです。団長とふたりきりで話されたので、内容まではわかりません。それで、今、陛下におうかがいしてきたのですが、ひどく驚いていらして、何も知らぬとおっしゃられました」
「それなら、早く捜さないと」
だが、ギゼルは即座に首を振った。
「テーブルの上に私あての手紙が置かれていました。そこには団長がいなくなっても、騎士団が混乱しないように、今後の指示が事細かに記されていました。ご自身の決断で姿を消されたのでしょう。私は団長のご決断を尊重したいと思います」
「そんな……。それじゃ、このまま放っておくつもりなの?」
「残念ながら、今の私には、団長を捜すよりもしなければならないことがあるのです」
ギゼルは毅然としていたが、悲壮感の漂うほど悲痛な表情を見れば、必死に自分の感情を抑えているのがわかる。
(この人も、本当はわたしと同じ気持ちなんだわ)
そう気づくと、ルナリアは何も言えなくなってしまった。
「まだいろいろと片付いていないことがあります。これ以上この国のトラブルに関わらずに済むよう、あなたは一刻も早く帰国されたほうがいいと思います。何かわかったら、必ずお知らせしますから」
(でも、ラースに帰ってしまったら、もう彼に会えなくなってしまうかも……)
そう思うと不安でたまらない。
「ルナ」
背後から声をかけられて振り向くと、フェンリルが立っていた。
「カイとマーラは旅の準備が整ったそうだぞ。あとはおまえだけだ」
「フェン?」
「そんなに不思議そうな顔をするな。ヴァンに頼まれている、おまえを無理やりにでもラースに連れて帰れと」
「でも……」
「ここにいても、おまえにできることは何もないだろう? それなら、カイとマーラのためにも、ラースへ帰ったほうがいいのではないか? そのあとで、どうしてもおまえがヴァンを捜したいというのなら、私も協力しよう」
フェンリルの言うことはもっともで、ルナリアもうなずくしかなかった。
「本当に手伝ってくれるのね」
「ああ、約束しよう」
「わかったわ。急いで支度する」
「では、馬車の手配をいたしましょう」
ギゼルがほっとしたように言った。
国王と王妃には言いたいことが山ほどあったが、ここで問題を起こすわけにはいかない。ぐっとこらえてそれぞれにあいさつをすませた。
ギゼルに世話になった礼をのべてから、ルナリアはフェンリルやふたりのリドルとともに、馬車に乗り込んだ。
今は何かわかったら知らせるという、ギゼルの言葉を信じるしかない。後ろ髪をひかれる思いでロイスを後にした。




