↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
探偵は静かに語る……。Lady  作者: てきてき@tekiteki


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
16/18

第16話「おかしな妨害」

 ――翌朝。


あたしは事務所の机に地図を広げていた。

昨日の一件から、技術者を探す方法を少し変えることにした。


正面から探すと、誰かに先回りされる。

なら、こちらから情報を分散させる。


一人に全部を聞く必要はない。

三人に別々の情報を聞けばいい。


「あたし、探偵なんだからね」


地図の上に三つ印をつける。


一つ目は軍用デバイスの修理屋。


二つ目はバイオロイドの部品屋。


三つ目は、違法な情報を扱う情報屋。


この三方向から、海老を扱える人間を探す。

同じ人物に行き着けば、それが答えになる。


「さて、今日は誰が先に逃げるかしら」


冗談半分で言った。

だが、昨日のことを考えれば、半分では済まない。


最初の修理屋へ向かう。

場所は昨日の工房から、それほど離れていない。


バイクを走らせながら、周囲を見る。

街はいつも通りだ。


ネオン。

広告。

ガスマスクをつけた人々。

空気清浄装置の音。

何も変わっていない。


ただ――


「……変ね」


昨日まであった看板が、一つなくなっている。

あたしは速度を落とした。


古い修理店だった。

店主は気難しいが腕がいい。

昨日、端末に残っていた記録では、確かに営業していた。


なのに。

シャッターが閉まっている。

貼り紙もない。


「あら」

バイクを停める。

シャッターの前に立つ。

鍵はかかっていない。

だが、開けようとは思わない。

閉めている理由があるなら、それを尊重する。

ただし――

「中にいるわね」

わずかな振動。

シャッター越しに、機械の音が聞こえる。

小さい。

だが、確かに動いている。

あたしはシャッターを二回叩いた。

コン。

コン。

音が止まった。

「こんにちは」

返事はない。

「昨日の続きなんだけど」

沈黙。

「海老の話」

その瞬間。

中で何かが倒れた。

ガシャン。

「あら」

あたしは少し笑った。

「聞こえてるじゃない」

しばらくして、シャッターの向こうから声がした。

「帰れ」

「昨日もそれ聞いたわ」

「今日は本気だ」

「昨日は?」

「昨日も本気だ」

「じゃあ、今日は何が違うの?」

「状況だ」

短い答え。

「誰か来た?」

沈黙。

「それとも、来る予定?」

沈黙。

「……なるほど」

あたしはシャッターから離れた。

「じゃあ、また来るわ」

「来るな」

「考えておく」

そのままバイクへ戻る。

走り出す。

背後を確認する。

誰も追ってこない。

「今度は、店ごと閉めさせたのかしら」

偶然とは思えない。

昨日、海老を見せた。

今日は店が閉まっている。

それだけなら、偶然かもしれない。

だが、昨日の工房。

消えた技術者。

届いた警告。

そして今日の店。

全部が一本につながっているように見える。

次の場所へ向かう。

バイオロイド部品の取引所。

表向きは普通の商店街。

裏では、かなり特殊な部品が流れている。

店を見つける。

営業している。

「あら、今日は普通ね」

店内に入る。

店員がこちらを見る。

一瞬だけ目が止まった。

だが、すぐに営業用の笑顔に戻る。

「いらっしゃいませ」

「ちょっと聞きたいんだけど」

「何でしょう」

「あたし、あるデバイスを探してるの」

「どのような物でしょうか」

「海老の形」

店員の笑顔が止まった。

ほんの一瞬。

だが、見逃さない。

「あら」

「……海老、ですか?」

「そう」

「食べ物でしょうか」

「違うわ」

「では、何でしょう」

「それを知りたいの」

店員は困ったように笑った。

「申し訳ありませんが、当店では分かりかねます」

「そう」

「はい」

「じゃあ、質問を変えるわ」

「はい」

「あんた、昨日の夜、どこにいた?」

店員の顔が固まる。

「……なぜ、そのようなことを?」

「今の反応が面白かったから」

「……」

「冗談よ」

店員は笑わない。

「帰っていただけますか」

「分かった」

あたしは素直に店を出る。

外に出たところで、端末が振動した。

知らない番号。

通話を取る。

「もしもし」

『その店には、もう近づかないでください』

「誰?」

『あなたのためです』

「親切ね」

『警告です』

「どっちでもいいわ」

『海老を渡してください』

あたしの足が止まる。

「……何?」

『それを持っているから、あなたが狙われている』

「誰に?」

『それは――』

そこで通話が切れた。

「……最後まで言いなさいよ」

端末を見る。

番号は消えている。

履歴にも残っていない。

「あらら」

あたしは笑った。

「便利な電話ね」

そのままバイクへ戻る。

三人目。

情報屋。

ここまで来たら、もう普通の技術者探しではない。

誰が何を知っているのか。

それを調べる必要がある。

情報屋の店は、地下街のさらに奥にある。

入口は小さい。

階段を下りる。

一段。

また一段。

照明が暗い。

下に着く。

そこには、小さなカウンターがあった。

男が一人座っている。

「探偵か」

「あら、知ってるの?」

「この街で知らない奴の方が少ない」

「有名人ね、あたし」

「そういう意味じゃない」

「じゃあ、どういう意味?」

男は答えない。

あたしはカウンターに座る。

「情報が欲しい」

「金は?」

「ある」

「何について?」

「海老」

男が顔を上げる。

「……海老?」

「そう」

「寿司の?」

「形はね」

「食べ物じゃない?」

「そう」

男はしばらく黙った。

やがて、端末を取り出す。

「それを見せろ」

「先に情報」

「無理だ」

「じゃあ、帰る」

「待て」

「何?」

男は周囲を確認した。

「ここで、その話をするな」

「なんで?」

「聞かれている」

「あら」

あたしも周囲を見る。

誰もいない。

客もいない。

店員もいない。

ただ、監視カメラが一台。

「あれ?」

「そうだ」

「監視されてる?」

「この店だけじゃない」

男は声を落とした。

「この街そのものが、お前を見ている」

「大げさね」

「大げさじゃない」

男は端末を閉じた。

「海老を持っている人間を探している連中がいる」

「誰?」

「分からない」

「またそれ?」

「本当に分からない」

「じゃあ、何を知ってるの?」

男は少し迷った。

「店主」

「あの店の?」

「ああ」

「何を知ってる?」

「その店主と敵対している組織がある」

「へぇ」

「一つじゃない」

「複数?」

男が頷く。

「お前が海老を持っていることを、そいつらが知った」

「どうして?」

「知らない」

「また分からない」

「俺だって知りたい」

あたしは少し考える。

「その組織は、海老が欲しいの?」

「たぶん」

「理由は?」

「知らない」

「便利な会話ね」

男は苦笑した。

「だが、一つだけ言える」

「何?」

「その海老を解析できる人間を探すのは、やめた方がいい」

「あら」

「探せば、そいつが狙われる」

「もう狙われてるじゃない」

「……そうだ」

男は黙った。

「昨日の技術者」

「ああ」

「今日の修理屋」

「ああ」

「全部、あんた達が知ってるの?」

「違う」

「じゃあ誰?」

男は答えなかった。

その代わり、店の奥を見た。

「……来た」

「あたしに?」

「違う」

「じゃあ誰に?」

男が立ち上がる。

「逃げろ」

「また?」

「今度は本当に」

次の瞬間。

地下街の照明が、一斉に消えた。

真っ暗になる。

「……」

遠くで足音。

一つ。

二つ。

三つ。

ゆっくり近づいてくる。

男が銃を抜いた。

「あたしの後ろにいて」

「いや、お前が逃げろ」

「なんで?」

「俺は、この場所を知っている」

「なるほど」

あたしも銃を抜く。

「じゃあ、案内して」

「……お前、本当に探偵か?」

「そうよ」

「普通は逃げる」

「普通じゃないから探偵やってるの」

足音が止まった。

暗闇の向こう。

何かがいる。

気配はある。

だが、殺気がない。

あたしは眉を寄せる。

「……この感じ」

覚えがある。

店主の店で感じたものと同じ。

感情がない。

恐怖がない。

怒りもない。

ただ、そこにいる。

「まさか」

暗闇の中で、二つの光が灯った。

ゴーグル。

あたしは銃を構える。

しかし、相手は撃たない。

そのまま、こちらを見ている。

「……眷属?」

男が小さく呟いた。

「知ってるの?」

「ああ」

「じゃあ、話が早い」

あたしは一歩前に出る。

「店主によろしく」

眷属は動かない。

ただ、こちらを見ている。

そして。

「……あ」

バッグの中から、小さな音がした。

カチ。

人形か。

海老か。

どちらかは分からない。

だが、その瞬間。

眷属のゴーグルが、わずかに光った。

「……反応した?」

眷属が一歩下がる。

そして、暗闇の奥へ消えた。

男が呆然としている。

「何だったんだ?」

「さあ」

「追わないのか?」

「追わない」

「なぜ?」

あたしはバッグを見た。

「たぶん、今のは敵じゃない」

「分かるのか?」

「勘」

男がため息をつく。

「それで探偵が務まるのか」

「今まで務まってきたからね」

照明が戻る。

地下街は元の姿に戻っている。

だが、何かが変わった。

今までよりも、はっきりした。

海老を狙っている連中がいる。

店主側も、それを知っている。

そして、その間に複数の組織が存在している。

「あたし、ただ解析できる人を探してるだけなんだけど」

男がこちらを見る。

「それだけじゃない」

「何が?」

「お前が海老を持っている時点で、もう巻き込まれている」

あたしは少し考えた。

そして笑う。

「じゃあ、仕方ないわね」

バッグを軽く叩く。

「解析できる人間を探す」

「まだ続けるのか」

「もちろん」

「命が危ないぞ」

「それは今に始まったことじゃない」

階段へ向かう。

男が後ろから声をかける。

「探偵」

「何?」

「その海老……絶対に誰にも渡すな」

あたしは振り返った。

「それ、依頼人にも?」

男は黙った。

その沈黙が答えだった。

「あら」

あたしは笑った。

「それは面白いわね」

地下街を出る。

外の空気が肺に入る。

ガスマスク越しでも、街の匂いが分かる。

いつもの汚れた空気。

いつもの騒音。

いつもの街。

なのに。

今日は、少し違って見えた。

誰かが見ている。

誰かが探している。

そして、誰かがそれを邪魔している。

あたしはバイクにまたがった。

「さて」

エンジンをかける。

「海老を扱える人間を探すだけのつもりだったんだけどね」

アクセルを開く。

「どうやら、向こうから会いに来てくれるらしいわ」

バイクが走り出す。

その背後。

遠くの建物の屋上に、別の人影が立っていた。

こちらを見ている。

その隣にも、もう一人。

さらに、その後ろにも。

人数は少ない。

だが、動きは揃っていた。

一人が端末を確認する。

画面には、探偵の位置情報。

そして、その横に表示された一つの文字。

「海老」

誰かが指を動かす。

画面が切り替わる。

別の場所。

別の組織。

別の人間。

街の裏側で、静かに何かが動き始めていた。

そして、その中心には。

あたしのバッグに入った、小さな海老があった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。