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頭おかドラゴン(あらすじも読め)  作者: アルティ・メット
3/6

トカゲと招かれざる客

熊田の死からおよそ二年の時が過ぎた。


 現在チルは、洋館を囲むように広がる森の中で狩りを行っていた。

 野生の獣すら超える獰猛さで木々をなぎ倒しながら獲物を追う姿は、もはやトカゲの枠を超えているように思えてならない。

 なんせ幾度の脱皮を重ね、その体長は尻尾まで含めると十五メートルを超えているのだから。人なんて軽く一口だ。

 しかし、世話をする人がいなくなったことでチルは、すっかり野生に帰ってしまったのだろうか。

 

「うーん、生肉もいいけど、ちゃんとした料理が恋しいわね」


 今しがた仕留めた鮮血の滴る熊の手を貪りながら、そんことをぼやくチル。

 どうやら杞憂だったらしい。食事こそ、こうして狩りを行うことで賄っているが、今でも住処は変わらず熊田と暮らしたアノ洋館だ。

 

 「ごちそうさまでした」


 グリズリーと並ぶような大きさだった熊をあっという間に平らげてしまったチルは、熊田の教育の成果もあってお行儀よく食後の挨拶をする。

 腹を満たし、食後の運動を兼ねて森の散策をするのがチルの日課であるのだが、


「青木先輩、そろそろ休憩にしません?」


 予定変更。どうやら森に闖入者がやって来たらしい。

 

 熊田が死んでからというもの、こうして森に侵入してくる人間が度々やってくるようになった。

 その多くは、森の獣たちにやられてしまうか這う這うの体で逃げていくのだが、時折り運の良い者や実力のある者たちが熊田の洋館までたどり着いてしまうことがある。

 そして、そう言った者たちは皆一様に、興奮しながら土足で洋館を踏み荒らそうとするのだ。

 それが、ここしばらくのチルの悩みである。


「全く、アタシが魅力的な美少女で興奮しちゃうのは分かるけど、最低限マナーは守って欲しいものだわ」

 

 やれやれと言った具合に首を振って愚痴るチル。そうやって洋館に辿り着いた者たちは、一人の例外もなくチルの手によってお帰り願っている。

 あそこは、チルと熊田の思い出が詰まっているのだ。他人如きに無礼なふるまいを許してやる道理はない。


「しょうがないわね。すこし突いてやれば、あの人たちも帰るでしょう」


 そう言って、チルは出来るだけ音を出さない様に気を付けながら声のする方へと近づいていく。

 招かれざる客の数は全部で四人。大きなリュックサックを背負い、似たり寄ったりの軽装備をした男が二人。紅一点で関羽とかが装備してそうな槍を持つ、背の高い女が一人。

 匂いから察するに男だろう。森には不釣り合いに思える特徴的な黒い全身鎧を身に纏った騎士風の男が一人だ。


「さてどうしようかしら。他はともかく、あの槍女と鎧男は厄介そうね」


 獣の勘か、それともこれまでの侵入者を相手した経験からか。木陰から覗くチルは、四人組をそう値踏みする。

 しかし、何だろう。あの四人組の様子がおかしい。まるで何かを待ち構えているような――


「それで隠れたつもりか」

「っうわ!?」


 突如として目の前に現れた黒い影に、チルは思わず後ろに飛びのく。


「どうしてバレたの?」


 驚愕するチル視界には、隙なく構える四人組の姿と先程まで隠れ蓑に使っていた樹木が、鈍い音を立てながら倒れていく様子が映る。


「トカゲ?が喋った」

「じゃあコイツが……」

 

 明らかに言語を解している風の巨大な爬虫類の存在に、後方の男たちがにわかにざわつき始めた。


「馬鹿が、あれだけデカい音を立てながら近づいてこられたら誰でも気づくわ」

 

 その間も冷静に最前列でチルと相対あいたいする鎧男が、持っている剣で後ろを指し示してチルの質問に答えた。

 チルが振り返ると、何か巨大な獣が無理やり押し通ったせいで、無残にも枝葉や幹が折れた痛々しい木々が。


「……あ、アタシ馬鹿じゃないもん」


 長い沈黙の後、絞り出すように出たチルの苦しい反論が静かな森に溶けていく。


「かわいい」


 それを見て、槍女の口から場違いにもそんな言葉がこぼれ落ちる。


「お二人とも、情報通りならアレが大魔法使いマーリンの眷族です!今は主を失った影響で暴走してるらしいので戦闘は避けられないでしょう。ですが、くれぐれも殺さないよう気を付けて下さい!」


 後方の男、一番年配おっさんでこの集団のリーダーらしき人物から、そんな指示が飛んだ。


 眷族?暴走?チルの語彙にはない言葉だ。しかし、そんなことを考えている場合ではない。

 向こうは完全にヤル気だ。


「了解」


 前に出てきたのは二人。鎧男を最前線に槍女がその後方に就く。残りの二人は、最後衛でおっさんが杖を構え、更にもう一人が、猿のような身軽さで樹に上り、そのまま姿を消した。


 対峙する者たちの間を一陣の風が吹き抜ける。

 それが始まりの合図となった。


「馬鹿って言ったこと、後悔させてあげる」


 最初に仕掛けたのはチルだ。狙われたのは、個人的な私怨を存分に込めて鎧男。

 巨体を感じさせない速度で瞬時に間合いを詰めると、そのままの勢いで体重を乗せるように腕を振るう。

 鎧男はそれを避けるでもなく、左手に持つ盾で向かい受けた。


 凄まじい衝撃音が辺りに響く。

 あれだけの巨体で放たれる一撃だ、想像を絶するような威力だろう。いかにウェイトのある全身鎧を着ていようとも、人間一人分の質量で受け止められるような生半可の物ではない。

 誰もが無残に吹き飛ばされる、哀れな男の姿を幻視するだろう。

 

「え?」


 だが、土煙が晴れた後、そこには信じられない光景があった。

 抉れた地面の中心、そこから少しずれた所にまるで平気な様子の鎧男が立っていたのだ。

 

「なんでっ!?」


 恵まれた圧倒的なフィジカル。それから繰り出される攻撃は、まさに一撃必殺だった。今まで、避けられることはあってもまともに受け止められたことなんて、チルの経験には一度もない。

 普通なら良くても大怪我、下手したら挽肉の出来上がりだ。

 それが僅か数歩分、後ろに後退させる程度の被害で収まっている。

 

「驚いたな、俺を退がらせるなんて」

「う、うぁあああああ!!!!」


 何かの勘違いだと、恐怖を振り切るようにチルは吠える。

 そのまま、釘にトンカチを振るうかのようなラッシュ。

 しかし、やはりいくら打ち込んだところで鎧男には通じない。

 初めて見る、自分の攻撃が効かない相手。チルにはもう、鎧男が得体の知れない化け物にしか見えなかった。


「俺にばかり構っててもいいのか?」


 怖気でのぼせ上ったチルの頭に、冷水をぶちまけるかのような鎧男の声が浴びせられる。


「……へ?」

「ごめんね」

 

 熱い。気が付いた時にはもう、槍女が振るう槍が隙だらけのチルの身体を斬りつけていた。

 鱗がかち割られ、皮膚を切り裂き、チルの横腹にうっすらと血が滲む。

 これも、チルにとっては初めての経験だった。


「い、痛い。痛い痛い痛い!」

「は?」


 致命傷には程遠い、浅い傷だ。その巨体から考えれば、せいぜい紙で指の腹を切ってしまった程度のダメージだろう。

 にもかかわらずこの反応。

 鎧男たちは啞然としてチルを見る。

 

「もうやだ。お家帰る」


 そんなこと構わず大泣きするチル。挙句、こんなことを言い出した。


「おい待て!」

「知らない馬鹿!死んじゃえ!」


 後ろからは、チルを足止めしようと拘束系の魔法が飛んできた。

 他にも樹上からは縄が、おまけに鎧男もチルの尻尾に掴み掛り、好きにはさせないと引っ張る。

 しかし、それらをあっさりと振り切って、チルはあっという間に走り去ってしまった。

 

「スゲー馬鹿力だな。おい、姉貴。何かやったのか?」

「殺しちゃダメって言うから、表面を浅く斬り付けただけ」


 チルの消えていった方角を睨む鎧男と槍女。

 知らない間に弱点部位でも攻撃したのだろうか。

 何しろ情報の少ない相手だ。

 ひとまずはそう言うことにしておくしかないだろう。


 戦闘態勢を解いて四人が集合する。


「準備した足止め用の仕掛け、ほとんど無駄になっちゃいましたよ」

「そう言うな竹中。お二人とも、お疲れ様です。このまま追跡に……と行きたいところでは有りますが、その前に一旦休憩にしましょうか」


 あっさりと戦闘が終わってしまったことで、全く出番のなかった後衛サポートの二人。おかげで体力の消費はほとんどない。

 しかし、前衛の二人は違う。終始チルを圧倒していたようで、結局被害らしい被害はなかったもの、その戦闘力は本物だった。

 鎧男はともかく、軽装の槍女があの一撃を貰っていれば、撤退していたのはこちらの方だっただろう。

 その緊張感を考えれば消耗するのもおかしな話ではない。 

 

「青木さん、俺と姉貴なら大丈夫です。追跡を始めましょう」

「勝手に決めつけるな馬鹿弟」

「なんだよ、疲れたとか言い出すつもりか姉貴?今更か弱い女の子アピールしてもおせーぞ。なんせ道中で散々――」


 お喋りな口を黙らせるように、鎧男の後頭部にパンチがお見舞いされる。


「はぁー。良晴、アンタ後で後で覚えときなさい。……青木さん、私も大丈夫です」

「ハハハ、心強い。さすがはA級クラス職員、と言ったとところですね」


 一週間前の初顔合わせの時には見れなかった鎧男改め良晴よしはるとその姉、きくの素の部分が垣間見え、青木は家で待っている家族の顔を想起した。


「(帰ったら、娘を遊園地に連れていく約束だったな)」


 青木さん、それアカンやつですよ。


「あ、青木先輩。追跡始める前に仕掛けの回収だけしてきていいっすか?」

「あっ?早く行ってこい!すいません二人共。やっぱり、一旦休憩にしましょう。コイツの用が終わるまでゆっくりしてて下さい」

「えー、ちょっ青木先輩。それじゃ俺だけ休憩無しってことじゃないですか!」

「うるさい。さっさとやれ!」


 手を振って追い払う青木に、へーい、と気のない返事をする竹中。

 腕は悪くないのだが、ノリが軽すぎるのが玉に瑕である。

プロ作家は一時間で三千字書くって聞いて戦慄した。

プロ変態じゃん。

ちなみにアルティ・メットは一日かけて三千字も行けたらいい方。

しかもこのクオリティ、解せねぇ。

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