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探偵は静かに語る……。Lady  作者: てきてき@tekiteki


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第15話 最初の妨害

 バイクを走らせながら、

あたしは端末に表示した技術者の情報を確認していた。


候補は三人。


一人目は軍用デバイス専門。


二人目はバイオロイド関連。


三人目は、どこの企業にも所属していない個人技術者。


どれも一長一短。

できれば、三人目がいい。


企業に所属している人間は、どうしても面倒が多い。


上司、規則、守秘義務。

そして何より、余計なところに話が漏れる。


今回の海老は、できるだけ人目に触れさせたくない。


「あたしだって、

寿司を持って街中を走り回りたいわけじゃないのよ」


バッグの中には、海老の握り寿司型デバイスが入っている。

飛行機乗りの人形も入っている。


どちらも、見た目だけなら奇妙な土産物だ。

問題は、その中身だ。


海老には、亡霊に関する情報が入っている。

人形には、少女の声が残されていた。


そして、その二つは何らかの形で連動している。


ならば、まず海老を解析する。

それが今の最優先だった。


端末に表示された住所へ向かう。

古い工業区画。


企業の管理区域から少し外れた場所だ。

こういうところには、表では扱えない技術者がいる。

表で売れない技術を、裏で売っている連中だ。


モラルなんてものは持ち合わせていないが、

腕だけは確かな場合が多い。


「さて、どんな変人が出てくるかしら」


交差点を曲がる。

その先に、古びた建物が見えた。

看板はない。

入口も小さい。

壁面には古い配線がむき出しになっている。


端末に表示された住所と一致している。

バイクを停める。

周囲を見る。

人通りは少ない。

監視カメラも少ない。


ただ、少なすぎる。


「……まあ、裏の技術屋ならこんなものか」


建物に入る。

エレベーターなんてとっくに動いていない。

下手すれば棺桶状態だ。


原始的だが確実な、階段を上がる。

二階。

三階。

そして最上階。


ドアの前で止まる。

名前は書いていない。

代わりに、小さな金属板が貼られている。


文字はない。

ただ、中央に一本の線が刻まれている。


「趣味の悪い表札ね」


インターホンを押す。

反応がない。

もう一度押す。

やはり反応がない。


「留守?」


ドアノブに手をかける。

鍵はかかっている。

まあ、当然だ。


あたしは端末を取り出す。

連絡先へ電話をかける。


呼び出し音。

一回。

二回。

三回。

そして――切れた。


「……」


もう一度かける。

今度は、最初から繋がらない。


「しょっぱなから、嫌な感じ」


あたしはドアから離れた。

こういう時は、無理に入らない。

技術者がいないのなら、それまでだ。


ただし。


「いないなら、いないで連絡くらいしてほしいわね」


建物を出る。

外に出たところで、端末が振動した。


着信だ。

さっきの技術者からだ。


「今さら?」


通話を取る。


「もしもし」


返事はない。

ただ、雑音だけが聞こえる。

ザッ――、ザザッ──。


「もしもし?」


また雑音。

そして、かすかな声。


「ザッ――、……来るな」


「誰?」


「ザザッ――……もう、関わるな」


「あなた、本人?」


返事はない。

そのまま通話が切れた。


「へえ……」


あたしは端末を見つめる。

今の声の主。

本人かどうかは分からない。


でも、あれは脅しではない。

もっと別のものだった。


恐怖。


あたしには、そう聞こえた。


「なるほどね」


端末をポケットに入れる。


「こっちも、だいぶ人気者になったじゃない」


誰かが、この案件を止めようとしている。

それは分かった。


問題は、誰が止めているのか。

そして、なぜ止めるのか。


あたしはバイクへ戻る。

次の候補を確認する。

軍用デバイス専門。


住所は、ここから十数キロ。


「じゃあ、次」


エンジンをかける。

走り出す。

途中、端末にメッセージが入った。


〈その案件には関わらない方がいい〉


送り主は不明。


「あら」


少し笑う。


「親切ね」


返信する。


〈理由は?〉


送信。

すぐに返ってくる。


〈知らない方がいい〉


「それ、一番知りたくなるやつよ」


また返信する。


〈海老について知っている?〉


今度は返事がない。

既読にもならない。


「あらら」


あたしは端末をしまった。


どうやら、海老という単語だけで逃げる人間がいるらしい。

ますます怪しい。


次の技術者のところへ向かう。

今度は企業の研究施設ではない。


小さな工房。

表向きは修理屋。

軍用機器の修理を請け負っている。


建物の前に到着する。

シャッターは開いている。

中から機械音が聞こえる。


「今度はいるみたいね」


中へ入る。

カウンターの奥に、老人が一人いた。

片腕が義手。

目には古い拡大レンズ。


「何の修理だ」


「修理じゃないわ」


あたしはバッグを見せる。


「ちょっと見てもらいたい物があるの」


老人の手が止まった。


「……何だ」


「これ」


海老を取り出す。

老人は一瞬だけ見た。

そして。


「帰れ」


即答だった。


「まだ何も言ってないけど」


「帰れ」


「せめて説明くらい――」


「それをどこで手に入れた」


声が変わった。

さっきまでの面倒くさそうな老人ではない。

警戒している。


「依頼人から」


「誰だ」


「あたしも知らない」


老人は海老から目を逸らした。


「それ以上、聞かない方がいい」


「さっきも同じことを言われたわ」


「なら、なおさらだ」


「これ、何なの?」


老人は答えない。

あたしは海老をしまった。


「分からないなら、それでいい」


踵を返す。


「ただ、一つだけ聞かせて」


老人が顔を上げる。


「これを見た時、あんたは何を思った?」


沈黙。

老人はしばらく黙っていた。

やがて。


「……あれが戻ってきたと思った」


「誰?」


老人は答えなかった。

その代わり、工房の奥を見た。

あたしも視線を向ける。


そこには、古い端末が一台置かれている。

画面は消えている。


「今の言葉、もう一度聞いていい?」


「忘れろ」


「無理ね」


老人は苦笑した。


「だから探偵なんて嫌なんだ」


「よく言われるわ」


その瞬間。

工房の照明が消えた。


「……?」


暗闇。

機械の音も止まる。

完全な静寂。

老人が立ち上がる。


「伏せろ」


「何?」


次の瞬間。


外から、低い音が響いた。


ドン。


建物が揺れる。


鈍い爆発音。


ただし、衝撃は小さい。

破壊するためではない。

警告だ。


あたしは反射的に銃を抜く。

老人も義手を構える。


「敵?」


「違う」


「じゃあ何?」


「……俺にも分からん」


二度目の爆発。

今度は少し遠い。


老人が窓の方を見る。


「ここから出ろ」


「あなたは?」


「俺は残る」


「それじゃ、あんたが死ぬじゃない」


「もう狙われてる」


老人は淡々と言った。


「お前もな」


「あたしも?」


「その海老を持っている限りな」


「なるほど」


あたしはバッグを軽く叩く。


「人気者っていうのも大変ね」


老人は笑わなかった。


「冗談を言ってる場合じゃない」


「そう?」


あたしは窓の外を見る。


白煙に覆われた路地。


道路を走る車。

そして、その向こうに一台の黒い車。

動かない。

こちらを向いている。


「……あれね」


老人も見る。


「見えるのか」


「見えるわよ」


「なら、もう遅い」


黒い車のドアが開く。

男が二人、降りてくる。


武器を持っている。

ただし、こちらへ走ってくる様子はない。


その場に立ったまま、工房を見ている。


「あれ、何?」


「分からん」


「さっきから分からないばっかりね」


「俺は技術屋だ」


「便利な言葉ね」


男の一人が端末を取り出した。

何かを確認している。

そして、こちらを指差した。


「……あたしを見つけたみたい」


老人が顔をしかめる。


「お前、何を持ってる?」


「海老」


「それを言うな」


「でも、どう見ても海老じゃない」


「そういう問題じゃない」


あたしはバッグを閉じる。


「じゃあ、そろそろ行くわ」


「どこへ」


「次の技術屋」


老人が目を丸くする。


「まだ探すのか?」


「当然でしょ」


「今のを見ただろう」


「見たわよ」


「なら、分かっただろう」


「あたしが?」


「そうだ」


「何が?」


老人は黙った。

あたしは肩をすくめる。


「分からないから、調べるのよ」


それだけ言って、裏口へ向かう。

老人が叫ぶ。


「表へ出るな!」


「分かってる」


「裏も危険だ!」


「それも分かってる」


「なら――」


あたしは振り返る。


「それでも、行くの。

あたしは、そういう人なのよ。知ってた?」


老人は何も言わなかった。

あたしは裏口から外へ出る。


細い路地。

空気は悪い。


ガスマスク越しでも、少し臭う。

走る。

角を曲がる。


さらに曲がる。

後ろから足音。


追ってくる。


「……面倒ね」


あたしは速度を落とす。

振り返らない。

足音が近づく。


そして――突然、止まった。


「……?」


あたしも止まる。


振り返る。

誰もいない。


路地の奥にもいない。

足音だけが消えている。


「何なのよ」


周囲を確認する。

敵は消えた。


追跡を諦めたのか。

それとも、別の理由か。


あたしはバッグを見る。

海老。

人形。


「……あんた達、何なの?」


もちろん返事はない。


だが。

バッグの中から、小さな音がした。


カチ。


「……」


人形か。

海老か。

どちらかは分からない。


ただ、その音を聞いた瞬間。

あたしは確信した。


誰かが、この二つを探している。

そして、あたしが技術者を探すことも知っている。


「だったら、こっちも急がないとね」


バイクの置いてある通りへ向かう。

足取りは軽い。


さっきまでの警戒とは違う。

今度は、少し楽しくなってきた。


「海老一匹で、ずいぶん騒がしくなったじゃない」


バイクにまたがる。

エンジンをかける。


「いいわ」


アクセルを開く。


「誰が先に見つけるか、競争しましょうか」


バイクが走り出す。

あたしはまだ知らない。


今、工房を襲った連中が、店主を敵とする組織の一部にすぎないことを。

そして、この先で始まる抗争が、

あたしの意思とは無関係に、すでに動き始めていることを。

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