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薫香の令嬢はリドルを溺愛する王弟に愛される  作者: 今尾曜


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23/28

22 追求 1

 日が暮れる頃、夕食が運ばれてきたが、ルナリアはとても手をつける気にならなかった。


 椅子に座ってぼんやりと窓越しに夜空を眺めていると、いきなり扉が開いてデリクが入ってきた。


 侍女を下がらせ、ふたりきりになると、彼は小さな白い紙の包みをルナの前に置いた。


「あのリドルが持っていたのと同じ毒薬だ。これが、おまえの部屋からみつかった」


「何を言っているの?」


「おまえは追いつめられ、逃れられないと悟り、これを飲んで自殺するというわけだ」


「そんな話が通用すると思うの? わたしにはヴァンレード様を殺す理由がないわ」


「そんなもの、どうとでも説明できる。おまえはラースから送り込まれた暗殺者だったのかもしれない」


「ばかなこと言わないで」


「ラースからやってきたリドルが毒を盛ったということは、多くの人が目撃した事実だ。あちらも国がからんだ陰謀だなどと言われたくはないだろう。おまえの病死を受け入れてくれるはずだ」


「嘘つかないで。マーラが毒を入れたところを見た人なんていないでしょう? そうまでしてわたしに罪をかぶせようとするなんて、犯人はもしかしてあなたなの?」


「おまえが知る必要はない。さあ、早く飲むんだ。国王陛下のお耳に入る前にけりをつけてしまいたいからな」


「お断りよ」


 強気なところを見せようとがんばってはみたが、スカートの中の両足は震えている。


(なんとか逃げられないかな……)


 ちらりと扉のほうに目をやったが、あそこまで走ったところで、すぐに追いつかれてしまうだろう。


「ならば、仕方がない」


 デリクは腰にさげていた剣を抜いた。


「逃げようとしたおまえを、私が誤って殺してしまったということにしよう」


 脅しではなく、本気のようだ。デリクの目には殺気が宿っている。


 切っ先を向けられて、ルナリアはじりじりと壁際に追いつめられた。


(罪を着せられたまま死にたくないわ。このままヴァンに会えないなんて嫌よっ!)


「ヴァン、助けて‼」


 声を限りに叫ぶと、デリクの顔に嘲笑が浮かんだ。


「無駄だとわかっているのに、なぜ人は助けを求めるのだろうな」


 だが、その時、急に廊下が騒がしくなった。


「なんだ?」


 思わずデリクは、ドアのほうに顔を向けた。


 扉を大きく開け放って入ってきたのはヴァンレードだった。


 戦いを終えたばかりのように、全身から闘気を放っていたが、なぜか長剣は腰に吊るしたままで、棍棒を手にしている。


 ルナリアに剣が突きつけられているのを見て、ヴァンレードは怒りをあらわにした。


「おまえっ、何をしている‼」


 怒鳴りつけるが早いか、ベルトの間にはさんでいた短剣を抜き、デリクに向かって投げつけた。


「!」


 短剣は右腕をかすめただけだったが、虚を突かれ、デリクは剣を取り落とした。


 すかさず駆け寄ると、ヴァンレードは拳を固めてデリクの顎に強烈な一発をくらわせた。


 相手がふらついたところで、床に転がっていた剣を拾い、鼻先に突きつける。 


「しばらく誰も来ないぞ。廊下にいた奴らはみんな床に転がってるからな」


「あなたひとりで全員を倒したと言うのか?」


「安心しろ、殺してはいない。ちょっとばかり棍棒で殴って気絶させただけだ」


「こんなことをして許されると思うのか。国王陛下に対する反逆だぞ」


「それはおまえのほうだろう? ろくに調べもせずに、ラースからの客人を殺そうとしたんだからな」


「調査ならもう済んでいる」


 デリクは堂々と言い放った。


「リドルが持っていたのと同じ毒が、この部屋からもみつかった」


 しかし、ヴァンレードはいっさい動じなかった。 


「それはどちらの毒と同じものなんだ?」


「何を言っている?」


「カップに入っていた毒と、ドレスからみつかった毒は違うものだったんだよ」


「なぜ、それを……」


 デリクの顔から血の気が引いた。


「最初はおまえが犯人かと思ったが、もしそうなら、こんなおかしなことが起こるはずがない。おそらくおまえは、王宮内でイルカランの毒を持っている人間を知っていた。だから、俺を毒殺しようとした者がいると聞いて、すぐにそいつの仕業だと思い込んだ」


「違う‼」


 デリクは大声で否定したが、ヴァンレードは構わず話を続けた。


「日頃から自分も同じものを持ち歩き、もしその毒が使われたら、犯人をかばおうと決めていた。だから、マーラに罪をかぶせるつもりで細工をしたんだ。その後で、使われたのがイルカランの毒じゃなかったと知って、おまえは愕然としただろうな。だが、このままマーラとルナリアを犯人にしてしまえば、誰も毒の出所など気にはしない。だから、おまえは事を急いだ」


「たいそうな推理だ。だが、どこに証拠がある?」


「ルナを殺そうとしたのが何よりの証拠だと言いたいが、それだけでは不足なのだろう? だったら、おまえがどこから毒を手に入れたのか調べるさ。イルカラン石なんて、俺たちには馴染みのない名前だったが、イルミラでしか産出しない石だと聞けばうなずける。そうだ、王妃様にもうかがってみよう。何かご存知かもしれないからな」


「やめろ、王妃様には関係ない」


 デリクはヴァンレードをにらみつけた。


「そんなわけないだろう。はっきり言ってやろうか。毒を持っていたのは王妃様に違いない。おまえが命がけで守ろうとするのは彼女しかいないからな」


「違う。毒は私がイルミラから持ってきた物だ」


「じゃあ聞くが、なぜいつもその毒を持ち歩いていたんだ? 曖昧な話で逃げられると思うなよ。俺はどんな手を使ってでも真実を明らかにする」


「王家の醜聞を公にするつもりか」


「おまえは俺の大事な人を手にかけようとしたんだぞ。許せるはずがないだろう」

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