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アノマリー -from SCP foundation-  作者: 梶原めぐる
監視記録:重要人物の行動監視及び報告
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ミーム猫⑨

 牧野のO5への要請により行われた特別プロトコルは速やかに実行された。日本支部全館に記憶処理材が噴霧され、例のメールが配信されてから現在に至るまでの数時間の記憶が財団職員達の頭脳から失われた。

 しかし効果は覿面で、ミーム汚染された記憶の領域を除去することに成功したのであった。

 SCiPのその後については、後日調査グループが結成され、改めて調査が行われる事となり、橘が作成したこのSCiPに関しての文章一式は、対ミーム予防措置無しでの閲覧が禁止されることとなった。


 不意に起きたミーム汚染事件。インシデント-040-JP-001と名付けられたそれは、誰でも引き起こす可能性のあった、不幸な事故。

 ――まぁまぁ、財団外に汚染が拡大するのを防げて良かったじゃないか。…………と、このような形で財団職員達の中では一件落着を迎えていた。



 ……数人を除いて。



 

 

 事件が収束した翌日、橘は日本支部の取調室で項垂れていた。結果的に事態は収束したとはいえ、騒動の発端は、橘の不注意によるものであり、ミーム汚染された情報の取り扱いに不備があったのだと上層部は判断を下したのだった。事件の当事者たる橘にヒアリングが行われていた。

 

「ほ、本当に…………申し訳ございませんでした」


 頬を腫らして頭を下げ続ける橘の前には、険しい顔の男――牧野が座っていた。


「本当に分かっているのか?」


 牧野から発せられる一言一言が、橘を責め立てた。ここにいるのは、自分と牧野、それにお付きの財団職員の男1人だけの筈なのに。まるで大勢の聴衆がいる中で、自分の罪を読み上げられているかのようなプレッシャーが彼女を萎縮させた。


「はい、分かっております……。事の重大さに……。」


 そう謝罪を繰り返す橘に、牧野が冷たい言葉を浴びせる。

 

「そうじゃない」


「?」


「裏切られて失望したよ。君はもっとできると思っていた」


「私が牧野さんの事を裏切るだなんて、そんな……!」


 橘が慌てて顔を上げると、冷ややかな目の牧野と目が合った。射貫かれそうな鋭さに、橘がたじろぐ。

 

「いいや、俺の期待を裏切ったんだよ。……あの件はもう無かったことにしよう」


 あの件。

 ――牧野は、橘と取引をしていた。橘が欲しい情報と、彼の欲しい情報をお互いに交換しようといったものだ。

 無論、秘密の取引である。

 

「……!お、お願いです。挽回のチャンスをください。」


 橘が必死に頭を下げる。

 

「君には解雇処分の要請が下っている。財団に甚大な被害をもたらしたのだから、妥当な処分だ。」


「解雇……!それだけは、ご勘弁ください!……有坂の事はより事細かにご報告します!それに、以後このようなことが無いように努めます!」


「それで?」


「そ、それに有益な情報も…………」


「…………」


 沈黙が、気まずかった。暴言で捲し立てられる方が幾分マシだ。


「もういい。……吉田君、彼女を解放したまえ」


「はい」


 後ろに控えていた吉田は、項垂れる橘を引っ張り上げ、自力で立つよう促した。

 彼の目には、小さく膝を振るわせる彼女がなんとも哀れに映った。


「牧野さん!その……私の処分は……?」


「適当にしておく。以後気を付けるように」


「……!有り難うございます!」


 吉田に付き添われ退室する橘を見送り、牧野は溜息を漏らす。

 

「ハァ……」

 

 何年ぶりかに、あの鳴瀬から電話がかかってきたかと思えば、まさか日本支部が大規模なミーム汚染を受けてしまい、橘がしくじったことが明るみに出てしまっていたとは思うまい。

 これは、牧野にとって大きな誤算だった。

 初めて彼女と会った時――使える、と思った。忠誠心が強く、馬鹿真面目。最も扱いやすいタイプの人間だと言うことを牧野は見抜いていた。

 しかし一度目立ってしまうと密やかに行動させるのが一段と難しくなる。どうしたものか、と溜息をついた。


 有坂翔馬の情報は欲しい。

 財団の将来、文字通り鍵となる素質を秘めている。今のうちに彼の分析をして、より効率的に利用できるようデータを集めておく必要がある。その為に配置している橘には、もっと深く探らせた方がいいだろう。


 それにしても――鳴瀬はあの頃から変わっていない。牧野は電話の中身を思い出していた。

 電話口でちょっと話しただけだが、ふざけた人間性と知性が両立する、不愉快な女だ。科学者として優秀なのは理解しているが、同期だからって馴れ馴れしい所だとか、好き放題にやっている実験を経費で落とすだとか、そういった大雑把なところは新人時代からまるで変わっていないのだ。そのくせ、主任研究者として地位を確立しているのだから、困ったものである。橘と鳴瀬を足して2で割ったらちょうど良い具合に……ならないか。


「次の駒を探すべきかな……」


 牧野が独りごちていると、吉田が帰ってきた。


「ご苦労」


「橘とどんな取引をしているのか知りませんが……解雇しなくて良かったのですか?」


 吉田がそのようなことを言うのは珍しい。興味を引かれた牧野の口がつい緩んだ。


「罰を与えたという建前が重要な訳であって、何とでもできる。それに、別に大した取引じゃあない。彼女が知りたがっているのは、実にどうでも良い些細な事なんだから。Dクラス職員の情報を欲しがるなんて意味が分からないね」


「……えぇ。仰るとおりです」


「ハハハ、彼女は目の前に人参をぶら下げられたロバのようなものだよ。頑張る目標ができると、一層頑張れちゃうだろ?」


「……そうですね」


「まぁ、駄目になるまで使うだけだ。無論、君も同様だがね」


「……心得ておきます」



――こうして、この一件は本当の意味を持って収束したのであった。


後書き

この作品はクリエイティブ・コモンズ 表示-継承3.0ライセンスに基づき作成されています。

Author:m0ch12uk1

Title: SCP-040-JP -ねこですよろしくおねがいします-

Source:http://scp-jp.wikidot.com/scp-040-jp

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― 新着の感想 ―
橘の解雇だけで解決しないよねこれって だって検閲センタは暴露した職員が報告書を作る可能性もあるのに対策してなかったもしくはあったけどやってなかったせいで事態は大きくなったから……一番の戦犯って検閲セン…
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