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頭おかドラゴン(あらすじも読め)  作者: アルティ・メット
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キチガイ老人死す

 ある日のこと、ネット上に数あるブログの一つが更新された。

 そのブログのタイトルは、「マーリンのグリモア日記」。久方ぶりの更新に人々は沸き、そして悲しみに暮れることになる。


 呪われた世界で傷ついた人類に力を――魔法を齎してくれた偉大なる始まりの魔法使いマーリンが、自らの死を予言したのだ。

 『強大な魔獣を封印した際に負った傷が癒えず、もう間もなく私の命の灯はけてしまうだろう』と。

 彼のマーリンでさえ封印という消極的な解決方法しか取れなかったと言う大魔獣の存在に、人々は暗雲の立ち込める未来を予見する。 

 されど希望は残されていた。


 ブログの続きにはこう記されている。

 『最後に私の全てを込めたグリモワールを人類に託す。

 今までとは一線を画す魔導の最奥が記されたコレは、相応しきものには絶大な力を、資格なきものには大いなる絶望を与えるであろう。

 我こそは魔導の極致に至らんと志すもの達よ、私のグリモワールを託すに値するか、その証拠を示せ。

 私に変わり、我が眷族がそれを見届けよう』


 この言葉が人々を冒険へと駆り立てた。

 世はまさに大☆冒険時代!




 チル・ナントカ・カントカこと通称チルは、白い布で包まれて運ばれる熊田を見送っていた。


 チルがうっかり熊田のUSBを飲み込んでしまってから暫く後のこと。

 いつものように誰に見せるわけでもないのにカッコいい振る舞いを練習していた熊田はその日、長いローブを身に纏って威厳を感じさせる階段の下り方を研究していた。

 そんな時、事故は起きる。熊田が長いローブの裾を踏んずけて階段から転げ落ちてしまったのだ。

 頭を強く打ってしまった熊田は、思いのほか重傷を患い左半身が痺れて上手く動かせなくなってしまう。

 満足に立ち歩くことも出来ず、杖を突いて歩くようになった熊田。

 まさか衝動買いしてしまったカッコいい杖をカッコつける以外の用途で使うことになるとは、完全に予想外である。

 しかし、それでも「案外いけてるかも」とか言いながら自撮りするくらいには元気だった。

 まったく、しぶといジジイだ。


 だが、やはり年齢が年齢であるだけに怪我はなかなか癒えることなく、それどころか悪化していった。

 徐々にベットの上で過ごす時間が長くなってゆく。

 あぁ、自分はこのまま死んでしまうんだろうか、と柄にもなく世を儚んでいた時、熊田の元に喜ばしい奇跡が起きる。

 なんと実の娘の様に愛情を持って育てていたトカゲのチルが喋ったのだ。


 初めての言葉は「パパ」、熊田がチルちゃんに話しかける時に自らを指して言う言葉だ。そう、熊田はチルに話しかける時、ゲロ甘の赤ちゃん言葉で話しかけるのである。

 だけど、まさかトカゲが人語を話すようになるとは、あらためて世界が変わってしまったのだと実感させる出来事だ。

 

 熊田は大層喜んで、これまで以上にチルを溺愛した。起きてる間は、なるべくチルとおしゃべりし、色々なことを教えた。

 部屋にある道具の名前や使い方だったり、文字の読み方だったり。

 ある時は、わざわざ知人に頼み込んで届けてもらった幼児向けアニメの鑑賞会も開いた。

 チルもチルで、そんな風に過ごす熊田との日々は楽しんだ。

 特にご飯。喋れるようになったことで、熊田に以前から気になっていた人間の食事をおねだりしたのだ。普段は解凍マウスばかりだったが、初めて口にした人間用の食事は、筆舌に尽くしがたい感動を与えてくれた。


 しかし、そんな幸せな時間は僅か二ヶ月程度で終わりを迎えてしまう。いよいよ熊田の容態が危うくなっていたのだ。

 呂律も回らず、もはや会話も成り立たなくなったころ、熊田はチルと過ごす時間もそこそこに、何かに憑りつかれるように屋敷の改造を始めた。


 チルには熊田が何をしているのかは理解が出来なかったし、自分の相手をあまりしてくれなくなったことに寂しさを覚えていた。

 だが、獣の勘から熊田がもう長くないこと悟り、何も言わず後ろから背中を眺めているだけにとどめる。

 

 そして、熊田がとうとうその命を終えようという頃。定期的に屋敷を訪れていた、熊田の知人だと言う女と、その連れらしき男がやって来たのだった。

 

「人って死んだらどこに行くの?」

「……イっ!」


 そこそこデカいワニと同じくらいのサイズで厳つめ顔をしているトカゲから、まるで萌え声生主のような愛らしい声が飛び出し、童顔の青年は激しい解釈違いから言葉に詰まる。


「そ、そうだね。マーリンさんほどの人であれば、きっとヴァルハラに招かれるんじゃないかな。(喋るとは聞いていたけど、まさかこんな可愛い声をしてるなんて。と言うかメスだったんだ)」

 

  どうやらこの青年も熊田と面識があるらしい。しかも、尊敬に近い念まで抱いてるようだ。


 そのすぐ近くでは、奇天烈な格好をした女が、熊田の墓穴を掘りながら号泣していた。


「マーリンさんの馬鹿!これからじゃない。これからもっと世界が面白くなるっていうのに……早すぎるよ!」


 本気で熊田の死を悲しんでいるようだ。孫とお祖父ちゃんくらい年が離れた知人。いったいこの二人と熊田は、どんな関係だったのだろうか。

 少なくとも、ゴリゴリの日本人顔である熊田を指してマーリンと呼ぶことから、彼女たちは奴と同類なのかもしれない。


「そっか、パパは凄いかったんだね」


 チルの縦長い瞳孔をしている瞳から涙が溢れだす。やがてそれに、獣の唸り声のような嗚咽が混じり始めた。


 棺の中で眠る熊田は、とても穏やかな顔をしている。


「最後のお別れだよ、チルちゃん。マーリンさんに何か言ってあげて」

「……うん。バイバイ、パパ。アタシ頑張って生きるから、ヴァルハラで見守っててね」


 ローブや杖など、生前熊田が愛用していた遺品と共に花束を入れてやってから、熊田の棺に土が被せられていく。

 やがて完全に見えなくなってしまった後、熊田が特に気に入っていたアニソンが辺りに響いた。


「チルちゃん、私たちと一緒に来ない?」


 独自の形式が目立つ葬式が終わると、女がチルに手を差し伸べて問う。


「ううん、ここにいる。ここには、パパとの思い出がいっぱいあるから」

「そっか。マーリンさんにチルちゃんの事頼まれてたんだけど、うん。その方がいいかもね」


 きっといい人なのだろう。熊田の死を、化粧が崩れるのも気にならないほど悲しんでくれるのだから。

 それに二人とも裕福そうだ。青年の服は仕立ての良いスーツだし、女の方もデザインこそ奇天烈なものの、見るからに金がかかっている。そんな服が泥で汚れても何も気にした様子がない。


 きっと二人に付いて行けば、熊田と過ごした時よりいい生活が出来るのだろう。

 だが、チルはここを離れたいと思わなかった。少なくとも、もうしばらくはここで過ごしていたい。そんなセンチメンタルな気分だった。


「時々、様子を見に来るから」

「ありがとう。お姉さん。それとお兄さんも」

「また会おう、チルちゃん」


 そう別れを告げてから二人は、テレポートでその場を後にした。

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