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薫香の令嬢はリドルを溺愛する王弟に愛される  作者: 今尾曜


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24 真相 1

 執務室へ向かう途中、布の袋を肩から下げ、マーラを抱いてやってきたフェンリルと出くわした。


「うまくいったようだな。見張りの兵たちはどうした?」


「おまえに頼まれたから殺してはいない。けがの具合まではわからないが」


 冷たく答えたフェンリルだったが、主の姿を見て顔をほころばせた。


「ルナ、無事だったか」


「ええ」


 ルナリアも笑顔で応じたが、マーラが目を閉じてフェンリルにもたれかかっているのを見て、心配になってたずねた。


「マーラは大丈夫なの?」


「眠っているだけだと思うが、声をかけても目覚めない。虫の影響かもしれないな」


「わかった、ルナに取り出してもらおう。これから陛下に会いに行く。マーラをつれて一緒に来てくれ」


 ヴァンレードの言葉に、フェンリルは少しだけ驚いた顔を見せたが、すぐに軽くうなずいた。


   *


 執務室の扉の前には警備の兵がいたが、さいわい、ヴァンレードやフェンリルが彼らの仲間を痛い目にあわせたことはまだ伝わっていないようで、すんなりと中に通してくれた。


 国王は机の前に座っていたが、ヴァンを見るなり怒りをぶちまけた。


「デリクを拘束したと聞いたぞ。いったいどういうつもりだ?」


「仕方がなかったのです。彼はグウェン伯爵を殺そうとしたので」


「なんだと?」 


 さすがに、国王の顔色が変わった。


「王妃様の茶会で起こった事件については聞いておられますか?」


「ああ。デリクがまだ詳細はわからぬと言うので、また明日にでも報告させようと思っていたが」


「では、グウェン伯爵が軟禁されていたのもご存知ですか?」


「王妃は伯爵の身の安全を守るために、禁足したのだと言っていたぞ」


「王妃様はそのおつもりだったのかもしれませんが、デリクは違います。皆の前でルナを犯人扱いしただけでなく、一刻も早く事件にけりをつけるために、彼女を殺そうとしたのです」


「なんということだ」


 ヴァンレードがこれまでに起こったことをすべて話すと、国王は沈痛な面持ちで深いため息をついた。


「陛下にお尋ねしたいことがあります。王妃様が毒を持っていると、誰から聞かれたのですか?」


「それは言えぬ。極秘事項だ」


「調査はされなかったのですか?」


「大事にしたくなかった。私が知っているとなれば、王妃もうかつなことはしないだろうと思ったのだ。それがまさか、このようなことになるとは。グウェン伯爵には申し訳ないことをした」


「陛下、犯人をみつけるためにご協力いただけますか」


「もちろんだ。何を望む?」


 ヴァンレードは振り返って、ルナリアを見た。


「ルナ、すまないが、今ここでマーラの体からコモン虫を取り出せるか?」


「え? よろしいのですか?」


「真実を明らかにするためです。良いですよね、陛下」


 国王は険しい顔のまま、無言でうなずいた。




 ヴァンレードが長椅子の上に、マーラの体をうつぶせにして寝かせた。

 

 ルナリアはフェンリルが用意してくれた道具袋から、先の尖った小さなナイフを二本取り出し、火酒で手早く消毒を済ませた。


 マーラの首筋をあらわにすると、ルナリアはナイフで自分の指に傷をつけ、血のしずくを彼女の痣の部分にたらした。


 すると、痣が大きく盛り上がり、細い触手のようなものが飛び出した。


「リドルの体に入った虫は、自力で外に出ることはできません。ですから、マーラには申し訳ないけど、こうするしかないのです」


 ルナリアはもう一本のナイフで、盛り上がった痣の中央を切った。


 その途端、濃い緑色の液体と共に、体長が五センチほどの真っ赤な色をした虫が飛び出してきた。


 きのこの頭のような丸い体から、二本の長い触手が突き出ている。


「コモン虫です」


 リドルの血液が緑色をしていることはヴァンレードも知っていたようだが、この虫を見てさすがに顔をしかめた。 


「これがコモン虫か。毒々しいほどの赤だな」


 虫がゆっくりとした動きでこちらに近づいてくる。


(嫌だ、来ないで)


 マーラの傷の手当てをフェンリルにまかせ、ルナリアはあわてて自分の傷口の止血をした。すると、虫はぴたりと進むのを止めた。


「コルム虫は元来、リドルの血を好みますが、いちど人の血を与えられると、そちらによりひきつけられるようになります」


 動かなくなった虫を見ながら、国王に向かって説明する。


「宿主であるリドルが血の匂いをかぐと、虫は触手だけを外にのばして、人の血を吸おうとします。それを利用しておびきだせば、このように駆除することができます」


 やがて、コルム虫の背中に亀裂が走り、その裂け目から、赤い羽を持った蝶があらわれた。


「コルム虫は外へ出ると、数時間のうちに死んでしまいます。ですから、救いを求めて、初めに自分の血を与えてくれた人間を捜します。そのために、こうして羽化するのです」


 赤い蝶は羽を広げて空中を舞うと、まっすぐ国王に向かって飛んだ。


(まさか、陛下のもとに行くの?)


 驚いて思わずヴァンを見ると、彼はひどく悲しげな顔をして、まるで何もかもわかっているというように大きくうなずいた。


「説明はもういい。早くこの虫をなんとかしてくれ」


 国王は怒りをあらわにし、大声で叫んだが、ヴァンレードはその様子をじっとみつめたまま少しも動こうとはしなかった。


 振り払おうとする国王の手をすりぬけて、蝶は国王の肩に止まった。


「うわあっ」


 国王は叫び声をあげながら、素手で蝶を叩き落とした。そして、ガウンを脱ぎ、何度もその手を拭った。


 ヴァンレードはようやく縛めから解き放たれたように剣を抜き、床に落ちた蝶にとどめを刺した。


「陛下が虫を使って、イーラを操っていたのですね。なぜ、俺を殺そうとしたのですか?」

 

「違う、殺すつもりなどなかった。王妃がいまだにイルカランの毒を持っていると聞いて、愚かなことを考えないよう警告のつもりで、先んじて毒殺騒ぎを起こしたんだ。もちろん毒ではなく、眠り薬を使うはずだった」


「俺にそれを信じろと?」


 ヴァンレードの声音は、今までルナリアが聞いたことのないほど冷ややかだった。


「王妃様を止める方法なら、他にいくらでもあったでしょう?」


「本当なんだ。信じてくれ」


「……仕方がありません。このふざけた企みの首謀者に話を聞くことにします」


 必死の面持ちで懇願する国王から顔を背け、ヴァンレードは壁際に並んだ書棚の奥に向かって声を掛けた。


「そこにいるんだろう? いいかげん姿を見せたらどうだ、()()()

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